第3話 カキ氷
川で子供達と別れ、玲(アキラ)はスーパーで飲み物を調達した。
「カルピス」、もちろん買っていく。サイダーは~?買っていこう、麦茶と氷は「お婆ちゃんの家」に叔母さんが準備してくれている。
「お姉ちゃん、彼氏いるの?」
十数分前のフラッシュバック!カルピスをくれた女の子の質問。
「マセ」たガキだなと思った、「彼」「彼等」の誰かと真剣交際?それは意識的に玲が避けて来た問題だった。
子供の言葉に心を乱され、レジの前でカルピスの瓶を握りしめ物思いに耽けった玲は、店員に声をかられ我に帰り、思わず瓶を落としそうになった。
店員が自分を変な目で見ている?自意識過剰になりながら会計を済ませ、自転車に跨り逃げるように店を後にした。
長くなだらか坂道を自転車で下る、制服の隙間を程よく「夏の風」が吹き抜ける、ちょっとした爽快感が気分をずいぶんと落ち着かせてくれる。
坂を下りきり、しばらく平坦な道を行くと今度は上り坂。登り切った所に「彼」の「おばちゃんの家」があった。
玲は自転車を降り、坂道をゆっくりと押して登り始めた。家が近づくにつれ先ほどの件が頭をよぎり、我知らず溜息が口をつく。
「チリリリィ~ン」
涼やかな風鈴の音色と共に坂の上から来た冷たい空気が、ふわりと玲の頬を撫でた。
ふと目をあげると、坂の途中にある食堂に白地に青の波模様、中央に太目の赤字で「氷」と書かれた垂れ幕が掛かり、店の前に飾られた「大きな氷」が夏の陽射し溶け出す冷気だった。
「カキ氷か~」
陽射しに溶けて輝く氷に、玲はフっと思い出し笑いをした。
お婆ちゃんが亡くなった後、「彼」にはもう会う事が出来なくなるのでは?そんな不安があった。
だから「お婆ちゃんの家」が取り壊されたり売りは払われるコトもなく「彼」の伯母さんが管理して、親族がお盆やお墓参りで集まるの場所として使われる事に成ったと聞かされ時は喜んだ。
玲は時々「彼」の叔母さんと一緒に家の掃除を手伝った。可愛がってくれたお婆ちゃんへの感謝の気持ちがあった。
古い家には様々なモノがあった。振り子の付いた柱時計、大きな鉄窯、刃は落としてあるが持つとすごく重い日本刀。他にも今では見慣れないレトロな生活用品?が色々と転がっていた。
「あ!これ懐かし~。」
古い手動式のカキ氷機。
削り出した氷を受ける器を置くためのU字状の台座、氷を入れて削り出す大きなハンドルが付いた円形の切削筒。
昔、「彼」が「スフィンクスか伏せた犬の前半分みたいに見えるね」と表現した時は「なるほど」と感心した。
お店に行かなくても家で手軽に「カキ氷」が食べられる夢のマシン!玲達はそう思っていた。
だが違った。一度食べると専用カップで製氷するペースは3時間以上かかった。
買い置いた氷シロップは、皆で食べるとすぐに底をついてしまい、しばらくはただの味気ない「氷節」を食べるしかないはめになった。
色々とやり様はあったのだろうが、そういった所に知恵や工夫を思い付かないのが「子供」だったなと思う。
そして忘れられないあの事件!
「お、カチカチだぜ~」
「やった~、長かったな~」
冷凍庫から製氷カップを取り出し、具合を確かめて皆、喜んだ。
「シロップは?」
「彼」の問いに玲は冷蔵庫を確かめ買い置きがあるのを確認
「大丈夫!ちゃんと新しいのがあるは。」
皆に笑顔向ける。
「よし、じゃや~早速、、」
「、、取れないね。」
金属性の製氷カップから中々氷が取り出せない、それが事件の始まりだった。
しばらく置いて、氷の表面が少し溶けだし自然に取れるのを待てばいい、だがその間が待てないのが子供なのだ。
真っ白い霜に覆われた容器、夏の気温であっても容易には溶け出さない。
「「「「、、、」」」」
「フ~。フ~。」
容器に息を吹きかける「彼」、玲も「彼等」もはあっけにとられる。
「お前何やってんだ?」
「いや、息を吹きかけたら早く溶けるかなって、、、」
「彼」ちょっとうつむきながら答える。
「おお、なるほどな。」
「良い考えかもな。」
玲もそう思った、「彼」はしばらく息を吹き続けたが結果は芳しくない。
「舐めてみたら?」
「へ?」
「彼等」が「彼」に提案する。
「息き吹きかけるより早いんじゃないかな?うまくいけば自分の分を皆もやればいい。」
色々アイディアが飛び出す、なんだか楽しくなってきたと玲は思った。
だが水や湯をかける、日向に出してみると言った発想には辿り着かなかった。
そして、、、
「ヒャ!!」
「彼」が突然、変な声をあげる。
「ど、どうした?」
「ヒィ、ヒィタファ~」
製氷金属容器が、、、「彼」の舌に張り付いていた。
「ぷッ」
「は、はははは」
皆、その様子に笑い始めた、玲も悪いとは思ったが笑い出してしまった。
その後何とか容器は剥がれたものの「彼」の舌の皮が容器に張り付いてむけてしまう、大変な結果になった、、、
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