第45話『ユリナール・ハルンケア8世』
-謁見の間-
俺たち四人は赤い絨毯の上で傅いていた。
玉座には小太りのおっさんが座っている。
こいつが王か。
両隣に並んでいるのが宰相とかのお偉いさん連中かな。
「余がハルン公国国王、ユリナール・ハルンケア8世ぞ。面を上げるがよい……」
小太りのおっさんに言われ、俺たちは頭を上げる。
小太りのおっさんは王冠を被ってマントを羽織り、杖っぽい何かを持っていた。
いかにも王様っぽい格好である。
……えーと、どのタイミングで話していいんだっけ。
向こうがいいよって言ったら喋っていいんだっけ?
謁見の前に最低限の作法を聞いたんだけどな……。
どうでもいいことに関しては記憶があやふやになる。
「そちがジロー・ヒョロイカだな? 此度は魔王とその幹部を一人で討ち、魔王軍壊滅に多大な貢献をしたと聞く。誠に大儀である」
国王が偉ぶった口調で言う。
ヒョロイカじゃないんですけど。ヒロオカなんですけど。突っ込んでいい?
デルフィーヌに目線を送ると睨まれた。
ダメなのか。しゃーないのう……。
「ははぁっ、ありがたきオコトバー」
とりあえず、めっちゃ棒読みだが適当に返事をしておく。
国王は機嫌よさそうに頷き、
「本来は勇者でなければ倒せぬ魔王を倒したのじゃ。そちには褒美として上級貴族の爵位と広大な領地をくれてやる。ありがたく受け取るがいいぞ」
ん? 本来? ちょっと言い回しがひっかかる。
それではまるで――
「陛下! このヒロオカ殿こそが真の勇者ですぞ! その言い方では彼が勇者ではないように聞こえてしまいます!」
ブラッド氏が俺の気持ちを代弁してくれた。
せやせや、俺が勇者なんやで?
「エアルドレッド卿……。そちはこやつが勇者と申すか?」
「陛下にも使いの者を通してそのように伝えていたはずです。……もしや、伝達に不備がございましたか?」
「いや、その報告は間違いなく聞いておる……じゃが――」
じゃが? りこ?
「――じゃが、そこの男が勇者である証拠はどこにあるのかのう?」
王はヒゲを撫でながら優雅な調子で答えた。
……は?
「ひょっとしたら、この者はとてつもなく強いだけの冒険者かもしれんではないか? 我々の勇者召喚は愚鈍な魔導士のせいで失敗しておるのじゃ。あの日、召喚の場に現れなかった者をどうやって勇者と認めろというのじゃ?」
王の言葉にデルフィーヌがぴくっと反応する。
このデブ王め、言い方を少しは考えろよ。
「その件につきましても、封書にしたためて陛下にお伝えしたはずですが……?」
ブラッド氏が憤りを押し殺したような声音で静かに言った。
詳細は省いているとはいえ、報告したうえでこの反応とは……。
俺は辟易しつつ、アイテムバッグから切り取った床の一部を取り出した。
こうなったらブツを見せて現状をわからせるしかない。
「むむっ!? なんじゃそれは?」
「この魔法陣は魔王城の床にあったもの……。これには勇者召喚に介入する術式が組み込まれています。しかし、魔法陣が効果を発動するためにはある条件が必要です。詳しい説明はこちらにいるデルフィーヌが――」
「……必要ない」
「は?」
国王の言葉に俺は耳を疑った。こいつ、今なんつった? 必要ないって?
デルフィーヌがたまらず割り込んで叫ぶ。
「へ、陛下! ですが、この魔法陣の発動にはあらかじめ対象の魔法陣を知っている必要があって……城の何者かが漏らした可能性が――ッ」
「喧しいぞ! これから奴隷に落ちる者が気安く余に声をかけるでない!」
国王はものすごい剣幕で怒鳴り散らした。
「ど、奴隷……? 陛下、な、なぜですか……」
デルフィーヌは顔を青くさせて崩れ落ちる。
「ふん、他国の勇者どころか冒険者風情に先を越されて恩赦があると思うたか?」
「で、ですがジローは勇者で……召喚は成功してて……」
「余は、そこの男を勇者だと認めておらん! 何を勝手に許された気になっておるか! しかも言うに事欠いて城に裏切り者がいるじゃと? 馬鹿を抜かすな!」
「しかし……」
「もし仮に魔法陣を漏らした者がいるなら、それは処刑された貴様の父親ではないのか? 無能な魔導士と余に尽くす優秀な臣下。どちらを信じるかは歴然じゃろう?」
王の容赦ない言葉。
デルフィーヌは震えて何も言えなくなってしまう。
見ればその目には涙がたまっていた。
おのれ、いたいけな少女を泣かせおって――
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