第5話 異世界に行く
「鈴原誠さん。これから私の力を使ってあなたを異世界へと送ります」
ヴィーナさんは両手を胸の前で組み、目を閉じる。そして僕の聞いたことのない言葉を使って魔法を唱え始めた。詠唱が進むとヴィーナさんの全身が発光し始める。その光はどんどん強くなっていく。目を細めてヴィーナさんを見続ける。だが、まぶしすぎて目を開けていることすらできなくなり、僕は目を閉じた。なにが起きているかわからない。目を閉じた時間が10数秒ほど続いたあと、ヴィーナさんの声が聞えてきた。
(目を開けてください)
僕は目を開ける。目の前にいたはずのヴィーナさんはいなくなっていた。さらに僕がいる場所はヴィーナさんがいた神殿のような場所ではなくなっていた。どこかの教会の内部のような場所に僕はいた。目の前にヴィーナさんを模したと思われる石像があった。ここがキリスト教会だったらキリストの像が飾られる場所にヴィーナさんによく似た像が飾られていたのだ。
(それは私の姿を模して作られた像です)
僕の頭の中にヴィーナさんの声が響く。
(あなたのいる世界に私は行くことを許されていないので直接あなたの脳に声を送っています)
「はあ。ここはもう異世界なんですか?」
頭の中で話すことになれていないので普通に話してしまう。
(そうです。私が天地創造の神として崇められてる世界です。もちろん、私がその世界を創ったわけではないのですが、でも、その世界の人の多くは私が創ったと信じています)
「どうしてヴィーナさんが創ったとこの世界の人たちは思ったんでしょうね」
(それはあなたが冒険をする過程で自らの力で明らかにしてください)
「わかりました」
僕はうなずく。
(目の前にある私の像は世界のいたるところにあります。その像にあなたが触れるとセーブができます。ためしに触れてみてください)
僕はヴィーナさん像に触れる。
すると再びヴィーナさんの声が脳内に響く。
(ここはセーブポイントです。ここまでの歴史をセーブしますか?)
とその声は淡々と言った。
(セーブしますか?と私の声に問われたあと石像に触れたまま{はい。セーブします}と言うとセーブすることができます)
ヴィーナさんが言った。
「セーブしてみていいですか?」
(はい。ためしてみてください)
「はい。セーブします」
僕は言ってみた。
(了解しました。ここまでの歴史をセーブします・・・セーブが終了しました)
声が淡々とした口調で言った。もちろん、僕の脳内で。
(それでセーブ完了です。命が尽きればいつでもそのセーブした地点からやり直すことができます)
ヴィーナさんが補足する。
「やっぱり死なないとやり直せないんですよね」
(はい。それはぜったいのルールです。当然ですが、命が尽きる過程では壮絶な苦しみが伴うことが多いです。あなたが現世で死んだときのような楽な死に方はレアケースと考えたほうがいいです。だから死ねばやり直せると安易に考えないほうがいいです)
「わかりました」
(これで私のお仕事は終わりです。この先、あなたとこうしてお話することは二度とありません。私にできることは天界からあなたを見守ることだけです。それが天界のルールなんです)
ヴィーナさんは申し訳なさそうに言った。
「ヴィーナさん。いろいろありがとうございました。ヴィーナさんの胸の感触一生忘れません」
(はい。いつかあなたが老衰で死んだときに会いましょう。そのときはまた胸を触らせてあげますからね)
「老衰だとセーブ地点に戻らなくてすむんですね」
(はい)
「わかりました。老衰で死んだときにはヴィーナさんの胸を触りに行くんでそのときはよろしくお願いします」
(はい。お待ちしています。では鈴原誠さん。あなたが素敵な異世界ライフを送れることをお祈りしています)
「はい」
(さようなら)
少し涙が混じっているような声でヴィーナさんは言った。
「さようなら」
僕は言った。
それきりヴィーナさんの声は聞えなくなった。
この異世界にはセーブ機能がある。ただし、自由にロードはできない。 @disukidesu
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