第20話:オズ殺人事件・01

 その遺体はゴミ集積所に無造作に置かれていた。


 今朝のゴミは燃えないゴミの日だった。黒いビニール袋から出てきたのは、首のない死体だった。


 死体は、すぐに両腕に刻まれた

無数のタトゥからロックこと

岩田と判明した。


「首なし死体・・・」

 矢作は寝惚けた顔で運転して

いる田上に聞き返した。


「ええ・・・ゴミ集積所に置いて

あったそうです。今朝、黒い

ビニールに包(くる)まれた

ゴミがあったンで、注意しようと

中を開けたら・・・」


「出てきたってワケか・・

首なしの遺体(仏ほとけ)さんが

・・・・・」


「ええ、も~、今朝のニュースじゃ、

持ちきりですよ。このニュースで

・・・・・」


「なるほど・・・燃えるゴミの日に出しゃ~よかったンだろうな。」


「ダメですよ。燃えるゴミの日でも、黒い袋じゃ回収してくれませんよ。」


「そんな事ぁ、ど~でも良いンだよ。被害者は・・・」


「オズのメンバーだと・・・」

「オズって・・・何だ・・・」


「ほら、シオンのバンドですよ。


「龍崎シオンの・・・・」

「ええ、こりゃぁ、大きな事件になりそうですね。」

「フン、っで、どこに向かってンだ。」


「も~、聞いてないンですか。

オズのメンバーの町田ユウですよ。」


「ふ~ン・・・ま、着いたら起こしてくれ・・・」

 気だるそうに目を瞑った。


「も~、寝ないで下さいよ。もうじき着きますから・・・」



 高級マンション。矢作は眩しそうに見上げ、

「ったく、いいトコに住ンでやがるな・・・」田上は苦笑い。


 町田ユウの部屋、矢作らは玄関で事情を聞いていた。

「町田ユウさんですね。」

 警察手帳を提示した。


「は~・・・ロックの事・・・」

「ええ、今朝、首なし遺体が見つかった件です。」田上。


「後で確認してもらえますか。」

 矢作。


「は~、冗談でしょ・・・首のない死体なんか、ゴメンですよ。」


「だって、メンバーでしょ。」

 田上。

「メンバーったって・・・」

 明らかに動揺している。

挙動不審だ。


「あの・・・中で事情を聞きたいのですが・・・」

「え・・、散らかってるよ・・」

「いえいえ・・・キレイなモンですよ。」

 リビングには自分達、オズの

ポスターが何枚も貼られてあった。


 ロックの両腕には無数の

タトゥがあり、その中に赤い

蜘蛛を模した絵柄が彫られてあった。


 矢作は、レッド・スパイダーか

。と一瞬、思った。


 刑事たちは、ソファに座り、

矢作はさっそく切り出した。

「え~、昨夜は・・スタジオで岩田さんと一緒だったと聞きましたが・・」


「そ、リハでね・・

 シオンが来ないンで、途中で

お開きなって・・・・」


「そこで別れた・・・

昨夜はどちらに・・」

「何だよ。アリバイ。」


「いえ、これは関係者全員に

確認する事ですから・・・」


「昨夜(きのー)は、ずっと友達の店にいたよ。」


「友達・・・」

「ああ、ギルドって店だよ。そこの店長が・・昔のバンド仲間で

・・・」


 テーブルに置かれた宣伝用の

マッチを指で押し、

「なるほど・・・」マッチを手にした。何やらわからないデザインでギルドと書かれてあった。


「後で確認してみます。」

「ウソじゃね~って・・・オレがロックを殺す訳ね~だろ。」


「ええ、わかってますよ。

あのこのマッチ、いいですか。」


「どうぞ・・・」

 不貞腐れたように応えた。


「ただ・・ですね~・・・・」

 矢作は思わせ振りに、


「ただ・・何だよ。」

「ええ、最近、シオンさんの

妹さんが亡くなりましてね。」


「ああ、レイラだろ・・・」

「ご存じですか。ちょっとシオンさんの周辺で事件が多発してるのが、気になりまして・・・」


「知るかよ。オレは関係ね~って

・・・」


「関係あるか、ないかは、

こちらが判断いたしますが・・

何かご存じの事はありませんか

・・・」


「ねえよ。何にも・・」

「シオンさんは、何か言ってますか。」

「知らね~よ。シオンには連絡がつかね~ンだ。」


「いつからです。」

「だから・・・スタジオに

来なかったから・・・

それからずっと連絡をつけようと

してるのに・・」

「繋がらない?」


「そうだよ。もういいだろ。

これ以上、聞きたいなら令状

持って来いよ。」


「はぁ・・・」

 あまりの剣幕に矢作たちは

帰り支度をした。


「あの・・」と田上。「オズのメンバーは、3人だけですか・・」

 ポスターを指差した。


 シオンが真ん中のモノばかりだ。

 プロのカメラマンが撮ったのだろう。ライティングもバッチリだ

「え・・、そうだけど・・・

今は・・・」

「前は、もっと居たンですか・・

・」

「え・・、知らないよ・・・

オレの入る前の事だろ。」


「あんたは何の担当・・」矢作。

「え、まぁ、ベースだけど・・」

「殺された岩田さんは・・・」


「ギターだよ・・・」

「シオンさんはボーカルで・・、じゃ、ドラムがいないんですね。

「そんな事、関係ないじゃないですか・・・・」


「じゃ、最後に・」矢作は、まだ粘った。「ロックさんは赤い蜘蛛のタトゥをしてますね。何か、

ご存じありませんか。」


「え・・・?」一瞬、顔が引きつった。「知らないよ・・・」

 吐き捨てるように言った。


「じゃ、レッド・スパイダーに

ついては・・・」


「知らないって・・・、都市伝説だろ。レッド・スパイダーなんて

・・・」


「そうですね。レッド・スパイダーの創設メンバーは、全部で13人。そのうち、10人が死刑囚って噂ですから・・・」


「噂でしょ・・・」

「フ、そうでしょうね・・・。

じゃ、今回は、これでお邪魔しました。」

 まだ聞きたい事は山ほどあったが、

仕方なく部屋を後にした。


 車に戻ると、田上が、

「どう思います。」

「ロックを殺したのはヤツじゃないだろうな。」

「そりゃぁ、まぁ・・・、

後でギルドに行って確認します

けど・・」

「それより、シオンだ。」


「え・・・シオンですか・・・」

「スタジオに来なかったって言ってただろ。未だに連絡も取れない

・・・」


「まさか・・・」

「もう一つ増えなきゃいいんだが

・・・」


「首なしの死体がですか・・・」

「まぁな・・・」

 田上は顔をしかめ、車を発進させた。
















































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