第2話猫耳式三輪自動車
突然の異世界召喚により、城下町トルクギアで余生を過ごすことになった元普通のサラリーマン黒間飛人。今は一仕事終え、午後の仕事に備え休憩を取っている。
「あのさティア、ひとつ聞いてもいいか?」
「はい、なんでしょう?まさか今日の下着の色ですか!?それは流石に答えられませんよ?」
「そんなこと微塵も気にしてない。じゃなくて、俺が朝からやったことといえば飲食店から空き瓶を集めて業者に渡すことだけなんだが?これじゃただの空き瓶回収業者じゃないか」
「さすがの私もそんなことと言われると悲しい部分もありますが、まあいいです。今はそれぐらいの仕事しかないんですよ、硝子はこの街では高価なので集めて再利用しないと駄目なんですよー」
「いや、俺が言いたいのはそういう事じゃなくて、輸送業をしているんじゃないのかって事なんだけど」
俺のその問に少し不機嫌になるティア。
「わかってますよ、私だってこんな仕事がしたくてこの店を作ったわけではありません。ですがこの世界はいまや魔法開発の大きな波が来ています。そんな中でこんな時代遅れの力は必要とされてないのですよ」
自分で言ってかなり落ち込んでいるようだ。頭には丸みを帯びたゴーグルを付けているし、イギリスのヴィクトリア朝風の雰囲気のある作業服にはそこかしこに歯車やチューブ、何かのメータなどのガジェットが付いている。どこから誰がどう見てもスチームパンク好き、もしくはスチームパンクオタクにしか見えない。実際、俺もかなり最初の頃、それこそ一目見てわかった。
この猫耳娘が言っている時代遅れの力っていうのは多分
「スチームパンク...か、」
「ですが、私にも秘策があるのです!コツコツ作っていた、私の可愛い可愛い三輪自動車が!」
ティアが珍しく席を立ち、店の奥のレバーを引く。いくつもの歯車と歯車同士が噛み合う音とか、精巧に組み立てられた部品たちが激しく動き、だんだんと壁が開いてゆく目の前の光景に胸の高鳴りが抑えられない。
「か、かっけぇ...」
「ですよね!ですよね!でも、まだまだこんなものじゃないですよ!」
ゆっくりと開かれた先には銅色の三輪自動車が置いてあった。その周りには細かいパーツや数百はあるだろう道具達が立てかけられていた。
「すげえ!これ動くのか!?」
「えぇ、もちろんですよ。私が丹精込めて作っているんです、動いてもらわないと困ります」
「だ、だったらこれを使って荷物を遠くまで運べばいいじゃないか!それなら輸送業って言っても、ギリギリいい気がする!」
「私もそう思っていましたが、この三輪自動車で運べる量は馬や牛でも運べる量です。その上この子はマナクリスタルをエネルギー源として動くので、どうしても馬や牛を借りてきた方が安くなるのです」
「マナクリスタル?」
「マナクリスタルとは魔法開発によって生み出された人口鉱石のことです。マナクリスタルの中には大量のマナ、つまりは魔法を使うためのエネルギーが含まれています。本職の魔法使いでもない限り、1日これを動かすだけのマナは体内にありません。なのでどうしてもこれが無いとマナをエネルギー源としているこの子は役立たずになってしまうのです」
「そして、そのマナクリスタルが馬や牛のレンタル料よりも高くなると」
「はい、利益を考えるとそうなります」
なるほど困った。街の人も同じ届け物でも安く済んだほうがいいだろうし、わざわざこの子を使う必要が無いのか。
「あ、時間だ!ごめん後でまた話聞くわ!配達行ってくるよ」
時計を見ると、飲食店と約束していた瓶ジュースの配達時刻を過ぎようとしていた。
「はい!わかりました、気をつけて行ってきてください」
ティアに手を振り瓶ジュースを配達しに行く。手を振ってくれているティアの顔が少し寂しそうだった。
「疲れたああああああああああああ」
約束時刻の数分前になっていたため街中を全速力で走り回っていた。転生前のサラリーマンをしていた俺なら数秒でばてていただろうし、俺を若返らせた女神に少しだけ感謝した。まあ猫耳と金髪は要らなかったが。
「お疲れ様です。はいどうぞ日給制なので、お給料です。お風呂なら沸いているので入りたかったらお先にどうぞ」
「え?お風呂?いやいや待て、俺銭湯にでも行こうかなと思っていたんだが?」
「銭湯ですか、まあ銭湯ぐらいならいいですが宿屋に泊まろうと思っているならやめたほうがいいですよ」
「なんでだ?」
「ここは城下町トルクギア、商業と潮風の街です。1日街を回って気づかなかったんですか?この街には1年中観光客が絶えません。つまり、宿屋や銭湯の利用料は物凄く高いです。あれです、観光地価格ってやつです」
確かに忙しくて気にしてなかったが街中は観光客で賑わっていたな。
「なので、従業員としてこの店、というか私の家なのですが、ここに住むのが得策だと思いますけど?」
「それでも、若い女の子と同棲することは出来ない」
「同棲?違いますよ。食費、水道代、家賃などの分は給料から引きますし、それに」
それに、という言葉に続けて腰のホルスターから何かを取り出し、腕を伸ばして俺の方に向ける。
「それに、何かえっちなことをしようとしたら容赦なくあなたの脳天をこの、NK33式リボルバーで撃ち抜きますから」
NK33式リボルバーと呼ばれたそれは、女の子が片手で持つには重そうだ。そのリボルバーもスチームパンク感が激しい。もう俺が知っているリボルバーの原型は留めていない。銃口からグリップ部分に至るまで、様々なパーツが付け加えられている。細かいパーツを大きな外見で覆っているのか、ところどころの隙間から歯車などが見えるが、リボルバーのどの機構にそれらが作用しているのか俺には全くわからない。
「NK33ってもしかして...」
俺はひとつ、気になっていた疑問を呟く。
「あなたが想像しているとおりです!NK33、つまり!ネコミミ!我ながらさすがのネーミングセンスに戦慄すら覚えます」
満足気なティアは置いておくとしても、俺の知っているリボルバーとは威力が違いそうな予感する。
ッバアアアン!!!!!
「あ、間違えてトリガー引いちゃった」
けたたましい轟音とともに床に大穴が。
そして予感は確信に変わる。
「そ、そんな危ないものしまっておけ!お前の身の安全が絶対なのは分かったから、俺は野宿でもするよ...」
ッバアアアン!!!!!
「話を聞かない人です。私の話聞いていましたか?」
「ぜ、是非ここに住まわせてください!!!!」
この猫耳娘は俺に給料をあまり払いたくないようだ。
こんなの恐怖政治だ!と心の中で叫んだ。
猫耳式スチームパンクな輸送業 笑門一二三 @emikado123
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