第6話 吹奏楽部編 part2

 夕方、中根は学校に残った。部活動は終了していたが、一人でいる時間が欲しかった。

タクトを振る。頭の中に流れる音楽が揺れていく。目を閉じて想像する。足りないものは何か。何が足りない?

ガラッ

物音がした。ピアノの方だ。目を向けるとそこには何もなかった。

「なんだ」

気晴らしにピアノを鳴らしてみる

「ピンッ」

糸のように音が部屋の中を駆け回る。この部屋には黒板、ピアノ、自分、歴史上の音楽家たちの写真。さらに日が沈みかけということもあり、その駆け巡る音が美しく、奇妙なほど響いて聞こえた。中根はその音に引き寄せられるように椅子に座り、ピアノを奏で始めた。彼はピアノを弾いたことはあるが、動きが違う。自分は決して下手ではないが、それとはわけが違う。指が頭より先に動く。そのはずなのに音色ができていく。瞬きの瞬間を忘れ、次、指がどこに動けばいいのか。マリオネットになったかのように演奏を行っていた。指を止める。

「なんだこれ」

自分の手を見つめた。爪、指紋、手相、何一つ変わっていない。けれど自分の手のようになぜか見えなかった。悪寒を感じる。逃げるようにして部屋を出ていった。


もしかして夢だとも思った。昨日起きたことは全て幻で、何も起きなかったと。しかし、今日タクトを振っていて分かった。主線がよく聞こえる。細かい音の響きがよく聞こえてくる。それと同時に細かいミスも。やばいなこれ。楽しい。


「中根君」

「どうした南方?」

「今日は一段と厳しかったね」

「そうか?まあ、ちょっといつもより気合入れたけど、、、」

「全然違うよ。指示が的確っていうか。しゃきしゃきしてるっていうか」

「うーん」

「もしかして、音楽室の亡霊とか?」

「なにそれ」

興味がある。昨日起きたことに何か関係があるのか?

「音楽室の亡霊。以前吹奏楽部だった人が音楽に明け暮れて、すごい音楽の才能を見出したんだって。でもそれを発表する前に死んじゃったから、今も音楽を求めて音楽室を彷徨ってるらしいよ」

「へぇ」

「で、どうなの?」

「そんなの知らなかったよ。いるなら会ってみたいもんだ」

そう言ってその場を去った。もっといい音を出せるんじゃないのか?それが今日の反省点であった。

続く

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