第二章

第二章

籠原大学。籠原理事長が出勤してくると、生徒は誰もおらず、代わりに多数の報道陣があつまっている。

守衛「理事長、なんでもっと早く気がついてくれんのです?大学は大騒ぎになってますよ。」

籠原「大騒ぎって何が?」

守衛「理事長、知らないんですか?それだから頼りないといわれるんだ。あのね、昨日野口先生が自殺されたそうです。」

籠原「それは本当に?」

守衛「そうですよ!でなきゃ報道陣が続出したりはしませんから!ご自身で確かめてみてください!」

籠原はとりあえず大学の敷地内に入る。と、カメラやテープレコーダーをもって報道関係者がさっそうしてくる。

記者「理事長、野口准教授は、亡くなる前に何か言っていましたか?」

籠原「いえ、何も聞いておりません。」

記者「野口准教授と、大石講師の関係は?生徒の話を聞くと、恋愛関係だったとか?」

籠原「いえ、そんなことはありません。むしろ犬猿の仲でした。」

記者「しかし、生徒さんはそう言っておられましたよ。十年前に、野口准教授がある生徒を受けもったが、大石講師がそれをもぎ取ったという事件があったそうですね。」

籠原「はい、それは認めます。そのような事件は確かにありました。でも、もう十年もたっているのですから、それは関係ないんじゃないですか?」

記者「でも、恋愛関係にあったのなら、大石講師が怒りを表したのも確かですよね。」

籠原「それは知りません!それになぜ大石と野口が恋愛関係であったいえるのです?あんな犬猿の仲だった二人が、恋愛に陥るはずはないのです。生徒が、面白がってねつ造しているだけのことですよ。」

記者「へえ、お宅は生徒さんの教育もできていないのですか。」

籠原「とにかく、今日はこれから会議を開きます。重要な会議なので、あまりうるさく取材はしないように!顛末がわかったら、こちらで記者会見を開きます。それまで、撮影はやめていただきたい!」

記者たちは残念そうに帰っていく。


蘭の家。蘭がテレビを見ながら食事をしている。

アナウンサー「えー、今入ってきたニュースです。古筝奏者であり、籠原大学の准教授であった、野口康孝さんが、自殺のため亡くなりました。54歳でした。野口さんは、世界的な古筝奏者として活躍し、20年前から籠原大学で教鞭をとり、後進の指導に当たっていましたが、10年前からうつ病のような症状があり、この2、3年は、大学に来校することも難しかったようです。葬儀は密葬で執り行い、後日、お別れの会を籠原大学敷地内で行う予定です、、、。」

と、インターフォンが五回なる。

声「おーい蘭、買い物に行こうよ。」

蘭「杉ちゃんだ。本当に気が早いな。今支度するから待っていて。」

と、いうよりはやく、杉三は上がり込んでいる。蘭は急いでテレビを消す。

蘭「また廊下を汚す!」

杉三「いや、そんなことより誰が亡くなったの?」

蘭「杉ちゃんには関係ないよ。」

杉三「だって聞こえてきたよ。籠原大学がどうのこうのって。」

蘭「杉ちゃん、気にしなくていいんだよ。もう、大学とは関係ないんだから。」

杉三「だって、演奏させてもらったんだもん、お世話になってるでしょ。ねえ、教えてよ。」

蘭「でも、教えても何もできないじゃないか。それに、聞いてどうするつもり?」

杉三「お花でも上げに行きたい。」

蘭「だって、一度演奏しただけなんだから、」

杉三「でも、生徒さんにはお世話になったし、理事長も親切にしてくれたじゃないか。ねえ、教えて。何があったの?」

蘭「取り乱すから嫌だよ。」

杉三「でも知りたいんだよ。教えて!」

蘭「じゃあ、絶対他言しないでよ。あのね、籠原大学の、野口康孝という准教授の方が亡くなったんだって。」

杉三「僕知ってる!」

蘭「知ってるってどういうことを?」

杉三「あったことあるし、コンサートにも行ってるし、CDも母ちゃんに買ってもらった。理事長に問い合わせて、お宅へ行こう。」

蘭「行って何をするんだよ!」

杉三「お花をあげたい。」

蘭「突拍子もないこと言わないの!ただ迷惑なだけだよ!」

杉三「そうかもしれないけどね、僕はあの人の音楽には本当に励ましてもらった。それに、いろんな生徒さんだっているはずだ。みんな悲しいだろうな。そうなるんだから、僕は励ましに行きたいんだ。だから大学に問い合わせて!」

蘭「杉ちゃんは、どうして心で思っておくだけということはできないんだ?」

杉三「そんなのできるもんか。そうやって態度にあらわさないから、悲しい人が後を絶たないんだ!」

蘭「どうやったら、そういう発想をできるものなんだろう。」

杉三「知らないよそんなこと!ただ悲しいからそうしたいだけだよ!だって、今まで普通にいてくれた人が、もういなくなって永久にかえって来なくなるわけだから!」

蘭「じゃあ、とりあえず、大学にいってみようか。きっと、報道陣がすごいだろうから、気を付けていってね。」


一方、籠原大学では、臨時の職員会議が行われている。

籠原「ええ、野口准教授の自殺は大変遺憾であります。私どもも、彼がそこまで追いつめていたことを感じ取ることもできず、それも反省しなければなりません。このようなことが二度と発生しないためにも、私たちはどうすればよいのか、意見のある先生方は、どうぞご発言を、、、。」

髪の白くなった教授が発言する。

教授「私の意見では、理事長が野口を雇用した時の手続きが良くなかったと思うのです。」

籠原「と、申されますと?」

教授「ええ、大学というところは、まず非常勤講師として教師を雇うものですが、野口に関しては、理事長が頼み込んで専属講師としたと聞きました。それではほかの非常勤講師に対して、失礼ではありませんかな?」

また別の教授が発言する。

教授「まさしく、大学のシステムを破って雇ってしまったことが原因だと思います。私は、この際ですから、古筝科を廃止したらどうかと思うのですが、理事長、どうでしょう?」

籠原「は、廃止?」

教授「そうですよ、だって、古筝科がこの大学で一番生徒人数が少ないわけですし、志願者も減る一方です。それに、本学にある古筝も、演奏されないで放置されたままの古筝がなんと多いこと。これを売却すれば、少しは設けになるのではないかと思うのですけど。」

籠原「待ってください。古筝科は、これまでに有名な奏者を輩出したとして知名度のある学科です。それをなくすということは、本学の看板を撤去するのと同じではありませんか?」

教授「そうですけどね。だって圧倒的に志願者が多いのは、楊琴科や笛子科のほうじゃないですか。ほんのわずかな学科を維持するために金を使い込むのなら、人気のある学科をさらに充実させて、より生徒たちが充実した大学にするほうが先決であると思うんですけど。」

准教授「私もそう思いますよ。生徒の立場から見ても、古筝科に在籍していて、損をするようでは、生徒がかわいそうだと思います。学校内で、圧倒的に少ない学科いるということになれば、いじめの標的にもなりかねません。」

籠原「しかし、生徒も大学生ともなれば大人の一人ですから、多少のことでは耐えられるの

ではないでしょうか。それに、生徒がそのようなことに遭遇したのなら、耐えることを学ぶ良い機会にもなるでしょうに。」

教授「理事長、そうやって不況を逆手にとってはだめですよ。教育教育と言いますけど、大学は一つの法人であるわけですから、ある意味客商売です。今の時代に合わせて、よりたくさんの生徒を獲得していくことのほうが、こちらのためにもなるんですよ。それを優先していかないと、これからの大学はダメになりますよ。」

理事長「そういう見方もありますが、私は、やはり大学は教育の場であるべきだと思います。ですから、そのようなことは、私は認めません。もし、生徒人数が少ないのなら、よりきめ細かい指導をすることを強調して、有能な古筝奏者を輩出すべきです。もし、生徒が学科の人数のことでいじめを起こしたとしても、生徒が成長するきっかけになればと思いますから。ですから、古筝科はこれまで通り、存続し続けます。」

教授「だったら、ほかの学科にも目を向けてください。そこに来ている生徒にも、目を向けてやってくださいね。それに、私たちの賃金も考えてもらわないと。それには何が必要なのかも考えてください理事長!」

教授「大石講師、先ほどから何も発言していませんが、何か意見はありませんか?」

と、隣の席に座っていた、若い女性の講師のほうを見る。白いスーツに身を包んだ彼女は、化粧も少なく、まだ教授たちに比べるほどの、威厳はない。

大石「ええ、私はお任せします。だってまだ、赴任して数年しかたっておりませんので。」

教授「でも、発言しないと、窓際みたいになりますよ。」

大石「私は、単に講師としてここへきている立場ですから、発言はできません。でも、生徒を育てようという気持ちはあります。」

教授「腰が低いですなあ。それで生徒に馬鹿にされないのが不思議でなりませんね。」

大石「ええ、私はひよっこみたいなものですし。」

教授「まあ、それでも、何人かコンクールで賞をとらせたりしているわけですから、まだいいんですかね。それでも、何とか自己評価を上げるようにしてくださいね。」

大石「自然に上がってくると思います。でも、一生懸命指導しますから、どうか古筝科にいさせてください。」

籠原「わかりました。では、古筝科は廃止にはしないようにしましょう。それでは、二度とこのような事件を起こさないために、どうしたらよいのか考えることにいたしましょう。」

と、そこへ、事務員がやってくる。

事務員「失礼いたします。」

籠原「はい、なんでしょう?」

事務員「理事長、影山杉三という方がお会いしたいというのですが、、、。」

籠原「ああ、そうですか。では、しばらくしたら行きますので、応接室でお待ちくださいと言ってください。」

事務員「わかりました。」

と、戻っていく。

教授「ああ、そういえば、生徒から聞きましたよ。理事長が文字の読み書きができない男を招いて演奏させたとね。確かそういう変わった名前だから、生徒もすぐに覚えてしまったみたいで。天才的な古筝の腕前をもっていたそうですよ。その男。」

教授「へえ、理事長もそういう付き合いをするんですか。やっと堅物から脱出されましたね。」

教授「でも、それはいいことなんじゃないですか?外部からそういう人を招くのは、良い刺激になるでしょう。ましてや、文字の読み書きができないという弱い立場の者が、そうやってすごい才能を持っているのであれば、生徒も闘争心がわいてきますよ。これからも定期的に来てもらって演奏させましょうよ。」

教授「そうですね。私たちよりずっと強烈な演奏になると思いますよ。じゃあ、理事長、今度は彼を私たちにも紹介していただきたいですね。」

教授「それにしても、読み書きのできない男を、そうやって演奏させるなんて、この大学は大学ではなく、幼稚園になってしまいましたね。」

教授「全くです!理事長、生徒を集めたかったら、ほかのやり方でPRしてください。そんな男を連れてきたら、逆効果ですよ!」

籠原「そんな意味でやったわけではないんですけどね。」

教授「じゃあ、どうしてですか?」

籠原「少しでも生徒にやる気を出してもらいたい一心だったんですよ。」

教授「それなら、有名な奏者を連れてくるほうが先でしょう?素人を連れてきてどうするんです?だからこの大学は馬鹿にされているんじゃありませんか?この大学がつぶれる責任は、理事長にあるんですからね。」

籠原「そうですけど、、、。」

教授「ほら、また言葉に詰まる。だから理事長はダメなんだ。」

籠原「ならどうしたら?」

教授「大人である理事長がそんなこと言ってどうするんです?理事長ではなくただの子供ですよ、それでは。そんな態度をとっているから、大学がつぶれるんですよ。もっと、しっかり、やっていただかないと、みんな無駄になってしまいますよ。理事長!」

籠原「すみません、、、。とりあえず今日はお開きにしましょう。これから授業もありますし。では、よろしくお願いします。」

教授「わかりましたよ。」

教授「頼りない理事長!」

全員、椅子から立ち上がり、会議室を出ていく。大石だけは何も言わなかった。

籠原「大石先生、あなたは発言することはないのですか?」

大石「私はまだ赴任して間もないので、まだ発言はできません。」

籠原「ああ、立場をわきまえるのは素晴らしい態度ですが、時々しっかり主張することも必要ですよ。」

大石「わかりました。」

と、会議室を出ていく。


籠原は、顔の汗を拭きながら、応接室に行った。

籠原「いやいやいやいや、遅くなりました、すみません。」

中に入ると、杉三と蘭が、立派な仏花をもって待機していた。

籠原「今日はどうされましたか?そのお花は、、、。」

杉三「野口先生にあげてください。今日はこれをどうしても差し上げたくて。」

籠原「そうですか。ありがとうございます。」

杉三「僕も、野口先生のファンだったんです、演奏会も行って、CDも買って。でも、ここの先生だったのは知らなかったです。野口先生は、そういうことは一言も漏らさなかったので。」

籠原「あれ、プログラムに書いたりしませんでしたか?ああ、そうか読めないのか。」

杉三「はい、馬鹿だから。でも、野口先生の演奏だけは覚えてようって心に決めました。文字は覚えていないけど、そういうことであればきっと、忘れないでいられます。だから野口先生には安心して成仏してくれと。」

籠原「わかりました。伝えておきます。じゃあ、受け取りましょう。」

と、杉三から花を受け取り、机の上に置く。

籠原「こんな立派な花をもってきてくれたなんて、野口もきっとよろこびますよ。よかった。こうして、学校外の方から、お花をいただけるなんて。」

蘭「学校外の方って、たくさん支持者はいたでしょうに、、、。」

籠原「意外に音楽家は孤独であるほうが多いのです。大作曲家の例を見ればわかるでしょう。

後になって作品が評価された作曲家は多いけど、生前はほとんど知名度がなかった作曲家のほうが多いんですよ。」

杉三「そ、そうなんですか!じゃあ、野口先生も?」

籠原「ええ。確かに、演奏能力は高く、出世も早かったのですが、どうしても人間は、自分より人のほうが良くなると面白くない動物ですからな。私も、それがあるってことを気が付いていれば、彼は自殺なんかしないでもよかったかもしれませんが、、、。」

蘭「わかる気がします。」

杉三「僕は、人のほうが良くなっても嫌な気持ちはしないよ。だって、僕は馬鹿だから、人のほうが良くなろうが、自分のほうがよくなろうが関係ないもん。」

蘭「杉ちゃんは特別だよ、、、。」

籠原「そうですね。そういう心を持たない人を探しに行くほうが大変なんじゃないですか。音楽大学なんて、そういう人の温床です。何しろ、就職難といわれるこの時代ですから、わずかばかりの椅子を狙って、多くの生徒が大バトルを繰り広げますからな。でも、、、最近はそれさえも無くなってしまいました。」

杉三「何がなくなったんですか?」

籠原「ええ。何しろこの少子化ですからな。生徒が集まらなくなってしまいました。昔は、大学受験なんて、受験戦争と言われるほどすごいものでしたが、今は誰でも必ず大学へ入れるという状態です。それに、大学へ入る前に、偏差値という社会的身分のようなものをくっつけられて生きる意味をなくす生徒がなんと多いこと。」

杉三「そうだよね。ある意味、入った高校で人種差別されるよね。」

籠原「だから、高校側も進学率を上げるのに必死なんでしょうな。この学校は偏差値が低いのですから、なんの意味もないと教育するのでしょう。それで、この学校に入らないように仕向けるんですよ。それが高校のメンツを上げることになるのです。」

杉三「いくら偏差値がどうのこうのって言ったって、この大学に入りたいっていう子は必ずいます。だって、それだけの名門校だったじゃないですか。僕、卒業演奏会を十回以上見に行ってるけど、やっぱりほかの大学とは違うなって気がするんですよ。偏差値を気にする人ってのは、それがわからないだけです。そんなの、軽視すればいいだけじゃないですか。」

籠原「そうですね。その通りに出きればいいんですけどね。私たちは、何もできませんよ。もう、古筝科も廃止にしようかという意見も出たくらいなんですから。」

杉三「えっ、もう古筝科終わりにするの?ダメ、絶対ダメ!」

蘭「杉ちゃん落ち着け!」

杉三「いやだ、絶対にダメだ!だって僕、古筝を聞きに行けることもなかなかないから、この大学で聞きに行くしかないんだから!」

蘭「こんなところで泣いちゃだめだろ!」

籠原「ありがとうございます。そんなに古筝が好きな方は、初めて見ました。それほどでなければ、あのような演奏はできないですよね。資格があれば、入学してもらいたかったくらいですよ。」

杉三「僕も、読み書きできないし、、、。でも、意見を言うことはできるよ。」

籠原「意見、ですか?」

杉三「うん、大学がつぶれないためのね。」

籠原「少し聞いてもいいですか?意見というもの。」

杉三「うん、ここの卒業生たちに、この大学の良かったことを紙に書いてもらうんだ。そして、古筝科でこんなに素晴らしいことがあったとか、アピールすれば興味をもってくれる人はきっといる!」

籠原「いや、それは無理です!」

杉三「なんで?」

籠原「卒業生たちは、みんな働いてますし、、、。」

杉三「なんで?みんな働いているといっても、少しは時間のある人もいるんじゃないの?すくなくとも、良い思い出はあるんじゃないの?文化祭とか、コンサート旅行とかもあったでしょ?そういうことを書けばいいんだよ!」

籠原「それが、理由がありまして、、、。」

杉三「理由って何?」

蘭「運営上の問題ですか?」

籠原「ええ。そういうことです。」

蘭「答えが出たから、もう帰ろうか。」

杉三「いや、まだだよ!理由を聞いていないから!」

蘭「もう長居をしすぎたし。」

杉三「いやだ!隠し事をするのが一番悪い!一番大事なことを隠そうとするから、大学は繁盛しないんじゃないの?そうじゃないの?それにそうやって隠し事をして、生徒に知られたら、もっとやる気なくすと思うんだけどな。それでは、悪循環になっちゃうよ!」

蘭「杉ちゃん、あんまり根掘り葉掘り聞かないの!」

籠原「いえ、杉三さんの言う通りですよ。隠していたら、何もなりません。」

杉三「杉ちゃんでいいよ!隠さないで話してよ。どうせ、僕は読み書きができないから、記録したり、伝えることもできないんだし。」

籠原「じつは、ここの数年間、古筝科は、退学者の温床になってしまっているのです。ほとんどの子は、意欲的に入ってくれるのですが、みなうつ病などになってやめてしまうことが非常に多い。亡くなった野口が、教えても何の意味もない学科だと嘆いてもいました。対策として、私は、大石という女性の講師を雇いましたがそれでもだめなのです。なので、大西洋のバミューダトライアングルになぞらえて、魔の学科と呼ばれているのです。」

杉三「へえ、で、対策は取ってるの?」

籠原「はい。野口と大石に手を組んでもらおうと考えていましたが、その前に野口がこうして自殺してしまいましたので。本来教師は一人の生徒につき一人でなければなりませんが、

私は、来年度から、二人の教師が付くように、方針転換する予定だったのです。それらを考案し始めた矢先に、野口が、、、。」

杉三「そのバミューダトライアングルに引っかからなかった生徒はいないのですか?」

籠原「まあ、いたことはいたのですが、、、。」

杉三「じゃあ、その生徒に、古筝科ってこんなに楽しいって、講演会でもしてもらえば?」

籠原「講演会?」

杉三「そうですよ。だって引っかからなかったのは、卒業したんでしょ?四年間、つらいことも楽しいこともたくさんあったと思うから、それを全部話してもらうんだ。ちなみにその生徒の名前は?」

籠原「えーと、柏原秀龍だったかな。」

杉三「じゃあ、その柏原君に、お願いしてみれば?」

籠原「そうか、そうしてもいいかもしれませんね。じゃあ、葉書でも出そうかな。」

杉三「善は急げだ。今からその柏原君の家に訪問に行こう!」

蘭「な、なにを言い出すの杉ちゃん!」

籠原「いえ、それはあり得ると思いますよ。これだけ、本校の評価も落ちているのですから、優秀な人を連れてくるというのは、ある意味名案かもしれません。幸い、まだお昼前ですので、いってみましょう。彼の家は、ここからさほど遠くなかったはずです。本校は寮をおいていませんから、さほど遠方から来た生徒はいませんでしたからね。じゃあ、すぐに車を手配しますので、行ってみましょうか。」

杉三「うん、わかった!出発進行!」

蘭「本当に杉ちゃんは偉いのか馬鹿なのかわからないよ。」

全員、古ぼけた扉の応接室を出ていった。





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