古の魔王と最強の始祖の冒険譚

六波羅 パセニョンチル

第1話 転生

 今日はとてつもない厄日だった。

 まず、朝起きたら目覚まし時計の電池が切れていて盛大に遅刻をした。

 急いで大学の講義の準備を済ませ、口にパンをくわえながら家を飛び出した。


 電車の中ではジジイにいやらしい目で見られた。

 俺は男なのに「やらないか?」とか言われた。

 男だからか。


 大学に着くと「本日の講義は休講です」と書かれたボードが教室の前に立っていた。

 あれだけ急いで家を飛び出したと言うのに休講か。


 一気に暇になってしまったので部室棟に行った。

 部室棟は15階建ての建物で、俺の所属している演劇部は15階の一番奥。

 部室に入ると、部長が忙しそうに報告書を作っていた。


 一言二言で挨拶を済ませ、衣装係の人たちが一生懸命作った他のであろうドラキュラの服を一瞥した。

 これは俺が着る予定の服だろう。


 そして、外の空気を吸うために窓を開けた。

 窓を開けた瞬間、内と外の気圧差で部屋の空気が外へ放出された。

 そして、空気とともに俺も放出された。

 開けた窓がどんどん遠くなっていく。

 窓から部長が身を乗り出して何かを叫んでいる。


 ここで俺の意識は途切れた。


 ね? とてつもなく厄日でしょ?


「ぶっは! 本当に厄日だったんだねぇ」

「はぁ、笑い事じゃないんですけどね」


 俺は事の顛末を、真っ白な部屋にドスンと置いてあるこれまた真っ白なテーブルを挟んで、またまた真っ白なドレスに身を包んだ美しい女性--女神 プニニョールに話していた。


 どうやら俺は、窓から落ちて死んだらしい。

 しかし、気がつくとこの部屋にいて、プニニョールに出会った。


 プニニョールは様々なことを教えてくれた。

 生前の俺の生活を覗いていた事、ここが天界だと言う事、俺の死んだ時の顔があまりにもマヌケだった事、などなど。

 ほとんど俺を煽っているような内容だが、それはご愛嬌らしい。


 そして、最後に転生このの話しを持ち出された。


「で、生前の君は悪行より善行の方が圧倒的に多かったからもう一度違う人生を歩ませてあげるわ。まぁ、暇な時に覗かせてもらった時のお礼も兼ねてね」

「例えばどんなところを覗いてたんですか?」

「そうね、ほとんどがあなたが部活で頑張ってたところかな。他には、あなたがお部屋でいかがわしい本片手に1人で頑張っていたところとか?」

「おい、やめろ、女神」


 ふざけた女神だが、転生というのも悪くない。

 ラノベでこのようなシーンは目にしたことがある。

 なんらかの理由で死んで、女神に呼ばれ、チートを与えられ、適当な理由をつけられて異世界にポイ。


「女神様は俺を異世界に送って何をして欲しいんですか?」

「んー、そうねぇ。向こうで助けを求めている人を救う……とか?」

「特にないんですね。わかりました」

「あ、それと種族チェンジもしてあげられるけどどうする?」


 ふむ、種族チェンジか。

 人間のまま異世界に行くこともできるが、スライムやアンデッドになって異世界で無双する事もできるってことか……。


 あー、でもファンタジーの知識とかないからどの種族がいいとかわからないな。

 と、いうわけで。


「女神様にお任せします。あ、もちろん俺の人生なので真面目にやってくださいね?」

「え、お任せでいいの? 一応スキルとかもあげれるけど……って信頼されていないのかしら、私」

「スキルもお任せでお願いします」

「わかったわ。少し熟考するからこれ読んでていいわよ」


 お、ミステリー小説か。

 って、作者のガンドルド・オポチヤーナって誰だよ。

 まぁ、読んでみるか……って、これ2巻じゃねぇか。

 1巻めっちゃ気になるやつじゃねぇか。

 まぁ、いいや、読むだけ読んでみよう。

 ふむふむ。ダンボって言う貴族とその妻子、そして3人のメイドが住む屋敷で殺人事件が起きる、と。

 ん?なんか書いてある。


「メイドの1人であるカトリーヌが犯人」


 読み始めて5秒で犯人わかっちゃったよ。

 探偵が出てくる前に事件終わったよ。

 なんだろう、こういうやるせない感じの嫌がらせって昔からあるよね。


「よし、終わったよ! ステータスって言ってみて?」


 なんだこの小説は。と小一時間問い詰めたかったけどめんどくさそうなので素直に従おう。


「ステータス……っ!?」


 ステータスと言った瞬間、体が痛くなった! あと頭の中を何かにかき混ぜられているような気持ち悪い感じがするッ!


「うぐっ!!……はぁはぁ、なんですか?これ」

「ただステータスが更新されただけよ。今回は大幅に更新されたから痛かっただろうけど次からはそんなことはないわよ。多分」


 多分か……。言うと思ったけどさ。多分か。


「ほら、表示されたでしょ? 見て見て?」


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 ステータス


【名前】鬼嶋きじま はじめ

【年齢】20

【レベル】90

【種族】吸血鬼:始祖

【体力値】

 HP:45,278,452/45,278,452

 MP:14,526,144/14,526,144

【能力値】

 ATK:1,962,122

 MATK:1,898,999

 DEF:1,996,221

 MDEF:1,989,898

【スキル】吸血 眷属召喚 血の乱舞 支配

 血液操作 変身

【パッシブスキル】永劫 始祖

【ユニークスキル】女神の加護 ナヴ


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 なるほどなるほど。

 吸血鬼の始祖ね。

 何回も演劇でやらされたから演技はバッチリ。


 で、Lv.90ってのは……きっと異世界の人の平均なんだろうな。


 この1000万を優に超えるHP、MPと100万を優に超える能力値は……きっと異世界の人の平均なんだろうな。


 で、スキルもヴァンパイアっぽいね。


「……色々ツッコミたいんだけど、まずナヴってなに?」

『解。鬼嶋始の異世界の旅をナビゲートです。』


 うお、頭の中に声が聞こえてきた。

 なんと言うかこう言う無機質な女の子の声っていいよね。


「色々困ったらこの子に聞いてね」

「あと女神の加護ってなんですか?」

「それはわたしがあなたを覗きやすくするためのスキルよ?」


 小首を傾げるんじゃない。

 常識でしょ? みたいに言ってるけど俺からしてみたらただの迷惑でしかないからね? これ。


「最後に、僕の元々の攻撃力ってどのくらいでした?」

「えっとね、5よ。ゴミね」

「……参考までに聞きますけど、異世界の人たちの平均的な攻撃力ってどのくらいですか?」

「んー、平均とかはわかんないけど、向こうの国の最強の戦士の攻撃力は1万くらいだったかしらね」


 やばいな。

 どうやらこの女神は俺に俺TUEEEEをしろって言っているようだ。

 完全無欠な主人公が出てくる物語は面白くないと言う定石があるというのに。


「あ、普通に日光とかニンニクとかには弱いから」


 あ、良かった。

 まだ、弱点があるならいい方だ。

 本当に良かった。


「よし、じゃあ送ってください、女神様」

「任せておきなさい! じゃあ、いくわよ! えいっ!」


 おお、複雑な形を複雑に絡めた魔法陣が出てきた。

 これに乗れば行けるのかな?


「よっと。では行ってきます!」

「いってらっ……あ! 今の時間だと向こうは真昼間だわ!」

「えっ」


 その声を尻目に僕は異世界に転生をするのであった。



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