第2話 おわり


 雨の降る夜、僕はひとり、街路樹の下で佇んでいた。


 あの時と同じだ。毎日変わらない日常を送っているのだから、似たような景色だと思うのもおかしくはないのだ。

「ちょっと!やめてください!嫌だ!」

悲鳴にも似た怒気の含んだ声が聞こえる。

――今度は

「誰か――っ」

――迷いはない。

ぱしゃ、と足元の水たまりから音が聞こえた。

――― 一歩。踏み出せた。地面を思い切り蹴る。

あの日、僕は恥をかいた。

かけらも動かなかった僕。僕より全然小柄な少年のほうが強く、堂々としていた。

悔しかった。

声のしたほうへ走る。ばねのような瞬発力。自分の体とは思えないくらい速かった。

暗雲立ち込める中影を落とす一層暗闇が深いところ。

僕はするりと大通りに面した道路沿いへと行き。不良の真後ろに仁王立ちした。

真っ青な顔をする二人の少年。

「あーあ、君たち運が悪いね」

僕はにこりと意地の悪い笑みを浮かべて。

「みーぃつっけた」

その後、子供たちからお金を巻き上げていた不良たちを友達の力を借りてなんとか追い払った。


「助けてくださり、ありがとうございました」

ぺこりと頭を下げる十代半ばくらいのふたりの子供たち。しかし、後ろからは溜息が聞こえる。

「あのね、お前俺がもう少し遅れて来たらどうするつもりだったの?その子を危険にさらすつもりだった?馬鹿なの?阿呆なの?へー、無謀なの?少しは周りの人も頼りなさい」

「君は僕の保護者か」

そうなのだ。威勢よく出て行ったものの、相手は二人。しかもたちが悪そう。僕が得意なのは口論。物理的攻撃されれば負けは目に見えていた。

 ぎりぎりまで威勢を張って粘ったところ、鬼の形相をした僕のお友達が現れた瞬間。

スタタターって不良たちは真っ青な顔をしていなくなった。すごいよね。

「ほら、この辺雨の日に出るって言うし、あの人たちには君が妖怪に見えたのかもネー」

「茶化すな」

「……ぷっ!」

一人の少年がふき出した。もう一人は笑っていた。僕も友達もつられて笑った。

「お前、助けられたじゃないか」

「え?」

「カッコよかったよ」

ニッ、と友達は笑った。まずい、聞かれていたのか。恥ずかしさでちょっとうつむいたけれど、僕は肩をすくめて誇らしげに笑い返してやった。どうだ、すごいだろうって。

月が傾いて頼りなさげに光が差し込む。一瞬雨が弱まったけど、まだ雨は降っていた。

 暗い夜が影を落としても、僕の心は晴れていた。

 この子たちを助けられてよかったと思えた。一生後悔するよりも、一瞬の恥くらいどうだってことはないと今初めて気づく。まあ、友達に僕が助けられたけど。今度何かお礼しようかな。

「あれ、君たち傘持っていないの?」

こんなところまであの日と似ているなんて。

僕は、小さな笑みを浮かべながら、傘を差し出した。

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一歩 踏み出そうかな 雪城藍良 @refu-aurofu2486

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