第7話

「おや、千尋君かね?」

食事を終えドクダメさんの部屋に行こうと基地内を歩いていた俺を呼び止めたのは、松井博士だった。

「ドクダメ君の所に行くのかい?」

「はい。そうです」

ドクダメさんから食事を終えた後、先ほどの『ギガク』との戦闘で気が付いたことを報告するように言われていたのだ。

俺としては食事の前に話した方がいいとも思っていたのだが、ドクダメさんは俺に食事を優先するように指示を受けていた。ドクダメさんが気遣ってくれたのがうれしい。

俺は、松井博士にも先ほどの戦闘について聞きたいことがあったのを思い出した。

「博士。すみません、一つ聞きたいことがあるのですが」

「それは、戦闘時にダメージを受けた『レディベスティエ』の修復の件かね?」

「はい。その通りです」

俺が松井博士に聞きたかったことは、『ギガク』のロボットから『レディベスティエ』の胸甲板に付けられた傷跡についてだった。

ちょうど『レディベスティエ』の顔が描かれている、右斜め上から切り裂いたような傷跡が、まるで『レディベスティエ』が撃墜されているようなマークになっていたのだ。

そこまで深い傷ではなく戦闘には差し支えないのだが、撃墜されたようなマークが描かれた機体に乗るのは気分がいいものではない。

ダメ元で、俺はどうにか修復できないか松井博士に聞きたかったのだ。

「どうにか修理できませんか?」

「ふむ。残念ながら、あれは地球で修理することは出来んよ。そもそも、傷一つけられなかったものを直せるはずがあるまい」

「そうですか……」

落胆した俺を見て、松井博士は豪快に笑った。

「あはははは。『レディベスティエ』に傷を付けられたのがよほど不服だったようだね」

「まぁ、それもありますけど……。やっぱりあの傷の付き方は不気味ですよ。それに初めて『レディベスティエ』に傷を付けられたわけですし、その分装甲も薄くなりますから」

「ロボット乗りがそんなことでどうする! 傷の一つや二つ気にせず、ガンガン突き進むのが男のロマンだろうが!」

「それやったら死んじゃいますよ!」

「あまり肩肘張るな、ということだよ。千尋君はロミオじゃないんだから」

「はい? そりゃ俺はロミオじゃなく千尋ですけど……」

 そもそもロミオって、何のロミオだよ。

「ああ。深い意味はないんだ。そのままの意味だよ。っと、もうこんな時間か。すまないが、失礼するよ」

そう言って松井博士は一方的に会話を切り上げ去っていった。相変わらず自分の話したいことだけ話す人だ。出会った時から変わっていない。

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