猫耳式スチームパンクな輸送業
笑門一二三
第1話猫耳式異世界召喚
城下町トルクギア。
この街はトルクギア城の周りに広がる商人の街だ。そんなこの街を含めこの世界全体が魔法開発競走のの真っ只中にある。
トルクギアの街は海に面し、街の中には潮風が吹き渡る。陸地の地形の高低差が激しく、昔から街は海上の方へ流れるように開発されていった。
そんなこんなで海上に無骨な見た目の店を構えているのが、黒の猫耳を生やしている小柄な獣人ティア・マキナ。
その猫耳乙女がやっているのは可愛らしい道具屋とか料理屋、服屋とかではない。彼女の仕事は依頼品を目的地まで運ぶこと。つまり輸送業なのだ。
「いらっしゃいませ、あなたのお届け物はなんですかー」
仕事が溜まっているのか山積みになっている書類の中から1枚取って目を通しながら声だけをこちらに向ける。
少女の周り、というか部屋中によくわからない部品が落ちている。
「あ、いや…1つ聞きたいことがあって入っただけなんだけど...」
「何ですか?うちは仕事は完璧にこなしますよ、どんなものでも確実に運んでみせます!エルトキアからマスゴダの国まで何処へでも!」
やけに熱が入っているがこちらに目線は向かない。
「違うんだ、ここが何処なのか知りたくて来たんだけど」
入ってきた男は心が挫けそうになりながらもなんとか話を続ける。
それは数時間前のことだという。
「いってぇ、いてて...って、ん?何処だここ?なんで俺は森の中にいるんだ?」
疑問を口に出し頭を整理しようとするが状況は飲み込めない。
「最近流行りの異世界ってやつか、」
あまりに正解に早くたどり着いた自分に苦笑いを禁じ得ない。
黒間飛人は普通の32歳サラリーマンだった。
妻子もいなく、朝は1人で通勤ラッシュの人混みに身を投じて、夜もまた1人で電車に乗って家まで帰ってくる。
「最近のラノベは異世界ものが多いなぁ、これも世の中の風潮か。きっと俺みたいに独り身で寂しさと社会の理不尽さに嫌気がさして現実逃避してハーレムを味わいたい人が多いんだ」
そんな俺の唯一の楽しみがラノベを読むことと、缶ビールを開けることだ。そんな生活の中、確かに異世界召喚に憧れた、憧れたさ。
「でも、唐突すぎないか!?急もいいところだぜ!!朝目覚めたらどころの話じゃねぇし!!瞬きしたその瞬間にだわ!!女神はどこだ女神は、こういう展開なら案内役がいるはずだろ、いねぇのか!?...ん?」
俺はいつの間にかジャケットの胸ポケットに入っている紙に気づき、手に取った。
「なんか間違えて異世界召喚しちゃいました。帰る方法もないので、とりあえず異世界で良き余生を。女神より」
「ふっざけんなああああああああああああああ」
帰る方法が無いとは何事だ。どうせ異世界召喚されるならもう少しまともなのが良かったと1人で嘆く。嗚呼、異世界に来ても独り身か。
「なんか遠くに城?みたいのが見えるな、とりあえずあそこまで行くか...」
なにをするとかそういった目的もないが、人のいそうな方へ行かなくては。あまりにこの世界の情報がない。
歩いて10分ほどで城下街が見えた。が、ここがどこかも分からない。
「適当なお店探してお店の人に色々聞いてみるか。でも、料理屋とかはだめだな、金持ってないし...あそこ料理屋じゃ無さそうだな、あそこに入ってみるか」
そして今後悔している。この店じゃなかったと。
「なんですか?記憶喪失ですか?そういう面倒臭いフラグはパスでお願いします、私も忙しいので」
こいつ正直すぎないか!?もう少しオブラートに包むとか出来ないのか?いや、偉そうなこと言える立場でもないが...
「今、忙しいって言ったよな!頼む、ここで働かせてくれないか?他に行く宛もないんだ」
男のその言葉に耳がぴくっとなる。
そして俺のことをゆっくりと吟味するように見てくる
「...そんなに見られると恥ずかしいんだが?」
俺の言葉など聞こえていないようだ。
「んー...実際忙しいし、この人に仕事任せたら自分の時間が増えるよな?そしたら開発に専念できるのか...んーしかし...」
なんだか小声でぶつぶつ喋っているが、小さすぎて聞き取れない。
「わかりました、ここで働かせてあげます。同じ種族に対する特別な好意としてです、その代わりたくさん働いて貰いますよ?」
「あ、ああわかった!ところで、なんて呼べばいいかな?こらからここの従業員になるんだから名前がわからないと不便だと思うんだ」
「ティアって呼んでください、ティア・マキナです」
「俺は黒間飛人だ。上で読んでも下で呼ばれても構わない...一つ気になったんだが、さっき言っていた同じ種族というのは?」
「え?そのままですよ、だってあなたにも私と同じ猫耳が」
「え?」
俺は慌てて頭に手を回し耳を探す。
ほんとだほんとにあった...猫耳。
「オヤジの猫耳姿なんて誰得だよ...」
「え?おじさんなんですか?てっきり十代後半ぐらいかと思いましたよ」
「お世辞をなんてしても何も出せないぞ」
「いえ、お世辞などではありません!綺麗な金髪だなと思っていたのです!」
「え?金髪?」
いやいやいやいや髪なんて染めた覚えないし、
「...まさか?鏡ある?」
「はいどぞ、鏡ではないですが」
ティアは足元をゴソゴソして何かを取り出す。
渡されたのは金属の板だ。確かに鏡に使えるほど美しく周りの景色を反射している。
「!?」
そしてそこに写っていたのは金髪猫耳の美少年。これじゃ誰がどう見ても十代後半だなと理解する。
「まあ、いろいろ言いたいことはあるのですが、とりあえずは溜まっている仕事を手伝っていただきたいです」
「俺も言いたいことがたくさんあるが、とりあえずよろしくな」
こうして俺の異世界輸送業が始まった。
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