第12話 泣かれると面倒
「マイマスター!いや、神よ!あぁマイ・エンジェル・ゴッドよ!」
『……』(……)
「如何されたのだ?是非我を貴方のお供として欲しいのだが」
女騎士がまたなんか言い出した。
俺は兜を外さず、念話で話しかける。
『あのな譲さん、俺の体のデカさ見たら人間じゃない事くらい直ぐにわかるだろ。それでもそんな事を言ってるのか?それに他の二人を見てみろよ。怯えきって……』なかった。
あれ?なんで?なんでそんな興味心身で見てんの?
三メートルはあろうかって巨人だよ?豚鼻オークだよ?
(カズオよ、兜を脱いで見せてはどうじゃ?)
それはそうなんだけど、心の中の一線と言うか、プライド的な物がどーしても引っ掛かって兜を脱ぐ気になれない。
なんせ目の前の女騎士は、昔見たアニメのオークに陵辱される姫にそっくりなんだもの……。ここでビビらせる為だけに、ガオーとかやっちゃうと俺の心が折れそうなんだもの。
(何を戸惑う事がある!さっさとせぬと本気でこいつは付いてくるぞ!見よ、あの狂信的なまでに強者に対する羨望の眼差しを!)
コンちゃんの言う事ももっともなんだが……やっぱりここは……。
(ぇええい!面倒な男じゃ!ならば我が取り払ってやるわ!)
言うやいなや、コンちゃんの身体が光り輝く。
『コ、コンちゃん!こんな所で人化とかしたら余計や――』ややこしくなるから!って言い終わる前に、先程の棍棒から女性の姿に変貌を遂げていた。
少女ではなく、女性だ。
これでまた丸一日彼女は人の姿のままなわけだが、少女じゃなくて成人女性なのにも理由がある。
メギドギガンテスは俺の魔力を盛大に彼女に注いだ結果発動する物で、放出し切れなかった魔力が彼女の中に溜まり、成人女性で顕現するのだ。
するのだが、俺がややこしいと言ったのはそこではなく。
「な、なぜただの棒っ切れがバインバインの女に変身するのだ!」
てな感じで女騎士がたじろいでいる。
……なんせ素っ裸だしな。正直、その姿は美しいの一言に尽きるだろう。鼻筋の通った顔は小さく、スタイルは抜群だし、長い金髪が揺らめくとまるで光の粒子が撒かれている様な錯覚さえおこる。
だがしかしだ。恥じらいの無い女性の裸程何も感じないものは無い。実に惜しい。
『またお前はそんな格好で……いいから何か羽織れ、袋になんかあっただろ』
俺は荷物入れの袋から何かしら無いかと漁ろうと屈んだ瞬間――スポッ。
コンちゃんに兜を取られてしまった。
『チッ』
誰も何も言わない静寂が訪れ。
『だから言っただろ、俺は人間じゃない。ただのオークだ』
なんの呪いか知らないが。俺の大嫌いなオークの姿にこの世に転生して、弱いながらも生きる為に辛……くはなかったが、レベルも上げて。
ダンジョン抜けて、ドラゴンと戦ってみたらまだ足らなくて、何度かドラゴンに挑戦してる間に奴もどんどん強くなってしまって。
漸くだ。漸く奴がどう頑張っても負けないレベルにまで到達させてここまで来たと言うのに。
これからひっそりと、だけど慎ましくこの森で静かに生きようと思ったのに。
誰が好き好んでオークの姿で人間に会いたいものか。
魔物の中でも一番二番を争う醜い魔物だぞ?しかも性格も最悪。クズ中のクズの魔物。
人間にとっては災いの種でしかない魔物。
何が魔人殿だよ、何がマスターだよ。とっとと俺の前から消えやがれ、んで彼氏の所にでも行って泣き付けばいい。
何が美人な女騎士だ!その美貌で男たらしてろ。
何が猫耳だ!二刀流?どうせ男も二股かけてんだろ。
何が巨乳エルフだ!そんな胸みせびらかして喜んでんじゃねーよビッチが。
お前ら全員その姿で何人の男を騙したんだよ。最初はそーやって良いように言うんだよ。
今回も俺がドラゴンを倒したのを見て何かの使い道を思いついただけだろう!なめんなよ!お前ら女の考えなんてお見通しなんだよ!このクソが!
何故か昔の苦い記憶すら蘇り、俺の心の底からドス黒い物が溢れ出る。とめどなく、どめどなく。
すると、周りから女性のすすり泣く声が聞こえる。
「ひっ、ううっ、ひっ」
しかも一人ではなく、きっちり三人。
あ、あれ?
「わ、私はそんなふしだらな女ではない。そ、う、うぅ。それに彼氏なんて居ない。居るとすれば親が勝手に決めた許婚くらいだ」
「僕、僕だってそんな女じゃないにゃ!ずっと剣の道を究める為にここまで頑張ってきて、初めて僕の想像を超える強い人に出会えたと思ったらそんな事言われるにゃんて。うひっ、ひっく」
「この胸で良い思いなんてした事ない。私は本当は前衛になりたかった。でもこの胸のせいで剣も振れず、ただただ悔しい思いばかりしてきたのに。こんな森の奥でそんな風に言われるなんて……ヒクッ」
コンちゃんへ振り返り。
『……俺の念話……どこから漏れてた?』
コンちゃんはそっと兜を俺の頭へもう一度のせると。
「これからひっそりと、だけど慎ましく辺りじゃな……。それからのカズオ……」
『は、はい!』
「我は天蓋孤独の身じゃ。お主の見てきた女の様には誓ってならぬぞ」
『……本当にごめんなさいでした』
此れほどやっちゃった感は何時以来だろう。
兎に角俺は彼女達が泣き止むまで誤り続ける事にした――
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