オークですけど恋愛しないとダメですか?

ばさーさん

第1話 プロローグ――第一話 オークですよ?

――雨の降りしきる深い森の中、剣激の音が響いている。


 前衛は、盾と剣を振る少女が一人。

 もう一人は、短めの剣を二本手にして動き回る赤いフードの少女。

 その後方に控えているのは緑のローブを羽織った少女が、杖を翳して魔法を放つタイミングを見計らっていた。


 見ればどうやら彼女達が相手にしているのは、胸糞が悪くなる残忍な顔をした数匹のゴブリンの様だ。




「シェリー!後ろ!」


「ちっ。ありがとうベスパ、こいつら意外に動きが早いし足元も滑るのよ。リリー!お願い!」


「任せて!――ライトニング!」



 彼女達の装備に統一性はない。が、盾の少女の装備はなかなかに豪華そうに見える。

 双剣の少女はその特徴である二本の剣より、高速で移動する度に光る足元が目を惹く。何かのスキルなのだろうか。


 目を惹かれると言えば、後方に控えた緑のローブの少女だろう。


 彼女が後衛職を選んだ理由はたぶん、ローブを着ていてもわかるあの胸が邪魔で前衛職に不向きだからに違いない。うん、間違いない。


 魔法を放った緑ローブの少女だが、その瞬間が一番隙が出来る。


 案の定彼女目掛け、後方からアーチャーゴブリンの矢が穿たれる。


 だがしかし、その矢は彼女に当たる寸前でその威力を失い地面へ堕ちる。



 障壁ぽい魔法?なかなかの使い手の様だ。



 6匹くらい居たゴブリンは、三人の少女に次々と吹き飛ばされたり輪切りにさる。


 気が付けば、命を絶たれたゴブリン共が全て灰と化していく。そして死体の後に残される赤い小さな結晶達。



「ウォーターアロー!」


 最後に残った後方のアーチャーゴブリンを、緑のローブが魔法で撃破しここでの戦闘は終了した様だ。





「ベスパ、リリー。アイテムも尽きそうだし、結晶を回収して一度街へ戻りましょう」


 そう言いながら、見た目高そうな装飾の施された兜を脱ぐ先程シェリーと呼ばれていた少女。


 見ればその髪は、青みがかるシルバーぽい美しい髪色だった。


 日本であんな髪の色をしているのはコスプレーヤーか、ファッションデザイナーくらいなものだ。だけど流石異世界と言った所か、なんと美しい女性だろう。


 いや……べっぴん過ぎだろ。鼻筋が通り、身長も髙いし、スタイルも……鎧でわからないけどイイはず。そうであって欲しい。


 そんな妄想をしていると、横でベスパと呼ばれてた者が。



「しかしこんな浅い森に職持ちゴブリンが居るにゃんて、早くギルドに報告しないといけないにゃね」



 語尾に「にゃ」だと……まさか。



 赤い結晶を拾いながら赤いフードを下ろす双剣使い。



 わぉ、異世界認定基準の猫耳さんじゃないですか。


 俺が現世の若い頃、ずっと疑問だったアレの真実を確かめる事が可能かもしれない!

 何が疑問だったかって?


 本来人間の耳の位置にあたる部分はどーなってるのか?って疑問しかないじゃないか。むむ、髪が邪魔で見えない。



 その後方で、緑のローブのフード部分を下ろす魔法使い。


 そこから綺麗な金髪と、その金髪からはみ出た耳が露出する。


 わ、わ、これまた異世界認定基準のエルフさんじゃないですか。巨乳エルフって、三次元にしては中々だな。




「リリーどうしたの?」



 シェリーと呼ばれる女騎士が、緑のローブの少女に声を掛ける。

 その声に「シッ」と自分の口に指を充て、静かに、と二人に対してジェスチャーしている。



「そこに何か居る」



 え?



 エルフがこちらに杖を向ける。


 

「気配はないけど、何か居るわ。魔力の反応がある」



 あ、あれ? このマントって姿隠せるだけで魔力的な反応でるの!?もしかして魔法使い相手には意味なし!?



 などと焦っていると。猫耳さんが耳をピクピクさせ。



「ん。確かに気配感知には反応無かったにゃけど、普通に生き物の呼吸の音がそこから聞こえてるにゃ」



 そ、そうですよね!姿隠せるだけで鼻息とか駄々漏れですよね!


 でも仕方ないじゃないですか!女騎士に猫娘に巨乳エルフですよ!異世界三重奏ですよ!これで鼻息の荒くならない男が居たら教えて下さい!




 すると女騎士が再び兜をかぶり。



「二人とも距離を取れ!」


 その合図に、エルフと猫耳が騎士の後方へ一気に下がると。


――スラッシュ!



 彼女が剣を抜くと同時に、目に見える程に空気が圧縮された斬撃が目の前の巨木を薙ぎ払う。




――うひょー!!




「何者だ!」


 

 彼女の発するその声は、すっごく俺を威嚇している。


 

 俺は絶対バレないと聞いていたので、この天人の羽衣を纏って戦闘に近づいたわけだが……。


 なので、絶対バレないと言った本人に念話を送ってみる。


 送る相手は右手に握る棍棒さん、略してコンちゃんだ。


 

『あのぉ……めちゃくちゃバレてんだけど?話が違うんじゃないか?』



 俺は心の中で手に持ったコンちゃんに話しかける。すると右手の方から直ぐに返事が少女の声で念話が返ってきた。



(いや、今のはお前の鼻息のせいじゃろ。我のせいにするでない)


『いや、でも今魔術がどーたらって言ってたぞ?』


(そ、それはあれじゃ。羽衣の力をちゃんとお主が制御出来なかっただけであろう。うむ、きっとそうじゃ)


 なんか歯切れの悪い言い方だなぁと思いつつも、見つかってしまったのは事実。


 さてどうしたものか。



(今のお前さんなら奴らくらい、やっちゃってこの場から離れればよかろう?)



 手に持った棍棒が何を迷う?殺せばいいじゃん?と、まるでコンビニでおにぎりでも買えば?的な感じでそう言って来た。



 確かに彼女の言う通りなのかも知れない。


 俺はこの世界に来て以来、人との接触は避けて生きて来た。と言うか絶対会いたくない。会ってはいけない。


 出会えば必ず命の危険が伴うと判断したからだ。


 それは俺の見た目に理由があるのだが……。




(ほれ、二撃目が来るぞ。それに今度は支援と後方からの攻撃付じゃ)


『わかってるよ!もーほんと折角アイツを倒せばこの森で落ち着いて暮らせると思ったのに!』


(まぁあいつに勝てたらな)



『黙れ五月蠅い!』



 俺は棍棒を念話で怒鳴りつけると、彼女達にここから立ち去ってもらおうと、威嚇の為に咆哮を上げようと息を吸った。


 それにこの森でこんなに暴れるとアイツが来るかもしれないしな。


 が、その時。


(おい!上じゃ!)



 棍棒さんの声で空を見上げると、両翼30メートルはある巨大な鳥がこちら目掛けて急降下して来ていた。

 羽毛など無いトカゲの巨鳥。



――グギャーーーーーーーーン!!



『チッ』


 思わず舌打ちしてしまう。



(ドラゴンがおいでなすったな)


『あぁ、おいでなすったな』



 どう見ても恐竜に羽の生えた奴だが、逆にどこからどう見てもドラゴンなのだ。

 しかもこのドラゴン。



――グボァ!



 ちゃんと火の玉まで吐き出しやがる。


 

(主よ、どうやら今回のあいつの獲物は我達ではないようじゃぞ)



 棍棒さんの言っている事は分かる。どう見ても火球のコースは俺では無く先程の三人なのだ。


(どうした?今のうちに逃げるか?クククッ)


 そう言う棍棒さんは少し厭らしく笑う。

 俺がこの後どんな行動を取るかわかっての事だろう。


『うるさい、黙れ』 


 そして数瞬の沈黙。


(いいのか?もう静かには暮らせんのじゃぞ?)


 棍棒さんの言っている意味も分かっている。このまま逃げれば何時もと変わらない。

 だがもし万が一彼女達が生き延び、俺の存在やドラゴンの話をされてしまうと厄介だし、そしてそれとは逆に、ここで姿を現せば後には引けなくなる。

 あ。これどっちにしてもダメじゃん。

 

 でもまぁ、目の前の三人はこの世界で初めて出会った人間。ほっとけるはずがない、か――



「ベスパ、リリー!私の後ろへ!リリーは障壁の展開を!」

「もうやってるわ!」


「シェリー、あれはドラゴンにゃ!人の障壁でなんとかなるものじゃないにゃ……」


 ベスパは既に自分の命を諦めたかの様にその場にへたり込む。


 火球はその熱量を増しながら、みるみる彼女達へ接近していく。


「シェリー!火球の熱量だけで障壁が砕けそう!もうダメ!」


「ちっ、やはりこの森にとんでもない者が潜んで居ると言う噂は本当だったか、だがそれがドラゴンだったとはな。……二人とも、国へ帰ったら父へ伝言を頼む、道半ばで申し訳ないと」


「何を言ってるのシェリー……まさか彼方」


「あぁ、スキルを使う。出来れば国を取り返すその日まで使いたくはなかったが」


「ダメよ!貴女の帰りを待つあの人が悲しむじゃないの!」


 既に火球は眼前に迫り、その熱で障壁が崩れる。


「うぐっ、今生で結ばれなかった彼とは縁が無かったのであろう。うっ、もう、障壁がもたん!――さらば」



 その瞬間、自身の命と引き換えに使用する事が出来る最終スキルを使用する。




「――レアスキル! オーバーブごぶはっ!!」




 だが彼女はスキル名を言い終わる前に、突如目に見えない大きな何かによって後方へ吹き飛ばされる。



「なっ!」


 見れば、何かが眼前に立っているのか、視界には吹き荒ぶ風に合せ、黒い鎧を纏う巨大な何者かの背中が見え隠れする。

 そして左肩には大きな棍棒を担いでいる。



 シェリーは驚きの表情で、その巨大な棍棒を担ぐその生物から視線が外せなくなった。



「シェリー逃げて!」


 金髪のエルフが叫ぶ。


 前方には、先程ドラゴンから放たれた火球が今まさに巨漢のそれにぶち当たる寸前だったのだ。



 巨大なその後ろ姿は、空いてる右手を正面に向けると。



「――グォオオオオオオオオオオオオオ!!!!」



 大音量の咆哮と共に、なんとその火球素手で押しとめたのだ。


 驚きはそれだけではない。しかもその押しとめた火球を鷲掴みにすると、今度はドラゴン目掛けて投げ返した。

 


 一連の光景を見ていたシェリーは思わず呟く。





「まさか、ドラゴンだけではなく。魔神までもが居るだなんて」



 

 え? お、俺、オークなんですけど? 








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