1999年8月19日 『嵐の前の』
昨日、3人で話した
セツラ君へアプローチする段取り。
流石に一晩で名案が出るはずもなく
今日は少々寝不足気味だ。
セツラ君へ逢うという事は
花音君に逢うということだ。
やはり、ユリアさんが言っていた通り、
詩音君を花音君、恵梨守さんへ
紹介するのが最優先となるだろう。
そうすることで、良くも悪くも
事は動き始める。
好転することを切に願うばかりだ。
午前中は、何事も無く、
普段通りに過ごした。
昼食も済ませ、詩音君の事を考えつつ
ゆったりと外を眺めていると
胸ポケットに入れていた携帯から
呼び出し音が流れた。
「もしもし」
「もしもし
ユリアです。
今、よろしかったですか?」
「これはこれは、ユリアさん。
勿論、大丈夫ですよ」
「明日・・・お時間ありますか?」
「基本的に、
毎日暇を持て余しておりますよ。
明日とは、詩音君のことですかな」
「はい。
明日、私が休みで、
花音と恵梨守も時間があるようなので
二人に詩音を逢わせようと思います」
「そうですか」
「あの・・・
もし・・・よろしければ・・・」
「是非、立ち合わせてください」
「えっ・・・
ありがとう・・・ございます・・・」
言い難そうなユリアさんに
助け舟を出したと言いたいところだが、
ただ単に、自分がそうしたいという
願望を口に出したに過ぎない。
「明日、
詩音君の病室に行けばよろしいですか?」
「えぇ
お昼一時位はいかがですか?」
「勿論、構いませんよ」
「では、病院の正面玄関で
お待ち致しております」
「分かりました。
ところで、花音君と恵梨守さんは・・・」
「花音は午前中の用事を済ませて
直接、私の病院に向かうそうなので、
私は、恵梨守を迎えに行って
その足で病院に向かいます」
「そうですか。
では、明日一時、病院で」
「はい
宜しくお願い致します」
「こちらこそ」
意外に早く結論が出たが、
心の準備は出来ていた。
シオン君の居ない花音君に詩音君・・・
心にポッカリ、穴が開いた感覚に
私はシオン君の存在に
依存していた事を思い知らされた。
謎の青年、不可思議な現象、未知の世界、
そのどれをとっても、
少年の心を思い起こさせるには
十分な要因となった。
そのきっかけとなった
シオンという青年。
私に青春の頃のトキメキを
思い出させてくれた恩人と言っても
決して過言ではない。
それほどに、
私の残り少ない人生に影響を与え、
充実感を与えてくれたのだから。
息子のような、孫のような、友のような。
心温まる不思議な存在だった。
ただ・・・心残りと言えば、
彼に来ると分かっていた『その時』を
予見できていたにも拘らず
お別れも、お礼も言えなかった事だ。
手を合わせる墓さえ無い、
もうどこにも存在しない彼を、
私は忘れることはできないだろう。
彼は確かに存在した。
私がその生き証人・・・
彼は、事を成した事で姿を消した。
なら、それは友として
喜ぶべきことなのだろう。
私は、明日へのケジメとして
彼との思い出に浸った。
明日から、
彼に関わる4人の家族と共に
新しい日常が始まる。
何かが大きく動き出したような
不安と期待が私の胸に宿った。
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