第119話『罪悪感すごいっすわ。』









 ハルンケア8世が召喚妨害に加担し、魔王と繋がっていたこと。

 俺が本物の勇者であること。

 ハルンケア8世から突きつけられた条件。


 ニコルコで反撃の体勢を整えている最中であること。

 

 デルフィーヌはそれらを二人に包み隠さず打ち明けていく。


 きっとデルフィーヌにとって、学園長とエルラルキは信頼できる相手なのだろう。


 こうやって話すのは、突拍子もない事実でも信じてくれると思える間柄なのだろう……。



「そういうわけで、実家は取り潰されたけどあたしは奴隷に落とされてないし、ジローは粗暴で残忍じゃないわ」



「…………!」


「…………!」



 すべてを聞いたエルラルキと学園長は言葉を失った。

 そして、



「こ、公国はなんということをやらかして……信じられん……! だから吾輩は言ったのだよ!? 魔王なんかが存在する国になど帰らず、帝都で吾輩と魔法の研究に打ち込もうではないかと! 君ほどの魔導士が魔物を倒す戦いの旅で時間を浪費するなど、魔術の発展における大きな損失だと! そういう荒事は威力の高い魔法をぶっ放すだけしか能がないボンクラ魔導士にやらせとけばいいのだよと!?」



 荒ぶるエルラルキ。



「これこれ、フルバーニアン女史、お、落ち着きなさい……」



 学園長は大して威厳のなさそうな言い方でエルラルキを宥めた。



 どうやら二人は驚いているけど速攻で信じてくれたみたいだ。

 エレンの父親であるブラッド氏は相当悩んでから結論を出してたのにね。

 まあ、彼女たちは公国の人間じゃないしな……。


 公国の貴族と違って、受け入れるのにさほど抵抗がないのかもしれない。


 よく知らない他国の王様より、よく知る友の言葉ということで。


「しかし、シリウス殿が処刑された噂が本当だったとは……」


 学園長は故人を悼み、しんみりした空気を醸し出していた。

 俺はソレを見てなんとも言えない気分になった。

 だってシリウス氏、本当は生きてるからね……。


 秘密にするって本人と約束してるから言えないけど。

 罪悪感すごいっすわ。


「返事がなかった理由はわかったのだよ? 責め立ててすまなかったのだよ、いろいろ大変だったのだな……ドランスフィールド?」


 冷静になったエルラルキがデルフィーヌに言った。


「うん、でもジローが助けてくれたから今は割と元気でやれてるわ」


 …………。


 二人の様子を見るに、ちゃんと話して正解だったようだな。

 丸く収まってよかった。







 現状の説明が済んだので本題に入る。


 テーブルを挟んで向かいあって、交渉が始まった。


「それで、ヒョロイカ辺境伯、デルフィーヌさん。今日学園を訪れたのは領地の子供たちを指導する教師の募集をしたいということでよかったのですね?」


 学園長が俺とデルフィーヌに確認してきた。


 どうやら守衛っぽい人のところから話は通っているようだ。


「はい、ニコルコには魔法の才能溢れる子供が大勢いるのですが、もう私一人だけでは教えることが難しくなってしまって……」


「ほう、デルフィーヌさんが一人で教え切れないとは。ニコルコにはそこまで多くの逸材が揃っているのですか? いやはや、どうやってそれほどまで才能ある者を集めたのです?」


 集めた?

 うちにいるのは全員地元出身選手ですぜ。

 ニコルコはフランチャイズな領地運営をしております。


「しかし、一つの領地に魔道士の素質を持つ平民が集中するなど俄に信じがたいのですが……」


 学園長、疑っておいでです。


「クラフト先生、信じられないかもしれないですが本当のことなんですよ……。どうしてそうなってしまったのかはわからないんですけど……」


 デルフィーヌはチョコチョコと横目に俺を見ながら言った。

 やべえな、まだデルフィーヌに怪しまれてる……。 

 くそっ、どうすればいいんだ……!


 まあ、別にどうもしないけど。

 最近気づいたんだよね。

 そもそも原因が俺のスキルだったとして何か問題ある? って。


「おい、そんなことより、その教師というのは一体どういう基準で選ぶつもりなのだよ?」


 まだ部屋に残っていたエルラルキが話に入ってきた。

 話題の転換、助かる。

 で、これ、俺に言ってんの?


 視線が俺のほう向いてるし。

 まあ、雇用主は俺だもんな。

 ここはサクッと答えてやろう。


「教師に求める条件は仕事に真面目に取り組めて、子供たちに魔法を教える能力があることだ」


「ふむふむ……血筋や生まれは不問と判断していいのかだよ?」


「ああ、構わない」


 貴族としてのプライドばっか高いやつとかマジでいらないからな。

 例えるなら勇者パーティ候補だったフランク・フルティエット。

 ああいう輩は絶対に採用したくねえンだわ。


「そうか、うむむ……では、吾輩の研究室に所属する生徒たちを推薦してもいいだろうか?」


 俺の返事を聞くと、エルラルキはそんな提案してきた。







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