第3話 天使との出会い

遠くから女性の声が聞えてきた。

「もしもし。聞えてますか?聞えてるなら目を覚ましてください。早く目を覚まさないとイタズラしちゃいますよ」


女の声は楽しそうだった。

「おちんちんに落書きしちゃいますよ。お婿に行けなくなるようなすごい落書きしちゃいますよ」


おちんちんに落書きだと・・・そこで僕はパッと目覚めた。


「あっ、目覚めましたね。おはようございます」


僕はギリシャの神殿のような場所で目覚めた。そして目覚めた僕の目の前には綺麗なお姉さんがいた。アニメなどに登場する女神のような服装をしている。露出度の高いドレスのような服装だ。程よい大きさの胸の谷間がよく見えるし、短いスカートから伸びた白い両足もよく見える。健全な男子が見たらほぼ間違いなく息子が大きくなってしまうようなビジュアルだ。


だが、僕が注目したのはそういった僕の性欲を刺激する部分ではなかった。彼女の頭の上に浮かんでいるものだった。天使の輪。それが彼女の頭の上に浮かんでいたのだ。


僕はその天使の輪を呆然と見ていた。夢を見ているような気分で。


「あっ、これ。天使の輪です。本物ですよ。本物ってことはどういうことかわかりますよね。そうです。私は天使なんです」

女が説明してくれる。


僕は夢の続きを見ているのだろうか?


「夢の続きなんか見てませんよ。これは現実です。あなたの前にいる天使は現実に存在しているんです。触ってみますか?たとえばこの胸とか」

彼女はイタズラっぽく言った。


「触っていいんですか?」


「いいですよ。私はとある女子高生のようにあなたを生理的に嫌悪したりしませんから」


この女性が僕は失恋したときのことを知っている!


「もちろん、知ってますよ。天使ですからね。あなたのことはすべて知ってます。知った上で私の胸を触ってもいいと言ったんです。私はあなたのことを生理的に好きですからね。本当ですよ。キスしてもいいくらいです」


「冗談はやめてください」


「天使はこんな破廉恥な冗談は言いません。私は本気であなたにキスしたいと言ったんです。胸を触ってもいいと言ったのも本気です。もし、これが現実と信じられないなら遠慮なく私の胸を触ってください。それともキスでこれが現実だと確認しますか?」

女が僕に悩ましい選択を迫る。


「本当にどちらかを選んでいいんですか?」


「はい」

彼女は明るくうなずく。彼女が僕をからかっているようには見えない。本気でキスをしてもいいと言っているように見えるし、本気で胸を触ってもいいと言っているように見える。


僕は彼女の唇を見て、彼女の胸を見た。どちらも同じくらい魅力的だった。でも、僕の息子がもっとも反応したのは彼女の胸を見たときだった。


「胸を触らせてください」


「いいですよ。さあ、触ってください。そしてこれが現実だと認識してください」


「はい」


僕はごくりと唾を飲み込み、お姉さんの胸のふくらみに手を伸ばした。童貞の僕は若い異性の胸など触れた経験がないせいで異様に緊張した。心臓が爆発してしまうのではないかというくらい緊張した。お姉さんの胸に触れようと伸ばした手がぶるぶると震えるくらいに緊張した。


僕はお姉さんの胸に触れることに成功した。その瞬間、お姉さんが「あんっ」と色っぽい声をあげた。お姉さんの胸は柔らかかった。この世のものとは思えないくらい柔らかかった。あまりの甘美な柔らかさに僕は鼻血を出してしまう。


「まあまあ、たいへん。今、ティッシュを用意してあげますからね」


お姉さんの右手にティッシュ箱が現れた。手品のようだった。


「あっ、天使はね、魔法が使えるの。その魔法でティッシュくらい簡単に作りだすことができるのよ。まあ、神様みたいに天地を創り出すことはできないですけどね」


「神様ですか?」


「そうです。天使がいるんだから神様がいてもおかしくないでしょ」


「まあ、そうですね」


「うん。理解が早くて助かります。その調子で私の話を理解してくださいね。まず、あなたがなぜ天使である私、あっ、自己紹介がまだでしたね。私は天ヴィーナと申します。よろしくお願いしますね。鈴原誠さん」


「よろしくお願いします」


「さて、これが現実だとわかったあなたは今

疑問を抱いてますよね。どうして僕が天使の前にいるんだ?という疑問を」


「抱いてますね」


「当然の疑問です。でも、あなたはその疑問の答えに心当たりがありますよね」


「はい。僕は死んだんじゃないかって思ってます。どうして死んだかはわからないけどそんな気がします」


「さすがです。鋭いですね。自分の非現実的状況を冷静に考えることができる。すごい能力だと思います」


「ありがとうございます」


ヴィーナさんは微笑んだ。素敵な微笑だ。


「それで僕はどうして死んだんですか?」


「脳梗塞です」


「脳梗塞」

脳の血管が詰まり、血流が止まってしまう病気。


「はい。あなたは冬休み運動もせずに部屋にこもってゲーム・アニメ・漫画三昧の日々を送っていました。そんな生活を送っていれば当然、健康を害します。健康を害すればさまざまな病気になる可能性が上がります。死につながる病気になる可能性も上がります。あなたは死につながる病気になる可能性が現実になってしまったんです。そして死んでしまったんです」


「なるほど」

僕は納得する。


「ショックを受けてないみたいですね。普通の人ならショックを受けるシーンなのに」


「まあ、そうですね。特にショックはうけてないですね」


「現実なんてクソゲーみたいなものだ。そんな世界で生きていてもつまらない人生しか送れない。そんな世界で生きているくらいなら死んだほうがマシだ。そんな考えがあなたの中にはあった。だから死んでもショックを受けなかった」


「さすが天使様ですね。なんでもわかっちゃうんですね」


「はい」

ヴィーナは笑顔でうなずく。


「まあ、あなたの気持ち私にも少しわかります。ある種の人生には確かにクソゲー的なところが多分にあります。もちろん、あなたの人生にもね。だから私はあなたに同情しています。可哀想と思っています。だから天使である私の胸を触らせてあげたんです」


「そうだったんですか」


「はい。あなたは私のことビッチな天使だと思っていますが、私はだれかれかまわず胸を触らせるわけじゃないんですよ。あなたに共感できる部分があったから好感を持ち、同情し、胸を触らせてあげたんですよ。だから私をビッチな天使だと思うのをやめてくださいませんか。さすがにビッチな天使と思われるのは天使の私でも傷つきます」


「すいません」


「素直に謝ってくれたあなたを私は許します。もう二度と私のことビッチと思わないでくださいね」


「はい」


「ああ、よかったです。これであなたを異世界に送っても天使ヴィーナはビッチだと言いふらされなくてすみます」


「異世界に送る?」


「はい。これからあなたを異世界に送る予定になってます」

女が笑顔で答える。

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