第15話 出会いの依頼

――途中までシェリー視点です。





 私はシェリー、シェリー・ドゥ・オリビアーテ。

 今は聖王国バーミリオンの一冒険者に過ぎない。

 幼少の頃、父であるバーミリオン国王が暗殺されて以来、身分を偽りオリビアーテ侯爵家でご厄介になっている。


 王家に居た頃には発現しなかった女神の祝福として授かった精霊騎士としての能力のおかげで、そこそこの強さを手に入れる事も出来。

 仲間にも恵まれたせいもあり、今の父、オリビアーテ侯爵に対する恩は返しても返しきれないものだ。

 

 ある日そんな恩人から見合いの話しが舞い込んできた。


「シェリー、冒険者家業もそろそろ終わりにして強者の家へ嫁ぐ気はないか。いや、お前がその気でないならこの話は断ろうと思うのだがな」


 そんな謙虚な父の言葉に、私が断る理由などない。

 ましてそれが強者だと言うのなら、願ってもないのだから。


「おぉそうか!では一度会ってみるといい。お前も相手を見たら驚くぞ!」



 それから数日後、魔道軍近接魔道大隊隊長のシュトラード・ヘイムス将軍が花束を抱えて家にやってきた。 

 

 心細くはないが、一人ではなかなか足に地がつかない感覚もあるので、今日はベスパとリリーも家に呼んである。


 バーミリオン王国は強い者が正義な部分もある為、獣人とエルフの彼女達が私とつるんでいても誰も文句も言わないし、止める者もいない。

 


「すごい花束ね。あんな量の花束を贈る男性なんて初めてみるわ」


「僕はあの花束より、将軍の威圧感の方が気になって仕方がないよ」


 普段着のリリーと短剣を腰にさしたベスパがヒソヒソと私に話しかけて来た。


 だが私の心の中の彼に対する呟きは少し違っている。


「(……おじさんですか。私の倍は歳をとっているのでは?)」


 花束よりも、威圧感よりも、その見た目の年齢が気になって仕方がないのだ。


 強い子を産むだけであれば彼で充分だと、精霊騎士としては答えが出ている。


 しかし恋愛となると、私は出来ればあの子。


 たまに槍術の練習に付き合う竜騎士のリュウイ辺りの可愛い年下男子が好みなのだ。


「お前がシェリーか、我は魔道将軍にして勇者の血を引きし者。今後は我の近くに居る様努めよ」


 結婚をして子をなすだけの関係なのに、何故彼の側にいなくてはならないのか。


「お言葉ですが将軍。私は冒険者ギルドに所属する身でありますれば、今すぐ参る訳にはまいりません」


「ならん!……だがお前にも別れの時間が必要であろう。この花が枯れてしまうまでに別れを済ませ、我が屋敷へと参れ」


 それだけ告げると、彼は家を出て行った。


「僕はああ言う人苦手だなにゃ」

「そ、そうね。私も得意な方ではないわね」


 そんな二人に。


「なんだ二人とも。まぁ私も同意見には違いない。違いはないのだが、子をなすだけであればとっとと彼の元に行き、子供を産んで戻ってくればいいだけで――」


「シェリー様!結婚されるとは本当でありますか!」


 いきなり家のドアが開かれたと思えば、竜騎士のリュウイ君が血相を変え飛び込んで来た。


「おいリュウイ失礼だろう! ここは冒険者ギルドではないんだ、少しは場をわきまえろ」


 その後から現れた赤い髪の大男が既にリュウイ君をつまみあげていた。


「すまんなお嬢さん方、坊主は少し直情的な所があってな」


 すまんすまんと手をあげる彼に見覚えはある。


 いつもリュウイと共に居る、赤髪のゼクサス。巷ではその強さは現将軍に匹敵するとも言われる強者だ。



「坊主はお嬢さんに熱を上げていてな。まぁそんな事だ、思春期の猛りってヤツさ許してやってくれ」


「ぼ、僕はそんなに猛ってなどいないぞ!降ろせ!降ろせザクセス!」


 足をばたつかせ、暴れるリュウイ君も見ているとなんだか可愛い。


 漸く地面に降ろされたリュウイ君は。


「あんな男に嫁ぐくらいならぼ、僕とけ、けけけ、結婚して下さい!」


 あちゃ~と額に手を充てているザクセスを横目に。


「ありがとうリュウイ君、君の気持は嬉しい。だが私は精霊騎士なのだ。精霊騎士は強者の妻となる定め、君では私の隣には立つ資格がない。それはわかる?」


 シェリーのその言葉に、ベスパとリリーがザクサスと同じ「あちゃ~」の体制に入った。


「うっ、ううっ、僕、ぼく絶対強くなってやる!この血に誓って必ずシェリーさんを奪って見せる!」


 言い放ち、リュウイ君は駆けて行った。



「――ありがとうよお嬢さん、これであいつの魂に炎が宿った」


「ん?」


「なぁに、あいつは強くなるぜ。それこそ俺以上にな」


 その後ザクセスも退散し、三人で今後の事を話し会う事にした。主に冒険者としての今後の活動方針について。


「あ、その前に」


 場所を変えようとしたその時、リリーが右手を翳し。


「フリーズドライ!」


 将軍からの花束を、見た目も美しいドライフラワーに変えた。


「これで枯れないから急ぐ事もないな」「「うんうん」」


 三人は意気揚々と冒険者ギルドへ向かうのだった。



――――

――



『『『将軍様~~!キャー将軍様~~!!』』』



 群衆の合間を魔道将軍ヘイムスが笑顔で手を振る。


 手を振る最中、笑顔のまま側近へ前方で手を振る町娘を指さし、「今夜はあの娘を連れて来い」


「はっ」


 側近はそこから姿を消し、その晩、指を差された町娘も行方をくらませた。



――――

――



「よう三人さん、新しいクエストが張り出されてるから見てってくれよ」


 冒険者ギルドに到着した三人は受付の男からの言葉を受け、新クエストに目を通してみる。



「ここから西へ20日と言えば、すでにラ・ピニオン王国の領内だな。大丈夫なのか?」


 シェリーの質問はもっともで、隣国、ラ・ピニオンとバーミリオンはいつ戦争に突入してもおかしくない関係と言われているからだ。


「なぁに、ギルド同士で話は出来てるからな。それにこちらの冒険者の方がレベルが高いからな、ピニオンもこっちに頼るしかないんだよ」



『情報収集クエスト:依頼主ラ・ピニオン及びバーミリオン冒険者ギルド』


 確かに、連名での依頼の様だ。


『西の森にて魔物の調査及び、ダンジョン確認捜査』


 ダンジョン確認捜査とは、新しくダンジョンの情報があった場合に発せられるクエストだ。

 それが本当にダンジョンかどうか確かめるクエストであり、言い換えれば未開のダンジョンの捜索が可能と言う事だ。


「い、いいのか私達がこんな美味しい、じゃない――新しいクエストを受けても」


「まぁ今は昼前だしな、タイミングが良かったんだろ。どうした?受けないのか?」



「いや、受けるとも!」



 こうして私達三人はこの森へ入ったのだ。

 



――――


――



 その森では、レッドドラゴンと巨人の戦いが既に幕を開けていた。


「なんで私はあの時シェリーの腕を掴まなかったんだろう」


「僕も後悔してる最中にゃ……」


 マントの中呟く二人に対し、目を輝かせその戦いを観戦するシェリーは。


「どうした魔人殿!そこだ!そこの空いた顎に一発こう、そこ!そうそこだ!おい二人とも見たかあの戦い方!なんと心躍る戦いをする御仁なんだ!そう思うだろ!いやそう思わない人は人ではない!」


(おーいカズオ~、お前の信者が狂信的な感じになって周りに迷惑を掛けだしたんだがなんとかならんかぁ~)


『ちょ、今戦闘中!』


 急降下を掛けたドラゴン目掛け一発パンチをお見舞いした所で、ドラゴンの頭が後方へ投げ出されると同時に繰り出された奴の尻尾を回避しながら念話に応える。


(なんじゃ、結構余裕じゃな)


 そんな事を念話で飛ばしてくるコンちゃんだが、確かに戦闘力と言う意味では余裕。


 余裕だが、戦闘と言う意味では向うが一枚も二枚も上手で、なんせドラゴンって口デカイし、声もデカイし、なにより普通に怖いのだ。


 しかもドラゴンゾンビや今までの雑魚魔物と違い、意思を持ってるのが分かる。


 なんで意思を持ってるかわかっるて?そりゃあーた。


『ちっ、やるな!そこな巨人!お前の種族と名を名乗れ!』


 とかめちゃくちゃ念話飛ばして来るんだもの……。


 だがしかし、突如後方上空から。


「何者か知らぬがここで滅せよ!ドラグーンシュート!!」


 その声に振り返り見上げるが、逆光でその者の姿は霞んでいる。


『ちっ』


 瞬間、巨大な力の衝突を自身の胸に感じると同時に、足が地面へと埋もれる。

 それ程強烈な一撃。その強烈な一撃は俺の周囲にクレーターを作る程の威力で確実にこの身を滅ぼそうとしている。

 

 もうこの一撃は人を倒す為のものではない。槍の先端は確かに俺に突き刺さって入るが、その威力は既に範囲攻撃のレベルだ。


 これが本当に人に向けられた攻撃だとすれば、オーバーキルにも程があっただろう。


 だが、俺の体術の数値を舐めるな!

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