第4話 チート能力はありますか?
「どうして僕を異世界に送るんですか?」
僕は訊く。
「あなたは異世界に行きたいというが願望を抱いてました。こんなクソゲーみたいな世界から抜け出して、ゲームやアニメのようなファンタジックな世界に行きたい。そこでワクワクドキドキの冒険生活を送りたい。ドラマティックな人生を送りたい。そういう願望をあなたは抱いてました。その願望を叶えてあげようと私は思ったんです」
「ヴィーナさんには僕の行き先を決める権限があるんですか?」
「はい。私には日本の死者の行き先を決める権限が与えられてるんです。天国行きとか地獄行きとか生まれ変わって現世行きとかね」
「すごいですね」
「はい。私、意外とすごい天使なんです。だからぜったいビッチなんて言いふらさないでくださいね」
ヴィーナはいたずらっぽく言った。
「そんなこと言いふらしませんよ。それで僕の異世界行きはもう決定事項で他の選択肢は選べないんでしょうか?」
「天国行きと地獄に行きたいんですか?」
「いや、地獄は行きたくないですけど、天国には興味あります」
「残念ながら今のあなたでは天国にも地獄にも行けません。天国に行けるほどの善人でもありませんし、地獄へ落とすほどの悪人でもないですからね。だからあなたが選べる選択肢は2つしかありません。ひとつは再び現世に転生するという選択肢。その選択肢を選んだ場合、あなたはまったく別の人格と体でどこかの女性の胎児として人生を始めることになります」
「今の僕の記憶や性格や能力は転生後に僕には反映されないってことですか?」
「まったく反映されないわけではありません。でもその反映される量は微々たるものです。転生後のあなたはまったく別の人間と解釈したほうがいいと思います」
「なるほど」
「そしてもうひとつの選択肢。それは異世界に行くという選択肢です。その選択肢を選んだ場合、現世に転生するときのようなまったく別人になるようなことはありません。今のあなたのまま異世界に行くことができます」
「異世界に行くを選択した場合の特典はあるんですか?」
「異世界転生にはよくあるチート能力とか便利アイテムのような特典はありません。ただ、今のあなたのまま異世界に行くことができるだけです」
「そうですか。まあ、そうですよね。そんな都合の良い特典あるわけないですよね。これはゲームでもアニメでもないんですから」
「はい。でも、あなたにはこれから行く異世界の人にはぜったいできないことができる能力が与えられます。その能力はある意味ではチート能力と言ってもいいような能力です」
「どんな能力ですか?」
僕は少しテンションの上がった声で訊いた。
「セーブ能力です」
「セーブ能力?」
「はい。あなたにはセーブ能力が与えられます。ある場所に行けばセーブできる能力が」
「セーブってあれですよね。ゲームのデータを保存するってやつですよね」
「そうです。そのセーブです。あなたにはその力が与えられるんです。ドラ○エなら王様、FFならクリスタルに当たるものに触れることによってセーブできるんです」
「つまりいつでもセーブデータからやり直すことができるということですか?」
「残念ながら自分の意思でセーブデータをロードすることはできません。あなたが異世界で死んだときだけそのセーブデータが自動的にロードされます」
僕が異世界で死んだときだけ自動的にロードされる・・・
「つまり死なない限りセーブデータをロードできないってことですか?」
「そうです」
「なんでそんな不便な機能をつけたんですか?」
「それは私にはわかりません。神様がお創りになった世界ですから」
神様・・・あいかわらず神様はクソゲーみたいな設定を創るのが好きらしい。
「以上があなたが選べる2つの選択肢です。どちらの選択肢を選ぶかはあなたの自由です。別人になって現世で一から始める選択肢を選んでもかまいませんし、異世界に行って今のままの自分で冒険をする選択肢を選んでもかまいません。鈴原誠さん。あなたはどちらの選択肢を選びますか?」
ヴィーナは僕に選択を迫る。
僕の生きていた世界はクソゲーみたいな世界だと僕は本気で思っていた。そんなクソみたいな世界に転生し、イチから人生を始めるのかと思うと反吐ができそうになる。そんな反吐がでそうなくらい嫌な現世に転生する選択肢を選ぶ気にはなれなかった。となれば残された選択肢はひとつ。異世界へ行くという選択肢だけだ。
「僕は異世界へ行きたいです」
「あなたならそう言ってくれると思っていました」
ヴィーナは嬉しそうに言った。
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