第2話 カルピス
食べ終わると、子供達がスイカの食べカスを川に投げ始めた!
「大人の私」の目の前でソレはどうか?と子供を窘め、食べカス回収し、近くに穴を掘って埋めた。
穴掘りは結構な手間だった、手が泥だらけになりたくさん汗をかいた。だが一連の行動は、それなりの憧憬をもって受け入れられた。子供から「この美人で可愛いお姉さんは凄い人」的な視線をあびるのコトは気持ちよかった。
うんうん、偉いぞ私!
泥だらけの手を川で洗っていると、女の子が寄って来て水筒を分けてくれた。スイカを食べたはずだが、一仕事でまた喉が渇いていた。
水筒の中身は玲の好きなカルピスだった、夏に飲む「甘酸っぱいカルピス」は最高だ!!
口に広がる味、性差をさほど意識する事ない?小学生達。それが記憶のトリガーを引く。
ある夏の日、玲(アキラ)は「彼と彼等」を自宅に招いた。だが自宅に帰ると母親は外出していた!
可愛い娘が男友達(注・小学生)と遊び歩いているというのに、ウチの母親は心配しないのだろうか?いや、これは信頼の証と受け止めるべきか(注・小学生)?それはともかく、この状況は彼女にとって誤算だった。
玲にとって母親がつくるカルピスこそが最高だった!その一杯が、これからお昼までの活力をもたらしてくれるはずだった。
一日一杯、母のカルピス!それ無しに夏は過ごせなかった。
「玲~、のど乾いたぜ~早くなんか飲ませろよ~。」
マズイ、「彼等」が騒ぎ始めた。
玲は窮地に立った、母親の帰宅は予測できない。そうだ!たしか冷蔵庫には麦茶が、、、いや駄目だ、それは在り来たり過ぎる。自宅まで「彼」と「彼等」招いた意味が無い!
最高のカルピスを振舞い、味わった「彼」と「彼等」が自身と大好きな母へ賞賛を贈る「今日の予定」。
自己顕示欲と虚栄心を満たしたい「幼い動機」だったのかもしれない。
生来、負けず嫌いな玲だが、この時ハッキリと認識できない「欲求」が彼女を突き動かし続けた。
自分がやるしかない!玲はそう決意した。
「待ってて、美味しいカルピス、つくってあげるから!」
玲はそう言って冷蔵庫からカルピスを取り出した。慣れしたんだ母の味、それは自分の舌が覚えている!そうカルピスこそが自分が母親から受け継ぐ最初の「家庭の味」なのだ!
落ち着いて、貴方ならできる。そう励ます母親の幻(注・外出中)が視えた!
コップに原液を注ぐ。氷を入れ水で割り、マドラーでかき混ぜる!
出来た!
「お、」
「じゃや~ σ(゚∀゚ )オレ がイっちば~ん。」
「彼等」が手を伸ばす。が、玲はカルピスを一気に飲み干した。
「ああ、、、」
あっけにとられる「彼等」
が、玲は意に返さなかった。
味が薄い!
玲はもう一杯つくって味見した。今度は少し味が濃かった。
「玲だけズリ~ィ。」
「彼等」が抗議の声をあげる。「彼」は何も言わないが少し不満顔に見えた。
どうする?もう皆の分をつくらないと。
2回の味見で黄金比は見切った、次は完璧につくる自信があった。だがそれを確認するための自分の量は残らない。
躊躇いは一瞬だった、玲はキッチンの食器棚から「お客様用」で揃いの涼しげな色付けがされたガラスコップをテーブルに並べる。
そしてバーテンダーもかくやの手捌きで次々と原液を注ぐ。瓶にはもはや一杯分の量も残らなかった。
一度コップを眺めて原液の量を確認する、「彼」と「彼等」もその様子を固唾を飲んで見守った。文句を言ったり、声をかけられる雰囲気では無かった。
玲は幾つかのコップへわずかづつ足したあと氷を投入、ピッチャーの水を慎重に注いだ。
出来た!玲にはやり遂げた自身があった。
マドラーでかき混ぜ、皆にコップを勧める。
玲の気迫に少し怖気づいた「彼」と「彼等」は、おずおずとコップに手を伸ばし、一口、二口と飲んでいく。
「どう?」
玲は期待した反応が「彼等」から返ってくると信じていた。飲み干した「彼等」口々に感想を漏らす。
「薄いな。」
「へ?ちょっと濃いよ。」
玲は愕然となった。完璧だったハズ、何処を失敗したと言うのか?
納得がいかなかった、まだ飲みかけだった「彼」のコップを奪い一口飲む。
「あ、」
「彼」の口から驚きが漏れるが玲の耳に届かない。正に自分が思い描き、慣れ親しんだ「母の味」だ!
「ま~家庭の味ってヤツだ、大体こんなもんじゃないか?玲、旨かったよ、ごちそうさ、、て、、あ!」
玲の期待とは違った雰囲気で「彼」と「彼等」は反応を示した。
「ボ、僕は美味しかったよ。玲ちゃん、、、ご、ご馳走様、、、」
「彼」は顔を赤らめながら玲から目をそらして口籠る。
「「「あ~、」」」
「「「間接キスだ~!」」」
「彼等」がそう言った瞬間、玲も事態を飲み込んだ「彼」うつむき「彼等」は興奮してはやし立てる。キッチンはちょっとした騒ぎになった。
白地に青い水玉模様の包装紙に包まれたカルピスを買い物袋下げ帰宅した母親は、玄関のドアを開けた途端、「娘の怒鳴り声」を聞き、思わず買い物袋を落とすところだった。
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