第13話 聖王国・バーミリオンから

――数日前。



 3人と1匹と1本がなんやかんやしていた森から、国境を越え、馬で東へ向かう事20日。

 そこに三人の暮らす国は在る。



 数十万人が暮らす城下の中央に聳え立つ城。


――聖王国・バーミリオン王城


 世界の中枢は、女神バーミリオンによって構築され、その愛は崇高な者により多く降り注ぐと信じられるバーミリオン教が根深く浸透した王国だ。

 その概観は荘厳たる城壁に守られ、至る所に鎧に白と赤が基調の前掛けをした兵の姿が数多く見られる。

 大きな城門から見上げると、城から突き出る鉄骨の橋が見える。そこを滑走路とし、ワイバーンを従えた竜騎兵も存在している。

 宗教を根底に掲げ、武力をもって威厳をしらしめるその国威は、隣国へ充分に発揮されている。



 そこ国威たる武力の象徴として、国民から大人気の部隊が存在する。

 その中でも隊長格の者達は、アイドルの様に皆の人気を得ており。その発言力は王にまで届きそうな勢いであり、国の内政を危ういものにしていた。


 中でも突出した存在が一人。


――バーミリオン王国、魔道軍近接魔道大隊隊長、シュトラード・ヘイムス将軍。


 異世界より召喚されし勇者の能力を引き継いだとされる男だ。



 そんな魔道将軍が、鉄橋の上に待機するワイバーンを従える竜騎士の元に姿を現していた。



「王からの許可は出ている。行って王を討ってこい」


 ヘイムスが声を掛けたのは、15歳と若いが、最近竜騎士としての腕前が急成長中の竜騎士、リュウイ三等空尉だ。


「はっ! で、ですが隣国ラ・ピニオン王国王城の隣にはギルドもありますが……如何いたしましょう」


 額に敬礼の手を充てたまま、一人の竜騎士が汗を一筋流し視線を合せず質問をする。


 その問いにヘイムスは右拳を彼の視線の前に持ってくると。


「――ボン」


 破裂音と共に手を開いた。


「構わん、もし攻撃が当たって反撃するような事があれば潰してしまえ。どのみちあの国は無くなるのだ。あっても仕方なかろう」


 竜騎士はその言葉に目を細めるが、ヘイムスが後ろを向いた後だ。


「そうそう忘れておった。前王の忘れ形見のシェリーの保護を優先しろよ?あれには俺の子を生んで貰わなくてはならんからな。あははははははっ」



 何がそんなに可笑しい事なのかわからず。ヘイムス将軍と言う人物が癖のある人物だと言う事は充分理解できた。




「三等空尉、そろそろ時間です」



 ワイヴァーンの世話係から声が掛かる。

 

 これから三日間空を移動し、先ずはシェリー殿を捜索。見つからなければ、そこからラ・ピニオンへ向かい城を攻撃。

 

 戦争を起こす切っ掛け。それをまさか自分が請け負う嵌めになった事に、リュウイは少し肩を落とす。


 そして彼は、目の前の15メートル程の生物に謝罪を述べる。



「ゴメンね。人間の戦いに君を巻き込んでしまって」


『かまわん。ワシの願いはお主の願いよ』


「……願い、ですか」


『――わかっておる』


 その一言の念話後、その生物が頭を上げと世話係が。


「総員退避!レッドドラゴン及び竜騎士リュウイ空尉が出撃する!総員退避!」


 リュウイは、先の尖った兜を被りドラゴンの背に乗る。


 それを確認した赤いドラゴンは、翼を広げると両翼30メートル以上となり、大きくそれを上下に一度はばたかせる。


 その一度。その一度だけのはばたきで、彼らは大空へ駆け上がった。




――――

――


――現在。



『おーいお前ら聞こえるか!?おーいって』



 俺は三人へ謝罪の念話を送り続けていた。



『お前らはふしだらでもねーし、二股もかけてねーよ!』


「胸は!」


 エルフが叫ぶが、それは真実なのでなんとも言えない。言えないが。


『お、俺は胸が大きい方は好きだ』


 その言葉に、エルフの表情が和らぐ。

 なんとか回避。回避です。が。


「マ、マスターは胸が無いのはダメなのか!なーマスター!答えてくれ!」


「そ、そうにゃ!ぼ、僕も胸なんて脂肪は無いにゃ!なら僕の事も嫌いなんだ!」



 マジうざい。


(自業自得じゃな。女を泣かせると言うのはウザイものじゃと心得よ)


 え、コンちゃん俺の味方じゃないの!?


 振り返ると、少し大人姿のコンちゃんが胸を両手で隠していた。


 あ。あぁ~そう言えばコンちゃんもちょっと残念系だったわ……。



「どうなんですかマスター!」


「どうなんにゃ!」


「私は満足ですわ」



……これいつまで続ければいいの?



(彼女らが飽きるか、納得できる言葉をもらえるまでじゃろうな。奥義である同調技も今になっては使えんしの)


 コンちゃんの言葉に引っ掛かる。同調技!?そんなスキルあるのか!


『なに、その同調技って!』


 すぐさま聞いてみた。



(女性の意見にウンウンそうだね、と自分の意見を捻じ曲げ、意見を合せてやり過ごす大技じゃ)


『自分の意見を曲げて……だと。かなり大技だな。でもそれスキルでもなんでもないね』


(まぁ人として生きる上でのスキルじゃな)


『上司だけでなく、女にもそれをしないといけないと?』


(当然じゃ。女は上司程甘くはないがな)


『……異世界に来てまで人に気を使うとか、ほんとやなんだけどな。他に何かいい方法ない?』


(そうじゃなぁ。あと我が見て来た中では、男の強さを存分に見せ付けて魅了してしまうって方法じゃな)


『えぇ~、今彼女達の前でドラゴンゾンビってかなりややこしいの倒したじゃん。それでもダメだったじゃん』


(じゃんじゃん五月蝿いのぉ。あれでは足らんのじゃろ。あ、ほれ見ろ。ちょうどいい所に獲物が近づいてきよるぞ)


 ん?と上空を見上げれば、大きな赤いドラゴンが上空から滑空体勢に入っていた。


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