第44話『さあ行こう、王都へ』



 王都に行く前にやるべきことをやっておく。

 何をするかって?

 そりゃもちろん、土壁に閉じ込めた魔物の回収作業よ。


 ふふ、大量だ。また儲けてしまったぞ。

 相変わらず異世界チョロイぜ。ウッハウッハなのじゃ~。

 そういえば今回の戦いでこの街の冒険者たちの懐はかなり潤ったらしい。


 街の景気上昇に繋がるとエレンが喜んでいた。


 よかったね。





 やることは済ませたし、さあ行こう、王都へ。


「いや、待ってくれヒロオカ殿。そんな気軽に出発できるものではない。馬車の手配や食料の準備などもある。それに王城へ行くなら早馬を出して要件をあらかじめ伝えておかねば」


 ブラッド氏がその気になっていた俺に水を差してきた。

 おいおい、今はそんな悠長なこと言ってる場合じゃないだろ?


「王都には馬車では行きません。これを使います」


 俺はアイテムバッグからベッドをポーンと取り出す。

 飛んできゃすぐ着くのになぜ地上をノロノロ走らんといかんのですか。


「あ、必要なら使用人の方も何人か連れてっていいですよ」


「…………」


「父上、仕方ないです。ヒロオカ殿はこういう方です」


 エレンが唖然とするブラッド氏を窘める。


「エレオノール……。お前はいつの間にか逞しくなっていたのだな……」


 娘の成長を実感してるブラッド氏。

 イイハナシダナー。




 ベッドでヒュンヒュン、空の旅。本来は馬車で数日かかる王都への行程だが、ベッドによる移動はその何倍も早かった。途中で休憩を挟みながら俺たちは半日かからず王都まで到着した。


「ヒロオカ殿! さすがにこのまま王都に入るのはマズイ! 一回降りよう!」


「ジロー! やばいわよ! 警戒されてる!」


 王都のデカい門の上をそのまま超えようとしたらエレンとデルフィーヌに全力で止められた。


 下を見ると弓矢を構えた騎士たちがいた。

 うーん、なんかデジャヴ……。

 このまま王城まで乗り込むつもりだったんだが、やめとくか。


 規格外な登場は勇者らしさをアピールするいいチャンスだと思ったんだけど。



「ジロー様ならあの程度のやつらなど……」



 ベルナデットが不穏なこと言ってる。


 しないよ。そんなことはしない。なんのことかは知らないけど。

 とにかくしない。



 俺たちは普通に門を潜り抜けて王都に入った。



 ブラッド氏の名で王城へ使いを出す。

 王に謁見する許可はすぐ下りた。

 城までは馬車を使って赴くらしい。

 

 歩いて行けない距離ではないけどマナー的なアレでそうするんだってよ。

 ちなみにベルナデットはお留守番。

 エアルドレッド家が王都に所持する屋敷で待っていてもらうことになった。


 奴隷を謁見の間に入れるのはあまりいい顔をされないんだと。

 無理やり連れてって不快な思いをさせる必要もないしな。

 ベルナデットは不服そうだったが、ここは我慢してくれよ。




 馬車に揺られてゴトゴト。


「あれが王城か……」


 窓から外を眺める。

 某ネズミの王国にありそうなでっかいキャッスルが王都の真ん中にそびえ立っていた。


「…………」

「…………」

「…………」


 デルフィーヌとエアルドレッド親子は緊張した表情になっている。

 空気が重い。

 なにか和ませるギャグでも言ったほうがいいのかな。

 

 けど、スベったら嫌だなぁ……。


 そんなことを考えてるうちに馬車は王城に辿り着いていた。

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