第15話:麻生リナ
龍崎家の屋敷の門に美少女が立っていた。
いや、少女ではない。
見た目は童顔だが、20歳は
越えていた。麻生リナだ。
「シオン・・・龍崎シオンさん、いらっしゃいますか。」
インターフォンに向かって聞いた。
<申し訳ありません。お坊っちゃまはいらっしゃいません。>
家政婦の武藤が応えた。
リナは、
「連絡が取れないのですが・・
・」
<そうですか・・・私たちもお坊っちゃまを探してるんですが・・何分、バンド仲間の方の連絡先もわからないモノで・・・>
「わかりました・・・また出直します。」
そういって渋々、引き下がった。
だが、その時、黒塗りのベンツが
門に入ってきた。
リナは少し避け、
「ったく・・・」
と口を尖らせた。
リナのすぐ横で停車したベンツのドアが開いた。
「何か用かね。」
と中から声がした。
「あ、はい、シオンさんに・・
・・」
「そうか。では、中で待っては
どうかね。」
リナは一瞬、考えたが、車内を
覗き込んだ。
中には初老の男性が乗っていた。
まさかとは思ったが、
「龍崎仁さんですか・・・」
「ええ、そうです。この龍崎家の当主、龍崎仁です。」
怖いイメージだったが、案外、
優しい笑顔だ。リナは微笑んだ。
「麻生リナです。よろしっく~。」
後部座席の仁は高笑いしたが、
運転手の黒木は顔をしかめた。
裏の別宅と言うから嘗(な)めていた。ちょっとしたハイキングだ。
森のような木々の間を縫って
道が通っていた。
「う~、ちょっと~・・まだなんですか~。」みいなが泣き言。
あたしだって、泣きたい気分だ。リハビリには、ハードな物件らしい。
「ホラ、しっかりレイラ~。」
レンだけが元気だ。さすがに
中学生体力は有り余っているのか
。
それにしてもお前は、どさくさに紛れて、どこを触ってンだ。
ったく、だが、レンの肩を借りないと足が動かない。
「見えたよ。」そうか。あれが・
・・別宅。
あたしは、山小屋をイメージしたが、野球部が合宿しても、まだ部屋が余るくらいの大きさだ。
ドアに鍵は掛かっていなかった。
中を確かめてみるとかび臭い
においがした。
「うっわ~、カビ臭ッさーい。」
今回はみいなの意見に全面的に賛成だ。
くしゃみが出そうだ。
だが、床に足跡のようなモノがあった。シオンのモノか。
「誰か・・」レン。「最近になって、ここを訪れてるね。」
ああ、間違いない。どうする。もう少し調べるか。
だが、外は暗くなってきた。
ここには電気が通ってないようだ。
帰り道が危ない。その時、あたしの視界に何かが入った。
これは・・・
名刺か。白い方が上を向いていた。拾って引っくり返してみると、
<桐山 陽(アキラ)>の名刺だった。
何故、どうしてここに落ちている。
桐山がここにいたって事か・・
「どうかしたの。」レンが聞いてきた。あたしが拾ったのを見てなかったようだ。
あたしは苦笑し首を振り、
名刺をポケットにしまった。
今、レンにこれを見せるワケにはいかない。
ワナの可能性もある。何者かが、ワザとここに桐山の名刺を落としたとも考えられる。
とにかく、屋敷へ戻ろう。じゃないと迷子になってヤバい事になりそうだ。
リビングでは、新たなバトル勃発だ。
麻生リナが龍崎仁と一緒にいた。それもすぐ隣りにだ。
馴れ馴れしく食事にありついているようだ。
おいおい、ジーさんよ、いつ
ナンパしてきたンだ。
完璧、援コーじゃんか。ヤバくね~。
ママ母は、シオンの事とリナの出現でヒステリーに輪をかけていた。
「何なの。この子は~。」
「麻生リナで~す。よろしっく~。」
おいおい、こいつもギャル語全開か。
「ワシが誘ったのだ。文句は許さん。」と当主、龍崎仁。
何だ。昭和のオヤジかよ。
「う・、黒木。あなた、シオンのバンドメンバーの連絡先知らない
?」
今度は黒木に八つ当たりか。
大変だぜ。
黒木は、スマホで確認。
「ロックという方と・・・」
「ロック・・・」
「はい、本名は教えてもらえ
ませんでしたので・・・・」
「わかったから、そいつに連絡して・・・
シオンが居なくなったのよ。」
おい、半日も経ってね~だろ。慌て過ぎだぜ。
黒木が通話ボタンを押した。スピーカーにしママ母にも聞こえるようにした
「もしもし・・・」少し経って返事が返ってきた。
「黒木と申します。そちらにシオン坊っちゃんはおられませんか。」
「シオン~・・!来ね~よ。こっちも探してンだよ。リハど~すんだよ。」
「もしもし・・母親の舞香だけど・・・今日、リハーサルするはずだったの。」
「え、オバさん。あ、はぁ・・そうだけど・・・連絡が取れなくって・・」
「お願い、本当の事を言って・・・シオンがいなくなったのよ。」
「はぁ・・、オレたちも探してるンですけどね・・・」
「わかったわ。見つかったら、あたしに連絡するよう伝えて・・」
「はぁ・・わかりました・・・」そういって切った。
飛んだモンスターペアレンツだ。バンド仲間も飽きれかえっているだろう。
だが、波乱はまだまだ起きそうだ。
血の降るような晩餐会にならなきゃいいが・・・。
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