第8話 吹奏楽部編 part4

 「違う!」

濁った水を断つように、怒号が飛ぶ。中根の叫びだ。

「もっと楽譜に則った忠実な音を出せ、そしてそれができないのなら、間違ってもうまくカモフラージュできるよう演奏するんだ」

あの夜の翌日。こんなに怒ったのはいつぶりだろうか。自分でも少し反省をする程度だ。練習が終わった後、中根は一人、物思いに更けていた。

「中根クーン」

また南方が来た。

「静かにしてくれ。考え事をしているんだ」

「今日のこと?」

「そうだ」

廊下から窓の外を眺め、そこに太陽はない。灰色の空が続くばかりで見つめるものなど何もない。それでも窓の外を見ていた。

「何を考えてるの?」

中根は何も答えなかった。いつもなら自分の力不足を呪っている。でも今回はそうじゃない。不思議なことに自分のことを純粋に恨むことができない。なんだろうこの感覚。むしろ――

「悪い南方。一人にしてくれないか」

「ああ、うん」

中根の背後に冷たい風が通り抜ける。ただその風を心地よくは感じず、曇天は世界を押しつぶすべく、地面に迫ってきているように見えた。

続く

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