第22話
『ローレンス』は操縦支援ツールだ。その役割は、俺の脳から発せられる脳波と電子信号を伝えやすくすることにある。つまり、『ローレンス』は俺と『レディベスティエ』の仲立ちをする役割を持っている。
だったら、『ローレンス』が入っているマウスピースを投げつけても、『レディベスティエ』を操作できるはずだ。
何故なら俺から発せられる脳波と電子信号が込められた『ローレンス』入りのマウスピースは、『レディベスティエ』に当たれば、その中身をこぼすのだから!
投げつけたマウスピースが『レディベスティエ』の鼻先に当たり、緑色の液体が『レディベスティエ』の顔を塗らした。
だから、それは起こった。
「――!」
咆哮が聞こえる。
それは紛れもなく『レディベスティエ』から発せられたもので、その声は、愛するものを想った悲哀の泣き声にも聞こえた。
だが、その声ですら『レディベスティエ』は満足に発することは出来ない。口に付けられた拘束具が邪魔なのだ。
愛した者に伝えたいなのに。
愛した者に伝えることが出来ない。
こんな事が許されるのか? 許されていいのか?
ただ想いを言葉にするだけなのに、それが出来ないなんて。
そんなこと、許されていい訳がない!
邪魔するやつは、すべてぶっ壊す!
だからというように、『レディベスティエ』に変化が起こった。
黒色だった鬣は、太陽が発する光をすべて飲み込んでいくように白く染まっていく。それに合わせるように、『クリニエーラディレ』の刀身も白灼に燃え盛る!
そして、
「―― !」
『レディベスティエ』は自分の口の拘束具を、怒りをもって引き千切った!
引き千切った勢い余って、『ローレンス』が『レディベスティエ』の口から溢れ出す。あふれ出した緑の血に濡れても、その鬣は決して白以外の色に染まることはなかった。
『レディベスティエ』は、この宇宙(大草原)を統べる、白獅子になったのだ!
『おお!』
それに驚嘆の声をあげて反応したのは、ジャクソンだった。
しかし、それを『レディベスティエ』は気にした様子もなくジャクソンに急接近する。
そしてすれ違いざま、『クリニエーラディレ』を一閃。俺を握っていたジャクソンの左手首を切断する!
切断された左腕から俺が解放され、宙に舞った。『レディベスティエ』から飛び立った時と同じように、重力に引かれ、俺は地球に落ちていく。
そこに、八の字を描くようにして『レディベスティエ』が戻ってきた。
そして、
「――!」
咆哮と共に、俺を食らった。
叫ぶたびに溢れ出す緑の血にまみれながらも丸呑みにされた俺は、『レディベスティエ』のコックピットに帰還した。
帰還と同時に残りの『ローレンス』を吸い込む。『ローレンス』の残りが少なくない。
『ご自分でお外しになられたのであるか。やはりセンジン様には、そのようなものはお似合いにならないのである……』
右腕に槍槌を構え、左手首を庇うジャクソンの姿が見える。
その姿を見ながら、俺はジャクソンと初戦闘で、やたらと顔面に噛み付くように攻撃されたことを思い出した。
あれは、『レディベスティエ』に付けられている口の拘束具を外そうとしていたのか。
『チヒロよ。一勝負お願いするのである』
ジャクソンの提案に驚く。
『何故だジャクソン! お前だって感情的に認められないだけで、俺がセンジンだってことは分かっているはずだ! それに、その負傷では、』
『黙るのである!』
一喝。
『我輩には我輩の使命があるのである。ただでは『レオーネ』には帰れないのである!』
『ジャクソン……』
ジャクソンの顔は、使命を帯びた一人の戦士の顔だった。
『それに、チヒロは知らんであろうが、その『白獅子』のお姿はセンジン様が本気を出した時のお姿なのである。まさか、もう一度お手合わせできる機会があるとは……。チヒロよ。お前を一匹の『シシ』と見込んでお願いがあるのである!』
俺の『ナカ』には何もないと、カラッポだと言ったジャクソンが、俺を『シシ』と呼んでくれた。
だったら、俺もそれに応えるしかない!
『みなまでいうなジャクソン。多分だけど、きっとこんな時、センジンだったらこういうんじゃないか。『構えろ』ってさ』
『……かたじけない!』
そう言って、俺とジャクソンは構えを取る。
高度の位置は奇しくもジャクソンとの初戦闘時と同じ、ジャクソンが上で、俺が下。
『レディベスティエ』が俺を回収した時に、高度が下がったのだ。
待ち受ける俺の構えも初戦闘の時と同じ、『クリニエーラディレ』を右下にした腰構え。
対してジャクソンは右腕に槍槌を突き出すように構え、それに手首から先がない左腕を添えている。
合図となるようなものは、何もなかった。
『……』
『……』
ただただ、二人の息遣いが聞こえる。
そして、
『『うおおおおぉぉぉぉおおおお』』
二人の雄たけびがかぶさり、この宇宙を震わせた。
そして、二匹の獅子は重なり合う。
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