第17話
『ふざけるのも大概にするのである!』
ジャクソンの怒号が藍色の空に響いた。
叫ぶと同時にジャクソンが横なぎに振るった槍槌を、俺は水中にもぐりこむようにして交わす。
『センジン様の死を侮辱するばかりでなく、貴様が、矮小な、シブキに創られただけの存在である貴様があのお方の名を名乗るなど、不敬にも程があるのである!』
ジャクソンの怒りももっともだ。ただの死体を動かすためのパーツである俺が、『ギガク』の英雄であるセンジンだとは到底受け入れることなど出来ないのだろう。
『チヒロ! チヒロ!』
俺とジャクソンの間に『通信』で割り込んできたのは、ドクダメさんだった。
『起きたんですか。ドクダメさん』
『チヒロ! ワタシを気絶させて一人で出撃するなんて、どういうつもり! ワタシをジャクソンに引き渡すことにしたんじゃなかったの?』
俺がドクダメさんの想いを貫こうと決めた時、ジャクソンに俺がセンジンであることを告げられるのを『通信』で邪魔されないよう、俺が部屋から出る前にドクダメさんを気絶させておいたのだ。
鳩尾を強打したドクダメさんは思いのほか簡単に気絶してくれた。『フウリュウ』であるドクダメさんの体がどの程度の強度を持っているのか不安だったが、俺の体も特別製だ。ドクダメさんにダメージは与えられれると踏んでいた。
最悪『通信』で会話できないほどの激痛を与えれるのならそれでいいと思っていたが、案外簡単に気絶してくれて助かった。
『シブキであるか。そうか、貴様がチヒロに何か入れ知恵をしたのであるな? この売女が! 自分が助かるために、こんな妄言をチヒロに信じ込ませるとは、どこまで性根が腐っておるのだ貴様はっ!』
『何? 何の話をしているのチヒロ』
ドクダメさんを気絶させる際、当然ながら俺はドクダメさんに俺が何をするのかを話してなんていない。
戸惑っているドクダメさんに、俺は今の状況を伝えた。
『俺がセンジンだって話を、ジャクソンにしたんですよ』
俺の言葉を聞いたドクダメさんが、息をのむ。
『そんな……。何を言っているのチヒロ!』
『それは我輩の台詞なのである! どうやらシブキも状況を把握し切れていない様子。チヒロ、これは貴様の独断なのであるか? 何故貴様は、何故自分をセンジン様だと思ったのであるか!』
ドクダメさんは俺の言葉を否定し、ジャクソンは何故俺がそう考えたのかを問うた。
ドクダメさんが『通信』に参加したためジャクソンの攻撃が止み、俺が話せる時間が出来た。このタイミングを逃せば、ジャクソンは俺の話しに耳を傾けず俺に攻撃を続けるに違いない。
『分かった。俺が、何故自分がセンジンだと思い至ったのかについて説明しよう』
だから、ここなのだ。ここしかない。
この場を切り抜け、今後もドクダメさんと地球を守るためには、ジャクソンと本格的な戦闘状態になる前の、ここで俺の推理をジャクソンに聞かせるしかないのだ!
『昨日俺がセンジンの遺体を動かすためのパーツだと聞かされた時、ものすごくショックだった。だがそのことについて、ある疑問が浮かんだんだ』
『疑問だと? チヒロは現に、センジン様のご遺体を動かしておるではないか。シブキがチヒロのことをパーツとして創ったのは、間違いない事実なのである!』
『……』
センジンが俺の発言に反応してくれる。ひとまず俺の推理を聞いてくれる気になったようだ。
ドクダメさんは無言を貫いている。静観するつもりなのだろう。あるいは、どこかのタイミングで邪魔するつもりなのか。
『ああ、そうだ。俺がドクダメさんに創られた、ジャクソンの遺体を動かすためのパーツということに異論はない。ここでジャクソンに一つ聞きたいんだが、『レオーネ』では自己の拡張のためのパーツは、基本的に付け替えが可能なんだよな? 自分の『強さ』を求めるためであれば、基本的に何でもいいんだろ?』
『『フウリュウ』のようにご先祖様を蔑ろにして、『シシ』としての尊厳を害うようなものは言語道断であるが、概ねその通りなのある』
『じゃあ俺がジャクソンの腕を切断した時のように、パーツが破損した時は新しいパーツに変更するか、予備パーツに付け替えるんだよな?』
『それについても、チヒロの理解で合っているのである。長年使って馴染んだパーツを好んで使うのが一般的で、破損したパーツはまったく新しい別のパーツに交換するよりも、元と同じまったく同じ予備パーツと取り替えることが多いのである。今回はセンジン様のご遺体を運ぶためにシャトルにスペースを用意する必要があったので、予備パーツではなく修復剤を持ってきているのである。シャトルには、必要最低限のものしか積んでいないのである』
『じゃあ『ギガク』も『フウリュウ』も関係なく、予備のパーツを用意するのが『レオーネ』では普通ってことだな?』
『その通りである』
やっぱり、そうか。
『だとすると、おかしなことがある』
『何がであるか?』
『センジンの遺体を動かすためには、俺という脳の拡張パーツが必要なんだろ? だったら、脳の予備パーツが、俺の代わりが用意されていないっていうのは、おかしい』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます