第4話『勇者の凱旋だ。違うかも』




 魔王を倒した。倒しました。

 開始数分で俺の冒険は終わってしまった。

 これだけあっさりだと特に感慨もない。


 達成感もないし、むしろ空しい。

 苦楽を共にしたパーティと喜びをわかちあう展開が欲しかった。

 旅のなかでいい感じになったヒロインもいないとか何なんだよ。


 世の中のチートで喜んでる連中はこんなのの何が面白いんだ? 

 そりゃ難しすぎるのも嫌だけどさ。バランス設定って大変だよな。

 人同士の関わりかたとよく似てる。


 どっちかを優先するとどっちかが立たなくなる。


 ……やめよう。つまらない話だ。一人で考えててもむなしいだけ。

 せっかく魔王を倒したし、戦利品でも回収するか。

 異世界生活がいつまで続くかわからんし、先立つものに変える金目のものが必要だ。


 雑魚モンスターは後回しで魔王の装備品を検分する。

 ごそごそと所持品をまさぐる俺。ああ、盗賊みたいだな。

 現代でやったら強盗殺人やぞ。


 だけど相手が魔王だからこの世界ならきっと許してもらえる。

 大義名分があれば殺しも正義になる。

 倫理観って絶対じゃないんだよな。時と場合でコロコロ変わる。


 釈然としないけど。そういうもんだ。


「…………」


 おっと、なんか茶色い袋が魔王の腰に巻いてあるぞ。

 軽くてペラッペラ。中身が入っていないのか?

 肌触りはいい。なかなか上質な生地を使っているようだ。


 ステータスに鑑定能力があったのを思い出し、チェック。



【アイテムバッグ(空間魔法・時間凍結魔法付与)】

【東京ドーム3つ分の量までアイテムを入れることができる。バッグに入れたアイテムは内部で時間が凍結されるため、劣化することはない】



 東京ドームって……なんか萎える……。

 観測者の俺にわかる例え方をしてるんだろうけど。

 けど、いいものを拾った。こいつは使えそうだ。


 倒した獲物とか保存食を入れるのに重宝するだろう。

 早速、俺は魔王と宰相をバッグに突っ込む。

 こいつらにはきっと高い懸賞金がかかっているはずだ。


 ついでに転がっている雑兵も回収。

 武器や鎧、部屋にある貴金属の類もすべて詰め込む。

 素材として売れば結構な値段になるんじゃないだろうか。


 殺し殺され、弱肉強食。


 命を奪ったことに少しばかり良心が痛んだが、下手をすれば俺が殺されていたかもしれない。自然の仕組みに従って俺の糧になってもらおう。


 ずっしりと重くなって……はいないが、容量の増えたバッグを肩にかけて俺は部屋を出る。


 こんな楽勝でいいのか? あいつ本当に魔王だったの? でもステータスには魔王って書いてあったしなぁ。


 まあいいや。


 城の中にはまだ結構なモンスター兵士がいたが、隠密スキルの力でバレずに素通り。

 全滅させてもいいんだが、今すぐ狩る必要はないだろう。

 魔王亡き後もここに残っていたら定期的に狩りにくるか。


 いい収入源になる。




 城の外に出ると昼だった。

 太陽が昇って青空が広がっている。湿気がなくて空気が軽い。

 城のなかはあんなにジメジメしてたのに。


 空調管理とかしてなかったのかな。そういえば窓もなかった気がする。

 魔王だから明るいのが苦手だったのか? 今となってはわからない。




 魔王城は森に囲まれた場所に立地していた。

 城から出た俺は人里を求めて森の中を歩く。

 歩いても歩いても木ばっかり。人間の町はどこだよ。


 木の枝をパキンと踏みながら前に進む。

 待ってろ、異世界人たち。魔王の首を土産に勇者の凱旋だ。

 凱旋っていうのか? 始まりが魔王城だから違うかも。



『グガアアアアアッ』



 ――ビュッ、ビュッ、ビュッ



 途中で熊みたいな魔物が出てきたので水魔法で撃退した。


 ウェブ小説サイトで年間一位になれそうな音がした。


 倒したらアイテムバックに収納。


 こういう感じで野宿をしながら俺は初めての町を目指した。

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