第120話『チワワを連想する世代』







「エルの生徒を紹介してくれるの!?」


 目を輝かせるデルフィーヌ。


 エルラルキの生徒ってそんないいもんなのか?


「吾輩の研究室にいる連中はどいつもこいつも平民だったり爵位が低かったりするせいでなかなかいい就職先を見つけられずにいてな? 能力は吾輩のお墨付きなので、ぜひ見てやって欲しいのだよ?」


「提案はありがたいが、コネだけで選ぶつもりはないぞ?」


 念のため釘を刺しておく。


 当人たちを見ないことには判断できないからな。


「もちろん、そこはちゃんと人となりを見てから判断してくれて構わないのだよ?」


 自信たっぷりに答えるエルラルキ。

 まあ、帝国で高名らしい彼女が太鼓判を押すのなら期待していいのかな?

 彼女の生徒以外にも全体募集はかけるつもりだが、ひとまず胡散臭くて誰も集まらないということは回避できそうだ。


「ところでなのだがね…………」


 エルラルキはデルフィーヌをジッと見つめた。

 それは何かを訴えかけようとしているような視線だった。

 ちなみに俺は視線で訴えかけてくるといえばチワワを連想する世代です。


「エル、わかったわよ……これからは時々だけどちゃんと連絡するから……」


「いいや、その必要はないのだよ?」 


 エルラルキは首を横に振ってキッパリ言った。


「え?」


「なぜなら、吾輩もニコルコに行くつもりなのだからな?」


「ええっ? あなたが?」 


 デルフィーヌが驚きの声を上げた。


 俺も驚いた。


「むぅ、吾輩では不服かなのだよ?」


 むくれた表情をするエルラルキ。


「い、いえ、あなたが来てくれるならこれ以上ないくらい心強いけど……。あなたはこの学校に研究室を構えているでしょう?」


「うむ、だが、デルフィーヌですら手余す逸材が大勢いる領地となれば実に興味深いではないかだよ? それに……」


「それに?」


 デルフィーヌが訊くと、エルラルキは決まり悪そうに、


「実は近頃、吾輩に圧力をかけてくる輩が多くてな?」と、答えた。


 事情を聞くと、エルラルキは彼女の研究室に入れろと言ってきた不真面目な貴族の生徒を爵位に忖度せず追っ払っていたらしいのだが、そのことを逆恨みした連中が次第に積み重なっていき、やがて途方もない人数にまで増えてしまったらしい。


 そして、そいつらが徒党を組み、今では学園長でも押さえ込めなくなるほどの一大勢力となって実家パワーでエルラルキにねちっこい嫌がらせをしてくるようになったのだという。


 おまけに卒業して家督を継いだ者にも未だ根に持ち続けて嫌がらせに加担する輩がいるらしく、もはや収集がつかなくなってほとほと困り果てているのだとか。

 

「やれ、賢女だなんだと持てはやされたところで結局吾輩は貧乏男爵家の次女でしかないのだよ? 大勢の上位貴族に睨まれては満足に研究できたものではないのだよ……」


 項垂れるエルラルキ。

 はえ~。

 どこの国にもみみっちいことをする連中はいるもんだな。


 人の足を引っ張る時間があれば自己研鑽したほうがよほど生産的だろうに……。





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