第2話 プロローグ――第二話 我の名は。

 考えてみれば、兜を被ってるので巨人的な何かと勘違いしても仕方ないか。

 あ、じゃ兜をずっと被ってればオークってばれない?


(無理じゃろうな)


 無情にも少女念話が飛び込んでくる。


『はいはい』


(それより真剣に戦わんと死ぬぞ)


『わかってるってば』



 そんな念話を余所に、少女達は驚愕している。




「あ、ありえない」


 呟いたのは魔法使いで巨乳でエルフのリリー。


 既に腰を抜かしていたベスパに至っては目の前の出来事が理解出来ていないようだった。



(あんた達、死にたくなかったらそこから動くんじゃないよ)


 シェリー、リリー、ベスパの脳へ直接聞き慣れない少女の声が届く。


「念話!誰!?」


(おっ?流石魔法使い。巨乳だから馬鹿だと思ってたけど、これが念話ってわかるのね)


「巨乳だから馬鹿って……」



(まぁよい。今は、とにかくそこで大人しくしてるのじゃ。って、それよりほら、とっとと片付けなさいこのデブ)


 その声は誰に向けられたものなのか、彼女達は直ぐに気付く。



「『デブ言うなぁあああああああ』――グォオオオオオオオオオオオオオオ!!」



 念話の主は目の前の魔神に命令したのだ。


 上空から滑空していたドラゴンは、自分の放った火球が返って来た事に驚きもせず、スッと態勢をずらし火球を避ける。


 だがそれを予想していたのか、魔神は投げた火球の後方に別の自身が放った光の塊を隠していたのだ。


「まさか無詠唱でライトニングボールを放ったの!」


 リリーの驚きを無視し。


「――グォオオオオッ!!」


 光の弾は魔神(オーク)の唸り声と同時にその軌道を変える。


「ライトニングボールをあそこまでコントロールするなんて――なんて魔力なの!」


「リリー!これはいったいどういう事なんだ!」


 シェリーはリリーの肩を揺すっていたが。



――ドーーーーーーーーーン!!!



 光の玉は、見事にワイバーンの顔面を捉えた。



(どうじゃ!やったか!やっただろ!)


『おま、なんでそんなフラグたてんだよ!』 



 今度はさっきの少女とは違う男の声の念話が飛び込んで来た事に、少女達は周りを見渡す。



『あ、やべ――グォオオオオオオオオン』



(なぁお主、今更うなり声上げても誤魔化せてないと思うぞ?てか逆にまずくないか?)



 しまったーーー!! 念話だけだったらまだしも、咆哮まで念話しちゃったぞ!



(いや、まぁそうなんじゃが……お主は焦ると本当に暴走するよな。それより気を抜くな)


『気を抜くなって、フラグ立てたのお前だかんな!』


(ほれ来たぞ)



――グギギギギギッ



 地面に墜落し、顔を潰されながらも、かろうじて残った口で此方を威嚇するドラゴン。



「なんて生命力なんだ。顔が半分ないんだぞ!? あれだけの火力をもってしてもまだ生きてるのか。ドラゴンとは此れほどに生命力のある生物なのか!」



 言って女騎士シェリーは不用意に一歩前に出た。それは興味からか、錯乱からかはわからないが。



『止まれ女騎士』



 俺は念話で彼女を引き止める。いや、女性相手なのでもっと優しく「お嬢さん、そこで止まって下さい」とか言った方がいいのかな。

 如何せん美人と喋るのが数年振りで、ぶっきらぼうになっちゃった。でもちゃんと言わないとな。


『お前、少し落ち着け』


(この念話は……やはりそこの魔人殿であったか)


 魔神殿!? 殿って……だから俺オークだよ!?いいの、そんな感じで。しかも女騎士とオークってもう最悪の組み合わせだよ!?なんなら速攻望まぬ妊娠コースだよ!?



(それはドラゴンゾンビと言ってな、死んでも死なぬのだ)


「ゾンビ?」


 あれ?ゾンビ通じない?


 すると棍棒さんが追加で。


(そのドラゴン。見た目普通のブルードラゴンだが、死霊ドラゴンじゃ)


 その念話に魔法使いリリーが驚愕の表情を浮かべる。


 なんでそんなに驚くんだ? まぁそれよりこいつを先に始末しないと。


 見れば徐々に回復しかけた眼球を、改めて棍棒で叩き潰す。


 そして今度は飛び立てない様、羽をもぐ。


 そして仕上げ。



『女神ティーリケの地にて、我、約定を果たさん!神に仕えしオークの願い聞き届けよ!!』




 俺の手から放たれた青い光は、ドラゴンゾンビを覆うと光の粒子に変換されていく。




――コロン。




 そこに残されたのはゴブリン達とは違う巨大な青い結晶。


 手にした棍棒が呟く。




(勝ったな)


『あぁ』


(じゃがこれからが大変じゃぞ)


『あぁ、しかし守れた』



(そうじゃな……人の心を捨てれぬオークじゃしな)


『…………』


 俺はその言葉に何一つ言い返す言葉を持っていなかった。


 

 見上げるといつの間に雲は晴れ、まぶしい二つの太陽が全身を照らす。




 その時、後ろから女騎士が。



「あ、貴方が私のマスターか!」

 


『へ?』



 なにそのセリフ!なんかすんごい聞き覚えあるんだけど!


 聞き間違いかもしれないのでも一度聞いてみる。



『今なんて?』



「いや、だから貴方こそ私のマスターだ」



 うわぁ~微妙に変わった! すんごい聞き覚えのあるセリフだけど、微妙にちっがーう!

 でも、なんだ?



『どゆこと?』



 俺の念話に答えたのは魔法使いでエルフのちちー、いやリリーだ。



「彼女は冒険者であり、精霊騎士。精霊騎士はその力を心から認めた者の眷属となるのです」



『はい!?』



「魔人殿、どうか私を貴方様の眷属に。子を成せと申されるなら、この身体如何様にして頂いて結構です」



 いやいやいや、そりゃ駄目でしょ!嬉しいよ!?でも駄目だから!女騎士を弄ぶオークとかほんとしゃれにならないからね!!それにほら、サイズ合わないだろうし!



「にゃんだ? シェリーはそこの魔人さんとエッチがしたいのにゃ?」



 なにこの子!なに凄い事しれっといっちゃてんの!馬鹿なの!?


 それにさっきまでドラゴンにめっちゃびびってたよね君!なのになんで俺の事は平気なの!!



(ぶはははははっ、これは傑作じゃ。よいかそこの娘。この者は人ならざる者。いや、そもそもこの世界に居てはならぬ者よ。貴様はそんな者と共に居ると言っておるのじゃぞ?)



 突然彼女を挑発するかの様に喋りだす棍棒さん。しかし。



「なんだその木の棒は。たかがインテリジェンスウェポン如きが」



(な、なななななに!たかがインテリジェンスウェポンじゃと!こ、この世に我の様な存在が他に存在するわけなかろうが!)


 手元でプルプル震えだす棍棒さん。



「ん?インテリジェンスウェポンなら私も持ってるにゃ」


 言って猫娘のベスパが腰の剣を前に突き出す。


「――Hello. How are you?」


 なんか機械音的な英語が挨拶してきた。


「ほら、これはこうやって。――こんにちわにゃ」


「――Hello. I am a sword」


 以降繰り返し。


(いやまてまてまて!その剣に意思はないではないか!ただのオウム返しじゃろ!なにがインテリジェンスじゃ!そんな物と一緒にされるなんて驚きだわ!)



「「「……」」」


 

 突然驚きの表情を浮かべる三人。


「ま、まさか。その木の棒には意思があると言うのですか!」


 いや、君またそんな言い方したら……。


(誰が木の棒だ!我は世界樹ぞ!世界樹のユグドラシルとは我の事ぞ!!そ・れ・に・だ、ずっと喋ってるがこれは念話だろーが!念話も使えるスーパーウェポンだぞ!)


 なんか半泣きのコンちゃん可愛いかも。


「「「…………」」」


 三人はその言葉に呆然とし、お互い顔を見合わせると。


 [why?]なぜ?みたいに両手挙げていた。



――――

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