第18話:麻生リナ・02
屋敷の中にはワルキューレの
騎行が流れていた。
龍崎仁のリクエストだ。
この屋敷では誰も逆らえない。あたしはレイラの部屋へ戻った。
リビングでは、まだ、
「シオン、シオン」
ってママ母が躍起になって
探し回っている。
豪華なディナーも消化に悪いってモンだ。
桐山もどこへ行ったのか。
全く姿を見せない。
とにかく疲れた。
ちょっと別宅へ行くつもりが、ハイキングだぜ。あれじゃ・・・
真っ暗にならない内に帰って
きたのは正解だった。
あたしは、ポケットから別宅で見つけた名刺を出した。
桐山の名刺だ。まるで、誰かに見つけて下さいと言うように落ちていた。
桐山を陥れるためのワナか。
それともマジで桐山が落としたのか。
だとすると・・・
消えたシオンに関係があるのか。
レンの話じゃ、シオンは仲間を使い光輝の彼女を暴行させ、自殺に追い込んでいるらしい。
じゃ、光輝か・・・?
いや、昼間、リビングには
珍しく光輝の姿があった。
光輝はシオン失踪には関わっていない。
あの時点では・・・・
いや、光輝と桐山が手を組めば
・・・・
う~ん、全然、話がまとまらない。
その時、ノックの音がした。
誰だ。家政婦のみいなか。
一拍おいて、
「いいかしら?レイラちゃ~ん。」
と明るい声。
麻生リナだ。何しに来た。
仕方なく鍵を開けると、ドアが開くなり、
「レイラちゃ~ーン」とリナが抱きついてきた。
おいおい、欧米か。
ハグなんか、ここに来るまで
一回だってした試しがね~のに・
・・・
「レイラちゃん、悪いけど、
着替え貸してくれる~。」
語尾を伸ばすな。
ったく、好きにしろって・・・
言いたかったが、お前・・・
服を借りるって事は泊まって
いくって話しか。何、考えてンだ。
リナは楽しそうに大きなクローゼットの
中から服を選んでいた。
「うっわ~、お姫様かよ~。」
リナがビックリしていた。
確かに・・・、
服のセンスはあたしたちとはかけ離れている。
「あ、悪いけど・・・」
リナは意味深にベッドのあたしに近づき、
「何日か、ご厄介になるけど、よろしくね~。」
何日か・・・。
お前、この短時間にど~やって
、あの龍崎仁に取り入ったンだ。
「ホラ~、あのママ母も姉貴の方も怖そうジャン。シオンは消えちまったし・・・、この屋敷で話が合うのって、レイラちゃんくらいでしょ~。」
おいおい、何で話しが合うンだよ。
リナは、あたしの横のベッドに座り、あたしを抱きしめた。
おい、お前は何考えてンだ。
リナは耳元で、
「お互い元ヤンじゃん。上手くやろうぜ。榊ルナちゃん。」
と囁(ささや)いた。
こいつ・・・・、
あたしは、両手で押し退けた。
「ハッハハ、そんなに怒っちゃダメよ。冗談じゃん。レイラちゃんしか、いないンだから~。ほら、歳だって近いし、服も借りたし・
・ね。」
う~、食えないヤツだ。
オヤジが死んで、一人敵が
減ったと思ったら、また一人、
新たな敵ってワケか。
どこまで続くンだ。
このRPGは・・・・。
「仁くんがレイラの服を着ろって注文すンだもん。絶対、ヤバいよね~。」
く・・そういう事か・・・。
お前もレイラの代用品ってワケだ。
それにしても、たぶんお前の
親父より年上だぞ。
それを仁くんって・・・
お前のツレか・・・・
「あ、下着も貸して~。」
な、お前、そんなの買って来いよ。
そこらのコンビニで・・・
「仁くんも燃えると思うンだよね~。レイラちゃんのパンツだと~。」
そういう事か・・・
お前な~・・・
マジでやる気なのか・・・。
お前も1000億って莫大な
遺産相続のレースに正式に
エントリーすんのか。
「フフ、怖い顔しちゃダメだって・・・お嬢様なんでしょ。」
バカにしてるのか。ダメだ。
怒ったら、こいつの術中に嵌(は)まる。
あたしは、努めて冷静さを装(よそお)った。ここに来てからは、ずっと自分の気持ちを押さえてきたンだ。慣れたモンさ。
そこへ不意にドアが開いた。
レンだ。いきなりビックリさせる。
お前は女子の部屋にノックも
しね~のか。
「うっわ~、リナちゃんもいたの~。」それが、お前の挨拶か。
「ど~も・・・」さすがに、レンのテンションには叶わないようだ。
「何々、お泊まりしてくの~。」
あたしの横に座った。
お前の定位置か。
「そ、今、着替えを借りてるトコ
。」洋服を3点手に持っていた。
「ふーン、叔父様と上手くやってるみたいだね。」
「仁くんと・・・まぁ・・、あ、いけない。もう戻らないと、仁くんにちょっとだけって言って、
ここに来たンだし・・・」
「そりゃぁ、早く戻った方がいいよ・・・。でも、あんまり欲張らない方がいいと思うよ。」
え・・・、リナは綺麗に揃えた眉をひそめた。
「あ、そうそう、ね、かぐや姫子って知ってる。」
レンのひと言に、
「な!」
一瞬でリナの顔色が曇った。
かぐや姫子・・・、
何だそりゃぁ・・・?
「知らないわ・・・」リナ。「アニメのキャラか何か。」
明らかに動揺していた。
レンは、
「知らなきゃいいよ。それで・
・・」意味深に笑った。
「じゃ、これだけ・・・借りてく、ね。」あたしは軽く頷いた。
リナはそそくさと部屋を後にした。
恐るべし・・・レン。
あれだけの暴風雨がいとも
簡単に収まった感じだ。
それにしても・・・
かぐや姫子って・・・・
「あ、そ~言えば、桐山は旅行に行ったらしいね。」
え・・・?何それ・・・
どうして・・・
あたしに断らずに・・・
何でレンが知ってるの。
「ライン来てない。」
ライン・・そうか・・・
そんな機能もあるんだ。
何しろあたしはスマホを
持ってないから、機能を使い
こなしていない。
桐山から貰ったスマホを手に
桐山からのラインを開いた。
<用事が出来たので、少しの間、屋敷を留守にします。>
とあった。
用事って何だ。
あの嵐の一夜から姿を見ていない
。一体、どこに・・・
待てよ・・・。これが本人からとは限らない。ラインなら別人でも成り代われる。何か、アクシデントに巻き込まれていない証明にはならない・・・
レンは、相変わらずあたしに
ベタベタとスキンシップ。
お前は、あたしのペットか。
それともあたしが、レンの
ペットなのか。
だが、レンは急にマジモードになり、
「今度はオレが守る。レイラの事は、絶対に・・・・」
そう、耳元で囁いた。
やはりレイラを殺された事を
知っているのか。
どこまで、知ってンだ。
このガキは・・・・・。
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