第46話『選択は二つに一つ』


「お待ちくだされ、陛下!」


 ブラッド氏が援護に入った。

 せやせや。ブラッド氏、なんか言ったれ!


「ヒロオカ殿は我々の目の前で魔物数千体を一人で殲滅し、ヒザマを軽々葬り去りました。これほどまでに圧倒的な力を持つ者は勇者以外に考えられません!」


 そうだ! 俺のすごさを語りつくせ!

 もっと称賛するのだ! 激しく褒め称えよ!

 ……なんか違うか?


「ま、魔物を数千体だと……!?」


 俺の戦果を聞き、王が動揺を見せる。周りの家臣たちも同様に。

 そう、動揺だけに……。


「陛下――」


 国王の隣にいた宰相らしき男が耳打ちをする。

 む、何を吹き込んでいる?


「ほうほう……」


 頷きながら笑顔が戻っていく小デブ王。

 王はイキイキした表情で意味不明なことを言い出した。


「そうじゃ! そのヒョロイカという男には帝国の間諜である疑いがかけられているのじゃ! 証人もおる! 出てくるがよい!」


 国王が手を鳴らして呼びかける。

 誰だ、あることないことホラを吹きやがったのは!

 どこのどいつだフランスだ!


「失礼します」


 あ……。

 扉を開けて部屋に現れたのは冒険者ギルドの秘書っぽい女性だった。

 名前は……聞いたような気がするけど忘れた。


「私は最前線の街、ウレアの冒険者ギルドで秘書を勤めているローリングです。私は彼がヘルハウンドを街に持ち込んだ際、その場にいたのですが……彼の所持するアイテムが公国では見慣れないものだと気が付きました。そこで『そのバッグは帝国のものですか?』と聞いたところ、彼は肯定する発言をしたのです」


 淡々とギルドの女性は言った。

 へえ、あの街、ウレアっていうんだ。いまさら知ったぜ。

 てか、あんたこんなことをチクるために王都まで来たの?


 陸路で来るのは時間かかっただろうに。


「――ということじゃ、わかったかのう?」


 国王がドヤ顔を向けてくる。

 わかったか……って。

 あの場で魔王から奪ったんですなんて言えるかよ。


 下らなすぎて論ずるに値しない。

 だが、ここは王政、王が黒と言えばそれは黒になる。


「さあ、選べ! 己を勇者であると言い張り、罪人として捕らえられるか。いち冒険者として爵位と領地を受け取るのか!」


 このクソデブ……『選べ!』だと? 面白いこと言ってくれんじゃねーか。

 俺はもうピキピキですよ。

 どうすっか。どうしてやりましょうか?


「陛下! 裏切り者がいるかもしれないのですぞ! 野放しにしておけば公国の綻びになりかねません! どうか考え直してくださいませ!」


「エアルドレッド卿! 黙らんか! それ以上は謀反の意思ありと見做すぞ!」


「ぐっ……!」


 ブラッド氏の抗議もあえなく押し潰される。

 どうしてこいつは頑なに俺を勇者と認めず、裏切り者の存在を信じようとしない?


「陛下は……この国に魔族と結託していた裏切り者はいないとお思いですか?」


 俺は王へ直截に訊ねた。

 王の言葉を聞き漏らさぬよう、しっかりと耳を傾ける。


「もちろんじゃ、そのような者はおらぬよ」


「では、公国内に魔王軍と繋がっていた者はいないと?」


「うむ、我が国に魔族と繋がっていた者などいるわけがない」


「なるほど、そうですか」


 …………。

 あかんわ。こりゃあかん。

 これ以上の問答は繰り広げても状況を悪くするだけだ。


 絶対にこいつは俺を勇者と認めないし、デルフィーヌの話を聞こうとしない。

 そのことが今のやり取りでハッキリわかった。

 だったらどうする? この場でできること……。


「どうするのじゃ? そちの選択は二つに一つじゃぞ?」


 ニンマリと勝ち誇ったように笑う王――ユリナール・ハルンケア8世。



 俺はデルフィーヌ、エレン、ブラッド氏の顔を順々に見ていく。



 こうなったからには、この状況で可能な最善を尽くすしかない。

 すべての意見を通そうなんて思うな。

 絶対に譲れないもの。


 優先順位を考えろ――

 

 俺は選択を決めた。

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