一話 物語の始まり 4
何事もなく、ホームルームが終わると先生の職員会議が終わるまでの間、自習になった。何があったのか知らないが、噂では編入生がいると話している。
そんなことよりも、拓は机に突っ伏して、寝る体勢をとった。
目を閉じようとしたとき、視界の端に知っている人影が写った。
「よお、拓。今年も同じクラスだな」
「翔か。相変わらずだな」
彼の周りには女性が集まっていた。さっきまで話していたのだろう。
女の子たちに、キャーキャー言われてるが、男から見てもイケメンだと思う。
まじめで学校の成績上位者で、おそらく今年も学級委員に入るんだろう。
だらしなくない程度に、制服を着こなし、さわやかな雰囲気と顔により女性からの人気が高い。人がいいことから、男子からも認められている点は評価高い。
あと、翔も拓と同じで能力持ちだ。こんなイケメンと友達でいるのはその理由が強いかもしれない。
「じゃあ、みんな。また後で」
女生徒たちに手を振って、集団の中から拓に近づいてきた。隣の椅子に座った。
「相変わらず、眠たそうな顔してんな」
「お前は、朝からいそがしいな」
「そんなこと無いよ? 別に楽しく話してただけだし」
翔は茶と金が混じった髪をいじりながら、言葉をつづけた。
「佳奈ちゃんとは、もう会った? 同じクラスのはずだけど?」
「ん? 佳奈も同じクラスなのか。でも、あのハイテンションだったらすぐにわかるはずなんだけどな」
「あー、イメチェンしたって言ってたから、拓は気づかないかもしれんわ」
なんかバカにされた気がした拓は、翔から視線を外して外を見た。
「ふふーん。やっぱりたっくんには、ばれなかったみたいね!」
目の前の席に座って読書をしている女子が、いきなり本をパタンと閉じて、立ち上がった。振り返った時、顔を見て初めて気づいた。
彼女が柴佳奈(しば かな)。薄い黄色を三つに分けた前髪が目の下まで伸びていて、まったく気が付かなかった。
ストレートに伸ばした髪を揺らしメガネを中指で押し上げた彼女は、
「たっくん。どお? 最新のわたし!」
「柴も同じクラスだったのか。偶然もあるものだな」
「無視とかひっどーい!」
似合っていると思うが言うと付け上がって、巻き込まれそうなので、拓は無視することに決めた。文学少女っぽくてありだとは思う。
「それーよりーもー……」
いきなり、佳奈は翔に鋭い視線を向けた。
表情はかなり怒っているように見えた。
「というか翔くん。なんでさあ先に話しちゃうわけ? 私が先に話しかけるって言ってたよね。最初に話すのは私のはずだったのにぃ」
「ちょっと、ちょっとかなちゃん。そんな目でみんでもさ、な?」
「翔くん。ほんと信じらない。最低! 帰り道で殺人鬼にでも遭遇しちゃえばいいんだ!」
彼女は拓と翔が超能力を持っていることを知っているが、普通の人間だ。基本的には、佳奈がそういったことに関して気にしない性格で助かったということになる。知った時に彼女はこう言ったんだ。
「え? でも普通の人と何も変わらないし、少しだけ特殊な能力が使えるってだけでしょ?」
と。
拓にとっては二人とも、学校での大切な仲間だ。
「佳奈、それぐらいにしといたほうがいいと思うぞ」
拓は時計を指さした。
2分ほどで、チャイムが鳴る。
佳奈はため息をついて、席に座って前を向き、読んでいた本に集中した。
チャイムが鳴ると、翔も自分の席に戻った。
拓は一人になるとすぐに寝る体制に入る。窓から射す光のが、拓を眠りへと導いていく。
だが、意気揚々と入ってきた捺輝に叩き起こされ、放課後を迎えるまで、まともに睡眠がとれることはなかった。
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