第四話 猿がいるのが分かった。

 猿は毎日、キーボードを叩いていた。

 ただ、それは最初の頃の適当なものではなく、次第に目的をもったものになっていった。

 表現は次第に増えていった。

 さらに、その組み合わせで複雑な表現ができるようにもなっていた。

 山の緑。

 風の音。

 川のせせらぎ。

 狼の遠吠え。

 それらが組み合わさり、ディスプレイの上に山が表現されていった。

 それで猿は、すこし悲しくなることがあったけれども、キーを叩き続けた。

 文字によって何かを表現することの楽しさを、猿は少しずつ分ってきたからだ。

 山の風景を表現した文章が、素朴な言葉の連なりで少しずつ形作られていった。

 それはどことなく、読む者に懐かしさを感じさせるものだった。

 そして、とうとうそれを読む者が現れた。

 ディスプレイに「素朴で素敵な文章ですね」と表示されたので、猿は驚いた。

 驚いたが、次第にそれは嬉しさへと変わっていった。

 ここまでくるのに百年かかっていたが、猿はやってきてよかったと思った。

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