スイカとカルピスにカキ氷
蒼月狼
第1話 スイカ
その日の朝、制服姿の玲(アキラ)は自転車の前カゴにスイカを入れ、近所を流れる川に向った。
今から川で冷やしておけば、部活帰りに取りに来る頃にはスイカは冷えているだろう。中くらいの玉が三つ。父が菜園で取れたスイカを、食べ頃だからと分けてくれた。丸々としたスイカは本当に美味しそうだ。
問題はこのサイズ、三いっぺんには冷蔵庫に入らない。「彼」の家に集合し、冷えたスイカを切り分けて皆で食べる。
甘味を増すために塩をチョット振って食べようか?飲み物は麦茶?サイダー?いや、夏はやっぱりカルピスよね!
スーパーに寄って買って行かなくちゃ。あ、カゴに入り切るだろうか?
午後からの予定を算段しながら、過去の思い出が蘇る。
夏の一番暑い時間、どんなに元気な子供でも日差しを避けて休息をとる。
そんな時は決まって「彼」のお婆ちゃんの家にお邪魔した。小柄で優しいお婆ちゃん。怒らせると怖いけど、、、
お婆ちゃんはいつも冷えた麦茶とスイカを用意して迎えてくれた。縁側で座って待っていると切り分けたスイカを私達に持って来てくれた。
縁側からお婆ちゃんの家の畑、その向こうの青々とした水田を眺め、「彼」、「彼等」と並んでスイカを食べる、それは玲にとって大切な「夏」のひとときだ。
スイカにかぶりつき甘みを味わう、果汁で喉を潤す、口に残った種を遠くまで飛ばす。
誰が遠くまで飛んだか比べっこ。そのうち誰かが悪ふざけで、種を吹きか掛け始める。もうそうなると、味わって食べる何処では無い。弾薬補充するみたいにスイカをムチャ食いし、リスよろしくホッペタを膨らませ、相手目がけて発射!
種どころか実まで飛んでくる、スイカの汁と実、種と唾液。顔も服も縁側もグッチャグッチャ。
泣いて、ケンカして、怒られて、仲直り。笑って、服も身体を洗って、昼寝して。
そしてまた。夏の日差しに皆で飛び出していく、、、
今はもう優しいお婆ちゃんは居ないけれど、でも「彼」は夏になればココに来る。 そして「彼等」と私、一緒にあの縁側に並んで父のスイカを味わうのだ。
玲は夏が大好きだ。今朝も空は晴々としていた、今日も強い日差しが照りつけるだろ。遠くに見える山並み、その後ろに天と地を繋ぐ塔の様に入道雲がそびえる、その白さは美しく青空に映えていた。
自転車を土手に止め、スイカを手に川へ下る。日の光に煌めきせせらぐみなも、川底に大き目の石がゴロゴロしているのが見える。
「つめたい!」
玲は水温を確かめようと靴を脱いだ素足の先を付けた。その冷たさに思わず身震し、そして満足する。これならスイカも良く冷えるだろう、川底の石をつかって小さな池を作り網に入れたスイカを沈める。
竹で作った立札を立て、所有物であることを明示しておく。この辺で盗って行く人なんていないだろうが、目印を付けておかないと川に来た誰かが気付かずに誤って割ってしまう可能性がある。
僅かな労働だが額から汗が出る、だがその見返りに十分なモノが仕上がりそうだ。玲は鼻歌を歌いながら上機嫌で川原を後にした。
昼過ぎ。
部活を終えてスイカを取りに戻った玲は、川土手に数台の自転車が停めてあるを認めた。川原には小学生と思しき子供達が川遊びに興じている。
玲は暫くその様子を眺めていた。水と戯れる少年少女、自身も5年ぐらい前まではあんな感じだったかなぁ~と、過ぎた時を懐かしんだ。
が、事態は急変する。少年の一人が川に沈めたスイカを発見したらしく、周りの子供達を呼び集めていた。
やばい!
玲は慌てて川に降りた。
確り固定したつもりだったが、立て札は流されていた。スイカの所有権について、小学生達と「激しく交渉」した結果。三つのスカイのうち一つを、彼等に引き渡す事で取引が成立した。
川原に座り込んで小学生とスイカを食べる。包丁などは持って来ていないので、川辺に転がる石を使ってスイカを割った。
緑色の外皮の縞模様に赤々とした果肉のコントラスト、種の黒がアクセントとなって視覚的な食欲をそそる。
適当な大きさの破片を、両手に持ってかぶりつく。果肉のしまり、噛み締めて溢れ出る川で冷やされた冷く甘い果汁は喉を潤おし、夏の日差しで焼けた川原から立ち上る熱気の中で、これほどの美味があるかと思わせた。
手と服を少々果汁で汚したが、豪快に子供達とスイカを味わった。
グッジョブおやじ!
お父さんの作ったスイカ、凄く美味しいよ。玲は心から父を称えた。
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