4月22日の芽吹き(2)


 お昼ご飯のために入ったお店は、思ったよりも混雑していて

 ゆっくり話ができるような雰囲気ではなかった。

 中原さんもどこか落ち着きがなく、せっかく調べたおいしいパスタの味は

 残念ながらさっぱりわからなかった。


 お店を出て、そのままの足で街を歩き始める。

 結局、パスタのお店では何も話すことはできなかったが

 まだ今日は始まったばかりだ。


「それじゃあ、まずはここに行こうか」

「えっと、ああ。そこは結構おいしいって評判だよね」


 この日のために用意した雑誌を見ながら

 ゆっくりと目的のお店を目指して歩き続ける。

 ここからはそんなに距離が離れているわけではないので

 歩いて10分もしないうちに着けるはずだ。


「……」


 それにしても、今日はなんだが、中原さんの様子が少しおかしい。

 いつもは周りに気を遣うように、遠慮がちに歩く姿が印象的だったが

 今日は一歩下がった位置から距離を保ってついてきている。


 おれは何かしてしまっただろうかと不安になりつつも

 特に心当たりがないため、なにもすることができず

 ただ歩き続けるしかなかった。


――――


 その後も、リサーチのために3件ほど店を周ったが

 中原さんがいつもの様子に戻ることはなかった。

 

 今日の為にと、いろいろと話題を用意していたのだが

 いくつか雑談を振っても、あまり話題は弾まない。

 最後のお店を出たところで、さすがに気になって、直接聞いてみることにした。


「あの、中原さん?」

「ん? どうしたの?」

「なんか、今日は元気がないように見えるんだけど

 もしかして、なにかあった?」


 なるべく当たり障りがないように質問したつもりだったが

 思っていたよりもストレートな聞き方になってしまった。


「え? ううん。そんなことないよ

 いつも通り。特に変わらないよ」

「そう? それならいいんだけど」


 乙女心と秋の空? だったか。

 女の子というのは、なかなか難しいものらしい。

 いつも通りと言われてしまうと、それ以上しつこく聞くこともできず

 なんとなく納得がいかないまま、目的のお店まで黙って歩き続けた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る