第121話『眼鏡を外したらってやつですね』
「そういうわけでヒョロイカ辺境伯、吾輩も貴方の領地に連れて行って欲しいのだよ?」
「いや、でもなぁ……」
上位貴族から目をつけられているとはいえ、彼女は学校をクビになったわけではない。
ゴルディオンやシルバリオンみたいな追放組と違い、エルラルキを連れて行ったら引き抜きになっちゃうのでは?
求人募集をしたいのに学校側と軋轢を生むような真似はしたくないのだが……。
そう思っていたら、
「ヒョロイカ辺境伯、どうぞ遠慮なく彼女を持って行ってやって下さい」
学園長のほうから差し出された。
「おいジジイ! 持って行けとはなんなのだよ? 人をモノみたいに!」
エルラルキのクレームは置いといて。
「えーと、いいんですかね……?」
「はい、今の学園だとフルバーニアン女史は思うように研究ができませんから。前々から、どうにか策を打たねばと頭を悩ませていたところだったのですよ」
「でも、エルラルキは帝国にとって得難い人間なのでは? そんなあっさり他国の貴族に渡して大丈夫なんです?」
「そこはご心配なく。賢女を他国に逃がしたことに対する叱責など、莫迦者どもを黙らせる困難さと比べれば何ということはありません。むしろ、連中に責任の所在を押しつけてやれば大人しくさせるいいきっかけとなるでしょう」
俺の疑問にフォフォフォと笑って返す学園長。
そういうもんなのか?
ま、この学園長にとってはそっちのほうが立ち回りやすいということなのだろう。
知らんけどさ。
「ほとぼりが冷めるまでは勇者であり、デルフィーヌさんも信頼する貴方のもとに預かって頂くのが彼女にとって最良だと私は判断しました。どうぞ、我が弟子のエルラルキ・フルバーニアンをよろしくお願いいたします」
学園長は俺に頭を下げた。
ああ、完全移籍じゃなくてレンタル移籍的なやつなのね。
それでもありがたいことではあるが。
というか、学園長とエルラルキって師弟関係だったのか。
「じゃ、そういうことなら……」
「ふふ、吾輩が赴くからにはニコルコの魔法は確実に発展するのだよ? デルフィーヌと吾輩が組めば向かうところ敵なし、なのだよ? ヒョロイカ辺境伯?」
エルラルキは瓶底の曇った眼鏡を外し、ウィンクしながらそう言った。
エルラルキの素顔はちょっと眠たそうな垂れ目の美少女だった。
はいはい、眼鏡を外したらってやつですね。
お約束お約束。
こうして、就活にあぶれた生徒から掘り出し物を探しに行ったら、帝国で賢女と呼ばれる高名な魔道士が領地にくることになった。
求人募集も無事受理されて、ひとまず帝国でやる用事は終了。
俺とデルフィーヌは帰りにちょろっと帝都を観光し、それから転移でニコルコに戻った。
面接とかのためにまた訪れる必要はあるけど、もう帝都の場所は把握したからな。
転移を使えば一瞬で行き来できる。
わざわざ滞在し続ける必要性はないのだ。
転移スキル最強!
ちなみにエルラルキは彼女の支度が整う頃合いを見計らって後日迎えに行く予定である。
忘れないようにしないと。
「上手くいきそうでよかったわね、ジロー?」
「ああ、そうだな」
…………。
あれ? これで終わりなのですか……?
学園編は? 学園編はどこ?
成り行きで俺が入学しちゃったりしないの?
よくある、正体を隠して学校生活を送り始める展開とかあると思ってたのに……。
チートの魔法を披露して『俺の魔法がおかしい? 弱すぎって意味だよな?』とかとぼけてみたかった。
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