第16話 戦闘と胸の痛み
舐めるな!と言いながら、胸元に突き刺さった槍のせいでHPがどんどん減って行く感覚が襲う。
いくら体術といえど、避けれる程の俊敏さをこの身体は有して無い。
それにこれはダンジョンで初めて魔物からの攻撃を喰らった時を思い起こさせる。
その辺りの戦いがどうだったかと言えば、今の状況と似ている。一匹に気を取られ、もう一匹に不意打ちを食らう所なんてまったく同じだ。
そう、同じなのだ。
槍の一撃もらったダメージは大凡5万くらいだろうか。
5万ものダメージを食らえば、大抵の者は消滅してしまうだろう。
だがしかし、俺のHP八千万弱。
見た目おもいっきりやられてるが、感覚としては爪と身の間にシャー芯が刺さった程度の痛みでしかない。
血もその程度しか出ていない。これは肉厚のせいなのかもしれないが、ホントにこの身体は頑丈なのだ。
胸に刺さった槍を掴み、捕えてやろうとしたが。
「なっ!」
驚きの声と共に。「ジャンプ!」と再び姿をくらました。
一瞬見えた雰囲気と声の感じからすると少年、若しくは少女かもしれない。
兎に角若い事には違いない。違いないが、コンちゃんみたいな存在もこの世界には居るみたいだし。見た目で判断するわけにはいかないだろう。
だが間違いなく躊躇する。少年少女を誰が好き好んで殴ったりすると言うのだ。
身体は変わっても中身は俺で何も変わってないのだし。
そう考えれば、今は俺から離れてくれて良かったとも思える。
「お前の相手は俺だ!」――グボァ!!
忘れていたわけではないが、赤いドラゴンが距離をとった状態から火炎を噴き上げる。狙いは俺なんだが、火炎となると少し厄介になる。
ドラゴンゾンビが吐き出すファイヤーボールの様に一塊であれば、人化せずとも魔力を手に集中させて掴み投げ返す事も可能だが。
今回みたいに火炎放射器みたいにされると、避け様もないし、掌に魔力を込めても掴みようがない。
だが防ぎようはある。
俺は息を吸い込むと、肺に魔力を溜める。そして火炎が目の前に迫ったその瞬間を狙って。
「――グォオオオオオオオオオオオオオオ!!」
大咆哮を放ってやった。大咆哮といえど、全力でやっちゃうと何が起こるかわからないので、少し弱めで。
音波。それも魔力を込めた音波は、地面を砕き、空気を裂きながら炎を掻き消して行く。
その波動は止まる事無く、赤いドラゴンを巻き込み吹き飛んでいく。その様は見るに堪えがたいもので、羽根は勿論、腕や尻尾も細切れにちぎれて吹き飛んでいた。
「よくもザクセスを!うおぉおおおおおおおおお!!!」
再び胸に槍が突き刺さる。
爪の間に二本のシャー芯は少し痛い。
それはさておき。この子に対して先程の咆哮を上げたとすると、こちらの心が持たないだろう。
年端も行かない子を惨殺するなんて非道な事はしてはいけない。
ここはやはり捕まえるしかなさそうだ。
だがどうだ、先程と同じで動きが超早い。槍が胸に来るのが解っていても捕まえれないのだ。棒落としで、掴むことが出来ない棒と同じ。
だんだんイライラが溜まって来る。
イライラも頂点に達しそうなので、軽く。本当に軽く、相手が襲ってくる上空目掛け「――グォ!!」吼えて見る。
――「ぎゃいん!」
どうやら当たったようだ。
『コンちゃん終わったよ。ちょっと滅殺ってわけにはいかなかったけど、俺の強さみんなに伝わったかな?これで平伏しそう?』
(いや、それがじゃな。少し様子がおかしくての――って、おいどこへいく!)
コンちゃんの静止を余所にマントから飛び出た女騎士が、倒れ伏す尖った兜を被る少年?に駆け寄っていく。
――「リュウイ君!リュウイ君しっかり!」
(どうやら知り合いの様じゃの)
『知り合いか……。この場合、知り合いを半殺しにした俺の立場ってどうなるのかな?』
(……先程以上に嫌な意味で五月蠅くなるじゃろうな)
『ですよね……』
溜息を一つ付いた所で、先程ミンチになったドラゴンの方へ足を運ぶ。
……ここってさきっきドラゴンゾンビ倒した所と同じ場所だな。
なんにせよ彼女達があの少年?の知り合いだとすれば、喋るアイツも多分知人?知ドラ?だろう。
回復魔法とか基本ない。
蘇生なんて出来るはずもない。
ないが、一応確認だけはしておかないと
――するとドラゴンの死体のあった場所には、何故か一人のおっさんが顔面蒼白で倒れていた。
『おっさん?……俺達と同じ人化とかか?』
顎に手を置き考えたが、十中八九そんな感じだろう。
どう人化して、どう助かったのかはわからないが。息があるのでホッと胸を撫で下ろす。
……そう言えばドラゴンゾンビの結晶石って回収してたっけ?
そんなどうでもいい事を考えていたが、突然。それも急激に胸に痛みが走る。
先程槍で刺されたものなど比較にならないほどの痛み。激痛。
それは我慢出来る様な物ではなく、膝を付いてうずくまる程のものだ。
――そ、そうだ。ステータス。
自分の状況確認の為、意識が遠退きそうな感覚のまま「ス、ステータスオープン」
名前 ヤマダク・ズオー
年齢 不明
職業 不明
種族 オーク(進化種ユニーク種)
称号 ダンジョン滅殺者
Lv 20
状態 女神ティーリケの呪い(重)(あと10,000ポイントで解除可能)
HP 78534100・78643200
MP 52423300・52428800
通常スキル
怪力2000・打撃2000・肉厚2000・体術受け身2000・棍棒術2000・投擲2000・聴力倍化・視力倍化・念話強化
固有スキル
経験値変動取得(邪神眷属を一定数討伐でボーナス)
人化:(1時間)
破壊光(統合済み)
グラビトンボイス(統合済み)
レアスキル
時空跳躍(自身の命を女神ティーリケに捧げる事により使用可能)
※女神ティーリケの眷属
直ぐ様ステータスの以上を確認するが、HPは少し減っているが先程の槍の物だろう。MPも先程の分。
状態は相変わらず女神の呪いとあるが……残りのポイント数が微妙に増えていた。
――他に変化は見当たらない。だとすれば、この痛みはここから来ているのだろう。
しかし何故ポイントが戻った?そもそもなんでこのポイントは減っていたんだ?
うずくまる中思考する。
周りを見渡せば、コンちゃんがこちらに駆けて来てくれているのが見えるが、その後ろ。その後ろで、俺を睨みつける視線を見つけた。
先程まで俺の子供すら生みたいとわめいていた女騎士だ。
『ったく、なんなんだよ。これだから女は――』
(ど、どうしたのじゃ!)
『あぁ、コンちゃん。む、胸が痛くて苦しいんだ』
(ダンジョンの中でさえそんな苦しそうにした事など無かったではないか)
『そうなんだけどさ。今ステータス確認したら、状態の所のポイントが何故か増えてたんだよ』
(そ、そのせいだと言うのか……いや、ありえるかもしれん。そもそもあれは呪いじゃ。我もなんの呪いか解らず、害も無いので今まで放置してしまっていたが、これは早急に調べる必要がありそうじゃな)
『方法があるのか!?』
(やってみなくては解らぬが……しかしここではの。どこかの神殿に行かねばならん)
『……それは人間の居る場所に行けと言う事か』
(お主の人間に会いたくないと言う希望とは逆になってしまうが、そんな苦痛に歪んだ顔をされては我も心配で仕方がないからの……ここは忍んで行って欲しいところじゃ)
その言葉で俺の胸の痛みが少し軽くなった様な気がした。
『コンちゃん……心配してくれるんだ』
(ば、馬鹿者!あのダンジョンを一人で制覇してしまうカズオを、い、いちいちち心配などしておらぬわ!)
――コンちゃんがプイっと顔を背ける頃には、既に痛みは治まっていた。
……この痛みはなんなんだろうか。
周りを見渡せばドラゴンは人の姿のまま、体中から煙が出ている。コンちゃんに聴けば自動回復のスキルでも持っているんじゃないか?との事だったが、そんな物は無かった気がする。
槍の少年はエルフが回復魔法を使っているらしく、かなりまぶしいが、優しい緑の光が彼を包んでいた。
双剣の猫耳はそれを心配そうに見つめ、女騎士は不安と怒りが混在した表情を再びこちらに向けたところで視線が合う。
「そこの魔人!貴方の物になると言うのは撤回する!」
胸の違う場所がチクリと何かに刺された様な気がした。
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