第4話 死ななかった。
――20年後。
俺はあれから恋をせずに生きて来た。
意思を持ち自分勝手に行動する三次元の女に、俺は心を開く事はない。
あの衝撃から少しゲームやアニメからも遠ざかり、勉強ばかりした。
数字や文字は裏切らない。
ゲームやアニメに遠ざかった理由もはっきりしている。
お気に入りのアニメの最終回が、全員オークと言う下級魔物に残虐に殺されてしまう所謂、鬱アニメだったのだ。
最終回はこんな感じ。
魔物に囚われたヒロインを救出すべく、魔物の巣窟に向かった主人公だったが。巣窟の主、魔王と戦っている間に、魔王から手を出すなと厳命されていたヒロインに対し、知能の低いオーク達は自身の欲望を抑えれず凌辱の限りを尽くす。
魔王を辛うじて倒した主人公は、ヒロインを迎えに行くのだが……そこで見た物は陵辱の限りを尽くされ、無残に四肢をもがれたヒロインの姿だった。
激昂した主人公は、オーク達を切り伏せてようとするのだが、魔王との戦いで疲弊したその体では下級魔物のオークですら屠る事叶わず、主人公もまた凄惨な死を迎えた。
暗黒だった世界は、魔王の死により晴れ渡る。
青空に小鳥が達が飛び交う光影の中、日の光りが差す大樹の影に無数の蠢く何かがこちらを覗き込んでいた。
――明るい光はより暗い闇を生み出すのだ。
そんな言葉が血塗られた暗い画面に浮き上がった最終回。
年間クズアニメの一位を見事獲得した作品である。
だがあのクソアニメのおかげで今の俺があると言っていい。
あのまま二次元大好きのままだったら「ヒキニート」の将来しかなかったかもしれないのだから――。
そんな俺も今や出世を果たし課長にまで昇進していた。
「山田課長、こちらに捺印お願いします」
「……君、これで修正したつもり?」
「は、はい。先日言われた所は修正しましたが」
俺は無言でその紙を脇に置かれたシュレッダーへ投入する。
「くっ」
「なんだその悔しそうな顔は。こんな修正に何日掛かってるんだ?この件は既に白紙に戻してある。新しい企画書を用意したまえ」
当然だ。
修正に二日も掛かる様では他社と競合する時に後手後手に回り、目も当てられない状況になるのは目に見えている。
俺も昔はそうだったからな。目の前シュレッダーは少し厳しいが乗り越えろ。俺もそれくらいは乗り越えて今の肘掛椅子を手にしたんだからな。
さてトイレでも行って昼飯でも食いに行くか。
俺は立ちすくむ部下を残し、そのまま席を後にした。まぁ頑張れ若人よ。
「沢渡部長、食事でもいかがですか?」
「おぉ山田君か、すまんが専務と約束があってな」
「そうですか、ではまた今度是非あの店に」
「あぁ、焼き魚の美味しい店だな。楽しみしとくよ」
「では」
「あ、それと山田君」
「はい?」
「君も少し指導を緩めた方がいいぞ」
「と言いますと?」
「俺達の時代は少々手荒な指導を受けて来たが、今は時代が違うみたいでな。今から専務と会うのもそれ絡みだ」
俺は少し眉を寄せ部長の手招きのまま近づく。
「パワハラだよパワハラ。どうやら総務課長の斉藤君が部下にパワハラで訴えられたらしくてな。今から労働基準局への対応なんかを話しに行くんだよ」
じゃお前も気を付けろよ、と部長は立ち去った。
俺はそのまま昼飯の前にトイレの個室に立ち寄り用を足す。
しかしパワハラか……俺の場合は単なる指導だと思うし、まぁ大丈夫だろ。
あくまで指導だし、ああ言う事をされて悔しい思いをしていい仕事が出来る様になるもんだ。
俺はそう結論付け、トイレットペーパーに手を掛けたその時。
――ドンッ!!
いきなりトイレのドアが蹴破られる。
「な”」
だれだ!ドア蹴破るとか!まだ全部出てねーんだぞ!半分残ってんだぞ!
見れば覆面をしたスーツの男がナイフを持ってこちらを睨み付けている。
覆面はしているが、そのスーツは先程の俺の部下で――。
――「死ね!このデブ野郎が!」
こうして俺は、心も、う○こも、スッキリしないまま38年の人生で終わりを迎えた。
はずだった。
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