第3話『ヤメロ、ソレハオレタチニ効ク!』
勇者として召喚されたら魔王の目の前に召喚されていた件。
ラノベのタイトルじゃない。俺の現状だ。
要するに? やばいってことさ。
何コレ。王様は? 可愛いお姫様とかはどこ?
強気な金髪の女騎士に会いたいよ。
くっ、殺せって言われながらお尻を穿ちたい。いや冗談だ。
『フヘヘ』
『ウヘヘ』
『カワイイツラシテルナ……』
部屋にいる武装したモンスターどもが俺を取り囲んでいた。
俺のお尻が穿たれそうだ。やめてくれ。普通にちびりそう。許してください。
なんで異世界くんだりまで来て醜いモンスターに囲まれなきゃいかんのじゃ!
『クフフ……今頃人間どもは勇者が召喚されないことに混乱しておるだろうな』
『勇者召喚に横槍を入れる魔法陣は上手く起動したようですね。ククク……』
『まだ右も左もわからない勇者をあえて城に呼び寄せて早々に始末する計画は成功だな』
玉座の魔王っぽい角の生えた赤髪と犬面が不敵に笑いながら悪人ぽい会話をしていた。
こうなった経緯の説明ありがとう。
えーと、つまり俺は本来召喚されるところとは違うところに強制的に呼び出されちゃったってことなの?
足元に謎の魔法陣らしきものがある。これで召喚されたのかな……。
まずい。まずいよな? ここって敵陣のど真ん中だし。
魔王って最終目標だろ?
仲間と多くの危機を乗り越えて成長してから来なきゃいけない場所じゃん。
間違っても物語序盤で訪れるところじゃない。
チュートリアルもやってないんだぜ。おいおい、死ぬわ、俺。
……ちょっとステータスでも確認してみるか。
ひょっとしたら魔王軍にラーメンを振る舞って料理人として雇われる展開がワンチャンあるかもしれない。
【名前:ヒロオカ・ジロウ】
【固有スキル:全マシ。(全てのスキルが盛り込まれている)】
【ステータス:鑑定能力LV5 炎魔法LV5 氷魔法LV5 水魔法LV5 雷魔法LV5 風魔法LV5 土魔法LV5 飛行魔法LV5 回復魔法LV5 浄化魔法LV5 格闘術LV5 剣術LV5 弓術LV5 槍術LV5 回避LV5 暗視LV5 物理耐性LV5 魔力耐性LV5 毒耐性LV5 麻痺耐性LV5 真偽判定LV5 隠密LV5 危機察知Lv5 気配察知LV5……etc】
……うわっなんかいっぱいある。
多すぎて下までスクロールするのが面倒くさい。確認しきれねえ。つか、全マシってこういうことか……。全部のスキルがマシマシ。ラーメン関係なかった。いや、名前の元ネタくらいにはなってるのか?
ひょっとして一個しか貰ってない他のやつらよりよっぽど当たりのチートだったんじゃね?
案外すごいとかのレベルじゃねーわ。
インチキと言われてもおかしくない、中学生が考えた『僕の最強の設定』みたいだ。
部活に入ってないけど150キロの直球が投げられてスポーツ万能、成績優秀、武術の免許皆伝を貰ってる目立つことが嫌いな自称普通の高校生とかそういうアレな感じの。
うわ、相当恥ずかしい存在じゃねーか俺。
けど、この状況ではありがたい。
四面楚歌だが、こんだけあればどうにか逃げられるかも。
ふむ、炎や氷の魔法に加えて剣や弓も使えるのか。
上のほうにあるスキルだけ見ても俺はいろいろな攻撃手段を持ってるらしい。
自覚は全然ねーが。
どのスキルもLVは『5』。マックスはいくつなんだろ。魔王の持ってるヤツがLV4とLV5だったから最高峰なのは間違いない。怠惰な人生を送ってきたのにいきなり達人になってるとか、その道の人らに申し訳ねーな。
『さあ、やれ。戸惑う勇者を屠るのだ!』
『グハハハハッ!』
魔王スザクの命令でサイクロプスっぽい一つ目のモンスターが金棒を振り下ろしてくる。
巨大な体躯が俺に猛威を振るう。
「あぶねっ」
『ナニ、ヨケヤガッタ!?』
びびって頭を押さえたはずが華麗に回避していた。ブォンと風を切る金棒。
どうなってんだ? あ、そういえばスキルに回避LV5があったっけ。
オート作動するんだ……。便利すぎ。
『怯むな! まだ勇者は自分の力に気づいていないはずだ! 今のうちに殺すのだ!』
ヘルハウンドが吠える。
大体把握してますが。
とりあえず魔王が隙だらけなので魔法を一発お見舞いしておこう。
スザクって名前だから、きっと炎タイプだな。
炎には水だ。ポケ〇ンの知識を参照して考えた。
詠唱とかはわからなかったので指をさして魔王に水魔法をぶち込みたいと心の中で思った。
出ないぞ? ならば念じる。イメージだ。
指を通って水が流れるのを意識する。集中、集中。
ブシャアアアアアア……。
指先から勢いよく水流が飛び出す。成功だ。ビチャビチャと魔王に水がかかる。
もうちょっと威力がないと大きなダメージになりそうにないか?
強化。マシマシで行くぞ!
『ぐああああああああ―――ッ!!!!!』
消火用ホースを上回る勢いで噴出した水が魔王を吹き飛ばして壁に叩きつけた。
『ま、魔王様ァ―――ッ!!!!』
吠える犬の宰相。喋る犬か。この世界には獣人とかいるのかな。いるなら友達になってみたいと思った。
『あがががあああああああ――ッ!!!』
しばらくの間、魔王はジタバタと水の勢いに抵抗していたが、やがてプツンと糸が切れたように動かなくなった。
ちょっと惨いやり方だったかもしれん。
水の放出をやめると魔王はドサっと倒れる。
こと切れたか……。
消防車のホースも人を殺せるくらいの威力があるらしいけど、水圧で死ぬ魔王ってどうなのよ。と思っていたら。
『聖水ダト!? アレハワレワレ魔族ノジャクテンダ!』
『アレホド純度ノ高イ聖水ハ初メテミルゾ……』
『ヤメロ、ソレハオレタチニ効ク!』
『バカ者ども! 勇者に情報を与えてどうするか!』
宰相の犬が吠えてバカどもを叱っていた。弱点教えてくれてありがとう。
死因は圧死じゃなかったんだな。だとすれば。
「……ニヤッ」
『ぬぐう……』『ヤ、ヤメロ!』『ウワアアア……』
俺は部屋全体に水をドバっと降らせた。イメージはバラエティの罰ゲーム。
それを部屋全体の規模でやった。
水自体に効果があるのなら、一点集中より拡散のほうがいいはずだ。
『ギャアアアアアアア』
『ママァァァァアァアァァ』
『アッアッアッアッアッ』
辺り一面で断末魔が響いた。
ビクンビクンと痙攣を起こし、力のない者から伏せていく。
まだ生きてるやつらがいる。もう一回。ドバー。ブシャー。阿鼻叫喚。すごい効いてるな。
勇者の出す水だから聖水になってるんだろうか。
飲用には使えるのかな。勇者の聖水とかで売れそうだ。
……違う意味になりそうだからやめとこう。
『む、無念……』
最後まで倒れなかった宰相犬が倒れて決着がついた。
水浸しの広間の床に転がる屍の山。悪は滅した。
同じく勇者になった他の連中はそれぞれの国で今頃歓迎でも受けている頃だろうか。
少なくとも魔王と戦ってはいないはずだ。ふっ、俺が一番乗りだな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます