第18話
『そ、それはそうであるが……』
『ちょっと待ちなさいチヒロ! それはワタシがまだチヒロに隠しているだけで、あなたの予備バーツぐらい用意しているわ』
もう少しでジャクソンが納得したっていうのに、ここで割り込んでくるんですかドクダメさん!
でも、その反論は既にドクダメさん自身が否定している!
『でも、ドクダメさんおっしゃっていましたよね。俺が失敗作だって。依存度を上げすぎて『調整』してしまって、そのままにしていたって』
『それはその方がワタシにとって都合がいいからで、』
『都合がいい? 都合がいいのに、何故昨日俺を突き放すようなことを言ったんです? ドクダメさんにとって都合がいいなら、そのまま俺を使えばよかったじゃないですか。それに、俺の予備パーツには別の『調整』が出来たはずですよね? なんで失敗作の俺が今『レディベスティエ』に乗れているんですか? 俺を切り捨てて、もっとドクダメさんに従順な予備パーツを乗せればよかったじゃないですか』
俺はドクダメさんの言葉をさえぎり、話を続けていく。
『それは、呼び寄せる時間がなかったから、』
『直ぐに使えない予備パーツに、意味はあるんですか? それに俺に隠しておくにしても、流石に一回も『レディベスティエ』に乗っていないのに、予備パーツとしての役目は果たすんでしょうか? 乗せるでしょ? でも、俺以外に『レディベスティエ』には乗っていなかった。特に『ギガク』が今年やってくると分かって『レディベスティエ』を北極基地に移動させた四月から、たった一度も!』
『それはチヒロに黙っていたからで、』
『他にもおかしいところはありますよ。そもそも何で三年間、時間をかけて俺を育てたんですか? 自分で言うのもなんですけど、もっと優秀に創る事だって出来たはずですよね?』
『それは昨日言ったでしょ? チヒロがワタシ以外に守りたい相手を地球に作ってもらうためだって』
『その前提がそもそもおかしいんですよ。俺以外に予備パーツを『調整』できるのなら、完全にドクダメさんに従順なパーツを量産しておけばよかったじゃないですか。脳に必要なデータも注入できたんですよね? だったら三年間も育てずに、必要な戦闘データを注入しておけばいい。何でそんな無駄なコストをかけたんですか?』
『チヒロが思っているよりも、自己拡張のためのパーツを一つ創るのはコストがかかるのよ』
そう来ると思っていたよ、ドクダメさん。
『でも、パーツの中の、さらに一つのパーツならどうです?』
『……なんですって?』
『だから、センジンの死体を操作するために俺というパーツを創るのにコストがかかるのなら、そのパーツである、俺の『脳』というパーツを量産すればいいじゃないですか。データの注入は出来るんでしょ? だったら俺が失敗作だと思った時点で、俺の脳みそだけ別の脳みそに取り替えればよかったじゃないですか。松井博士からは、脳だけを作るのには対してコストはかからないと聞いています。でも、それは出来なかった。何故でしょうか? ひょっとして、材料が足りなくなったんじゃないですか?』
『……』
ドクダメさんは、沈黙している。
『じゃあ今度は別の話題にしましょう。他にドクダメさんに聞きたいことがあるんですが』
『……何かしら』
そんなに不機嫌そうに言われても、もう俺は止まることはない。
『ドクダメさんって、何で地球人サイズになっているんですか?』
『それは、地球で生活しやすいようにするためよ』
『じゃあ、『フウリュウ』の姿をしていた時、自分の拡張パーツを使って地球人の形に加工したってことですか? 自分の脳も含めて』
『そうよ』
『でも、地球人サイズの体を作るのに『フウリュウ』のパーツ全て使うことは出来ませんよね? 『ギガク』も『フウリュウ』もジャクソンと同じぐらいの大きさなら、地球人一人の体を創った程度では余りが出たはずです。ドクダメさんの余った他のパーツは、どこにあるんですか?』
『それは……』
『チヒロよ、少し待って欲しいのである! 我輩には、この話しがどう貴様がセンジン様になるのか見えてこないのである』
ジャクソンが会話に割り込んできた。
『丁度よかった。ジャクソンには、まだ確認したいことがあったんだ。ジャクソンはドクダメさんを追って地球にきたんだよな? だったら地球人の姿になる前の、『フウリュウ』だった時のドクダメさんの姿を見たことがあるか?』
『もちろんである。シブキは『フウリュウ』のリーダー的な存在だったのである。あの忌々しい姿は、二度と忘れることはないのである』
『じゃあ、ドクダメさんがセンジンの遺体を盗んだ理由も知っているな?』
『チヒロ! 止めなさい!』
ドクダメさんが俺を止めようとするが、かまうものか。
俺の予想が正しければ、ジャクソンはドクダメさんがセンジンの遺体を持ち出した理由を知っているはずだ。
『……』
『ジャクソン?』
急に黙り込んだジャクソンに、俺は先を話すように促した。
ジャクソンは、ようやく重い口を開いた。
『……話すのも苦々しいのであるが、センジン様とこの雌豚は、恋仲であったのである。『レオーネ』では『シシ』の考え方の違いから、『ギガク』と『フウリュウ』の間で結婚することは禁忌とされているのである。だが、この二人は、』
『それを承知で、結婚したんだな』
『そうなのである。例え『ギガク』の英雄であるセンジン様といえども、いや、センジン様であるが故に許されなかったのである。そしてそれが原因で、センジン様は『ギガク』から、シブキは『フウリュウ』から追われ、『レオーネ』至上最大の混乱を引き起こしたのである。そして、』
『その騒乱の中、センジンは死亡。そしてドクダメさんは、自分の旦那の亡骸を地球に持ち込んだんだな』
ジャクソンは、無言で肯定した。
よし。これで決まりだ。決定的だ。
『チヒロ。お前の説明は分かりにく過ぎるのである。我輩には、やはりこの話しがどう貴様がセンジン様になるのか分からないのである。もう少し簡潔に説明してもらいたいのである!』
確かに、俺がジャクソンに聞きたいことを聞いて、喋りたいことを喋ったような形になってしまった。松井博士の癖がうつってしまったようだ。
俺は、ジャクソンにも分かり易いよう、はっきりと、こう告げた。
『つまり、こういうことだよ。俺の『脳』はセンジンの脳を加工して作られていて、俺の『体』はドクダメさんのパーツから創られているんだ』
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