第10話
『……は?』
ジャクソンが話した内容があまりにも斜め上過ぎて、俺の理解が追いつかない。
『ギガク』の、英雄の遺体?
『ちょ、ちょっと待ってくれ! 何の話をしているんだ? 『ギガク』の英雄の死体なんて、見たことも聞いたこともないぞ!』
『見たことも、聞いたこともない、であるか。嘘を付くにしても、もっとましな嘘があったはずである!』
『嘘じゃないんだ!』
『何を言っておるのだ小さき者よ! こうして今、我輩の目の前にあるではないか!』
目の前にある? 何を言っているんだジャクソンは!
クソ! 会話がまったくかみ合わない。
事実関係を整理しないと話しが進まないと判断した俺は、ジャクソンにドクダメさんから聞いている内容の確認をすることにした。
それにここを整理すれば、違和感の正体がはっきりするような気がしたのだ。
敵であるジャクソンに聞く内容ではないのかもしれないが、俺とジャクソンの会話を聞いているはずのドクダメさんからまったく反応がないため、ジャクソンに聞くしかない。
『ジャクソン。俺はお前たち『ギガク』が『フウリュウ』という星を滅ぼしたと聞いている。そして、次に地球を滅ぼそうとしている、とも』
それを聞いたジャクソンはさもおかしそうに、豪快に笑った。
『がはははは! 小さき者よ。今のは面白かったのである! あの忌々しい『フウリュウ』を滅ぼせるものなら滅ぼしてやりたいと思ったことはあるが、流石にそれをしようとすれば、同じ『レオーネ』に住む『ギガク』と『フウリュウ』の全面戦争になりかねないのである』
『え?』
『フウリュウ』は、滅んでいない?
じゃあ、ドクダメさんの旦那さんも生きているってことなのか?
いや、それよりも、『ギガク』が『フウリュウ』と同じ『レオーネ』に住んでいる、だって?
『『ギガク』と『フウリュウ』は、同じ星に住んでいるのか?』
『その通りである! また、誤解があるようなので言っておくが、『フウリュウ』という星は存在しないのである。『レオーネ』という星に、『ギガク』と『フウリュウ』が住んでいるのである。地球で例えるなら、『ギガク』と『フウリュウ』という名前の、別の民族が同じ星に住んでいるようなものである!』
そんな馬鹿な!
ドクダメさんは、『ギガク』に『フウリュウ』という星が滅ぼされたと言っていたんだぞ?
それが、そもそも『フウリュウ』という星はないだって?
それどころか、『ギガク』と『フウリュウ』は同じ星に住んでいる、だって?
それなら、ドクダメさんが嘘を付いていたってことになるじゃないか!
そんな、そんな馬鹿なっ!
『『フウリュウ』という星が存在しない? 『ギガク』と『フウリュウ』が同じ星に住んでいる、だと? 嘘を付くな!』
『嘘ではないのである』
やれやれ、というようにジャクソンはため息をついた。
『そもそも、何を根拠に我輩が嘘を付いていると言っておるのであるか? 小さき者よ』
『根拠?』
根拠だと!
考えろ。このままだと、俺はドクダメさんが嘘を付いていたことを認めないといけなくなる。ドクダメさんが嘘を付いていたというのなら、俺のこれまでの三年間が無駄になってしまう。
俺が『オレ』であるためのパーソナリティーが、『自我』が、壊れてしまう!
根拠。証拠、根拠、根拠!
ドクダメさんが嘘を付いていないと証明するためのものは……。
そうだ! 根拠なら、ここにあるじゃないか!
『『ギガク』に滅ぼされた『フウリュウ』の生き残りが、『ギガク』のロボットを地球に持ち込んでいる! それが根拠であり、決定的な証拠だ!』
そうだ。俺が今乗っている『レディベスティエ』が、ドクダメさんの話しが嘘ではないという決定的な証拠、いや、ダメだ。これは証拠にならない。
『ギガク』と『フウリュウ』が同じ星に住んでいるのなら、『ギガク』のロボットを持ち出す機会もあるはずだ。話した後に、自分の話した内容がまったく証拠になっていないことに気づいてしまった。どうする?
焦り、別に証拠となるものを考え始めた俺に、ジャクソンはまたも豪快に笑った。
笑った後、とんでもないことを口にした。
『がはははは。小さき者はユーモアのセンスが抜群であるな! 『ギガク』にロボットなどもはや存在しておらん。いや、『ギガク』だけではなく『フウリュウ』もそれは同じなのである。今や『レオーネ』にロボットは存在していないのである。存在しないものを、地球に持ち込むことなど不可能である!』
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