第12話:失踪

 っるさい・・・

 あたしの周りで何を騒いでるンだ。ほっといてくれ。


 あたしは疲れてンだから・・・しかし回りの喧騒は収まりそうもない。


「レイラ~❗」

 な、レンか。

どうして・・・

ここに・・・

カギはどうした。


 掛けたはずなのに、どうして

レンがいるんだ。


「起きろよ。朝だぜ~。」

ベッドに潜り込んできた。


「レン様~、いけませんよ。

レイラ様はまだお休みなんですから~」

 聞き覚えのあるアニメ声。

 みいなだ。


 あたしは、やっと目が醒めた。

「レイラ~。早く起きろよ。

ピアノやんぞ~。」

 お前は何だ。


 ドラクエの続きをせがむ小学生か。こら、オッパイをさわるな。


 子供じゃね~だろ。

「レイラ様~、いい天気ですよ~。昨日の嵐がウソみたい。」

 勢いよくカーテンを開いた。


 朝日が眩しい。


 そうか・・・

 あの嵐の一夜は過ぎ去ったのか

・・・・?


 まるで、悪夢のような出来事の連続。オヤジが殺され・・・


 その遺体を運び出すなんて・・


 遺体遺棄ってヤツか。

 それにしても・・・・


「レイラ~♥」とレン。

 お前な~。朝っぱらから邪魔くせ~ンだよ。


 キスしてくるな。

 お前は欧米か~❗


 わかったって、起きりゃ~いいんだろ。

 あれからどれくらい経ったンだ。


 ヒッキーの長男、光輝は帰ってきたのだろうか。

「朝食のお時間で~す。」

 って、みいな。


 だっから、語尾を伸ばすなぁ。


 起きざまに、アニメ声が頭に

キンキン響くぜ。


 昨夜の血塗れのオヤジの遺体を思い出すと食う気なんか微塵も起きねえ。


 ったく、頼むぜ。ほっといてくれよ。


 朝食もそこそこに、あたしは地下室へ向かった。


 昨日の嵐の一夜の確認も込めてだ。地下室は綺麗に整備されていた。


 血塗れのオヤジの遺体が転がっていたなんて信じられない。


 レンは、そんなあたしを見て、

「何か、探し物。」と聞いてきた。あたしは軽く首を振った。


 これ以上、不審に思われてもしょうがない。


 今はピアノに集中しよう。ピアノを弾いてる時だけ何も考えずに済む。


 嫌な事も・・・

辛い過去も・・・

不幸な出来事も・・・・

何もかも忘れさせてくれる。



「消えた・・・」シオンがスマホで連絡していた。

<そ、>

通話の相手は麻生リナだ。

<昨日の夜から連絡が取れなくなって・・・>

「おい、迷子の小学生じゃね~ンだ。一日くらいジジーの連絡が取れなくたって可笑しくね~だろ。」


リナの話では榊純一の行方がわからなくなったと言うのだ。


<だって、大事な話しがあるのに

・・・>

「知るかよ・・・あんなジジー。金が出来たんで、パチンコ屋にでも行ってンだろ。」

<う~ん・・・>

納得出来ない様子。



 麻生リナは榊純一が契約しているマンションを訪れた。


合鍵で中に入ったが留守だった。

リナは榊の言った切り札が気になった。その存在が確認出来ない限り、榊と袂(たもと)を別つワケにはいかない。


何しろ、総資産1000億だ。人生を賭けるだけの値打ちはある。


「ジジーひとりに美味しい思いさせられるか・・」リナの大きな瞳が怪しく輝き、部屋の中を捜索した。


 たいして探す必要がないほど、殺風景だ。


 引き出しの中もクリアファイルが数点。その内の一つに視線がいった。


 榊ルナのテスト用紙だ。中学一年の時の英語か。100点満点だ。


 フン、とリナは鼻で笑った。

確かに、ルナは頭は悪くないのだろう。


 父親も100点の答案が大事なのか。取ってあったのか。


 別のトコを探し始めた途端、ハッとした。さっきの答案だ。


 氏名の欄に榊ルナと記述してある。


「これか・・・」間違いなく榊ルナの筆跡だ。


 筆跡鑑定なら、白黒がつく。

レイラか、ルナか。


 麻生リナは思わず笑みを浮かべた。これなら切り札になり得る。


 その時、ドアが開き、矢作たち刑事たちが現れた。

「よ、お嬢ちゃん。援助交際はいかんな~。」矢作。


「は~・・・」一気に血の気が引いていった。


矢作と田上はお邪魔しますと言って部屋に入ってきた。


リナは答案用紙を後ろ手に隠し、

「いくつだと思ってンだよ。成人だぜ。あたしは・・・」


「ほ~、高校生かと思ったよ。」

「ボクもですよ。ところで榊さんは・・・」


「さぁ・・・、居なくなったンだ。」リナは答案用紙をテーブルの上に置きその上に座った。ここで答案用紙を警察に持っていかれるのは面白くない。


「居なくなった・・・」

「ま、昨日の夜からだから、まだ一日も経ってないけどね。」


「借金取りに追われて逃げ回ってンじゃないですか。」田上。

「かもしれないけど・・・」

「よ~、そのデカい尻の下に何を隠した。」

チッ、おいおい、セクハラだぜ。


 オッさん・・・・

バレバレだったのか・・・

どうするか。


 リナは考えたが、結局、ファイルを見せた。

「ふ~ん、テスト用紙か・・・」

「100点ですね。スゴいな。」横から覗いた田上。


 何を感心してるのか。早く返せよ。


 矢作たちは興味がないようだ。

 ポイッとリナに返却した。


 どうせ、令状がないんだ。

 持ち出せるワケはないが・・

・・

「なるほどな・・」矢作が意味深に笑みを浮かべ、

「榊ルナの筆跡か・・・

今の龍崎レイラのサインでも

手に入れば、別人説が立証出来るかもな。」


 フン、お見通しなのか・・・。やっぱ食えない刑事だ。


「さ、こんなトコに榊が帰って

きたら、大変な事だ。令状も

なしに違法捜査だとかな。」


「ええ・・・、あ、そういえば・・・リナさん。」

 若い田上刑事が呼んだ。


「なんです・・・」

「かぐや姫子って知ってますか。


!! 一瞬、リナの顔つきが変わった。


 そっぽを向き、

「知るか。そんなAV嬢・・・」


「いや、AV嬢だなんて言ってませんがね。」矢作が嗤(わら)った。


「は~、」睨み付けるように、「何が言いたいンだよ。」口調が変わった。


「いえ、似てるって言われませんか。」田上。


「言われね~って・・・そんな事・・・」


「そうですか・・・じゃ、榊さんが帰ってきたら、宜しく。」

 何がよろしくだ・・・。


 マンションを出た田上は矢作警部補に、

「やっぱ彼女がかぐや姫子だったンだ。」


「フ、お前のAVオタクも役に立つ事があるんだな。」

「別に・・AVオタクじゃ・・・」口を尖らせた。



 榊の部屋に残ったリナは、怒りを抑えるのに必死だった。

「クッソ・・・いっくら顔を変えても・・・結局、過去を変える事は出来ね~のか・・・」

 八つ当たりしたくなる衝動を

何とか抑えた。


 そこへ着信メロディ。


 非通知だ。どうするか悩んだが

、通話ボタンを押し、

「もしもし・・・」

<や、麻生リナさんですね。>機械で声を変えている。


「フン、誰。」

<オズと申します。榊さんの事で耳寄りな情報がありまして・・>


「オジさんの事で・・・」

<ええ、消えたそうなので、 

一報を・・・>

「何で、あんたが知ってンの・・

・・」

<別に・・、知りたくないのなら

教えませんけど・・・・>


 何なんだ。コイツは・・・

 いったい何者なんだ。

 リナは必死に考えた。


<ま、ぶっちゃけ、殺されたンですけどね。>

「な・・? どうして、あんたがそれを・・・」


<ま、それは企業秘密で・・・、どうです。私と組みませんか。>


「得体の知れないあんたと組む

気はね~よ。」


<ま、そう言わず・・かぐや姫子の事も黙っていて上げますから

・・・・。>


「お前・・・」サッと振り返った。誰もいない。

さっきの刑事と関係があるのか。


<何しろ、総資産1000億ですからね。危ない橋を渡る気構えじゃないと・・・

 榊さんのようにミイラになってしまいますよ。>


「ミイラ取りが・・・か・・・」

<ええ・・、どうです。ま、

 即答は無理でしょうから、

考えておいて下さい。>


「待てよ。オズって、あんた、

シオンじゃね~よな。」

<フフフ・・、さぁ、どうでしょう。>

 そう言って通話が切れた。


 フン、どいつもこいつも食えないヤツばっかだ。リナは歯噛みした。






















































































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