過去の真実 3

 携帯をいじりながら、奈衣から受け取ったメモの通り放課後までの時間を屋上ですごしていた。


「もうそろそろ、教室に向かおうかな。もし何かあったらまた記録よろしくね」

《了解しました》


 耳元でキュインと音が鳴ると、静寂がまた訪れる。

 拓は教室に向かいながら、なるべく他の生徒が使わない道を使って教室を目指した。他の生徒と言っても、主に翔や、佳奈に見つかると面倒だと感じたからだ。

 教室についた時には、すでに六時前だった。

 運よく誰もいない、静まり返った教室で拓は自分の席に座った。

 いつ来るかもわからない。

 誰かが来るのをまとうとしていたら、視界の端に人影が見えた。


「やべっ」

 

 眼が追った先には翔がいた。

 いつものように整えた髪に着崩した制服の姿で机にもたれかかっていた。


「拓もとうとう不良生徒の仲間入りか? 珍しいやんサボるなんて」

「今日は休むって連絡を入れてたから、サボりではないよ」


 翔はじっと拓を見ていた。


「なんだよ。なんか僕の顔についてる?」


 日頃誰かを見ることはしているけど、逆だとこんな気持ちなのか。

 でも、なんだか今日の翔の雰囲気がいつもと違うように感じた。


「そういえばさ、今日。転校生が来たんだよね。まあさっそく二限目ぐらいからサボりだす問題児だったわけだけど」

「屋上であったよ。時間つぶすために屋上に行ったら、ばったり」


 フーンといぶかしげに翔は首をひねった。


「まどろっこしいの嫌いだからいきなり聞くけど、拓。[冬付]って知ってるか?」

「いや知らない」


 そっか、と呟き、翔は無機質な笑みを浮かべた。


「あの女、今日の転校生な。冬付の関係者なんだよ。拓は知ってるよな。だって昨夜、会っただろ?」

「いや知らない」


 ――とうつきなんて聞いたことないのにさっきからしつこいな。それに昨夜の事を知っているってどうなってる。

 

「何が言いたいんだ。翔」

 

 口調を強めて拓は言った。

 ちょうどあたりがオレンジ色から暗くなってきた。


「もう一つ質問だ、拓。空喰離は知っているよな」

「……しらない」


 拓は答えるまでの数秒間で嘘だと感じた翔は口の端を吊り上げた。


「ハハッ、やっぱり拓は【冬付】の関係者なんだ。一般人が知るわけがないからね」


 翔は釣り人形のように身体をくねらせ、なにがおかしいのか笑い出した。

 いつものさわやかな翔の姿から信じられないような態度に拓は翔に疑問を抱いた。


「お前、本当に翔なのか」


 口が勝手に動いていた。発した後の言葉など拓にどうしようも出来ない。

 翔は笑うことをやめ、拓に歩み寄っていつもの翔がしてくるように自然な手つきで怪我をしている肩に触れてきた。


「この傷、昨夜、空喰離にやられたきずだろう? でもなんでそんなことを知っているのかって? そりゃあ、俺が本土から送られてきた監視官だからだよ! 特殊能力を持っている人間の調査をするためのね!」


 拓には、翔の言っていることが理解できなかった。

 

「この際だから教えてあげるさ。この島は本土からすれば、ただの実験用の施設のようなものだからね。この島は。この島は本土に入れる前の試験薬とかを普通に処方しているんだよ」


 次々と叩きつけられる現実、今まで暮していた拓の日常が崩壊を始めるかのようにひびが入った。


「……翔。お前の言っていることが理解できない。それに【冬付】や【空喰離】についてなんて何も知らないんだ」


 翔の表情は変わらず、ピエロのような笑みを崩さずに拓の言葉を聴いていた。


「でもな、拓。お前がいくら知らないといっても、関係を持っていることはすでに調査済みー。ってわけだから、俺はお前を始末するか、持ち帰らなきゃいけない」


 翔のしゃべり方はもうすでに拓のことを友人とではなく、物を扱うかのようなしゃべり方に変わっていた。

 

「まあ、一年間見事に俺のことを信用して、友人ぐらいには見てもらってたみたいだから、とても仕事がやりやすかったよ。まあ、早瀬さんの事件があってからの君は見ていられなかったけど、自力で立ち直ってくれたようで俺は良かったよ」


 ――翔はずっと友達を取り繕っていたのか? 僕の中ではお前は唯一の親友だったのに。翔は僕の事を騙したのか!


 拓の心の中は、怒りと自分自身へのやりきれなさが入り混じっていた。だが翔のことを 信じられなくなるまで時間を有しなかった。


 すっと納得した自分がいたのだ。都合よく自分と同じように超能力に目覚めた人間が同時期にいるなんてことが出来過ぎていた。

 だから拓は自然と翔の言葉受け入れていた。ショックが無いわけではないが、それでもこのまま翔が自分のことをどう思っていたのか聞いてしまったほうがこの後が楽なのではないかと考えていた。


「翔、じゃあずっと僕のことをだましていたってことでいいんだよね」


 こんな状況の中、自身で驚くほどに拓は落ち着いていた。


「そのとおりだよ。拓。だから選べ。抵抗せずに俺に従うか、俺を倒して【冬付】に逃げ込むか」

「何を考えている? 今僕の肩に触れているのだからいつでも翔はいつでも捕獲ができるだろ? なぜすぐにしない」


 分かってないなと言わんばかりに翔は首を振った。


「これはちょっとしたゲームだ。どっちにしても君には逃げ道がないが、最後の抵抗は選ばせてやろうっていう俺なりの優しさだよ。さあ、選べよ。たーくぅ」


 完全に翔はこちらに逃げ道がないことを理解したうえで遊んでいた。


 ――このままだと本当に翔に踊らされているだけのおもちゃだ。


 でも拓はこれよりももっと絶望的なことを昨夜経験していた。だからか無駄に落ち着いていて、呼吸もしっかりとできている。


 ――じゃあ、選べばいいんだな


「僕はその中の選択は選ばない。翔、一つ君が視野に入れていないことがある。それはこれだよ!」


 ――エクステンション!!

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