体操。
「何の踊りなのあれ」
ある朝珍しく早起きをした男が庭に出ると、庭で妙な動きをしている少女が居た。
少女はなんとも言葉では表現しがたい、珍妙な踊りを踊っている。
リズムも何もあった物では無く、動きにも統一性がない。男が思わず疑問を口にしたのは致し方ないといえるものだった。
「朝の体操だそうですよ」
「うわ、びっくりした!」
男はただの独り言のつもりだったのだが、いつの間にか女が後ろに立っていた。
驚く男を見て、女はにやりと笑う。勿論わざとである。
男は不満そうな顔をしつつ口を開く。
「んで、なに、朝の体操?」
「ええ、早く起きて、体操が体にいいと聞いたそうです」
「誰に?」
「お散歩でよく会われる御婆様方です」
「あー」
そう、最近少女は犬の散歩で出会う老婆達と、世間話もするようになった。
朝の体操は健康の秘訣だといわれ、翌日に即実行していたのだ。
ただし、どういう体操をすればいいのかを聞いていなかったのはご愛敬である。
勿論その時いつもの彼女も居たのだが、ただの世間話だと気にしていなかった。
「なんつーか・・・MPが吸い取られそうだ」
「ええ、見ていると不安になりますね」
二人の評価はほぼ正しく、少女の動きは不可解であった。
とはいえ少女の顔は真剣そのもの。遊びでやっている気配すらない。
その顔に男は首を傾げる。
「なんであんなに真剣なの、あの子」
「健康でないと、貴方に申し訳ない。それにあなたに恩返しができない。だそうです」
女の言葉を聞いて、男は思わず苦笑する。
つい最近までどん底もどん底に居た人間が考えられることじゃない。
降ってわいた幸運をただ良しとしない少女。あの子はどこまで良い子なのだろうかと。
もっとやさぐれていてもおかしくない。もっと奔放でもおかしくない。
けど、少女は少女なのだ。
「とはいえ、あのMP削る踊りは何とかならんものか」
その事実と少女の動きは別物である。
たとえ心掛けが良くとも、やはりMPを削られる気がする。
男は女に提案するが、女は男にいつもの調子で口を開く。
「じゃあ、旦那様が一緒に体操してきてください。腹がそろそろまずいですよ」
「うっせ!まだでてねーよ!」
「・・・え?」
「本気で驚いた顔すんじゃねーよ!」
男は女に文句を言いながら、少女の方へ歩いて行く。
男は少女に声をかけ、少女は今更男の存在に気が付き、頭を下げる。
そして二人で不思議な踊りを踊り出した。
人にあれだけ言っておきながら、男もリズム感は皆無であった。
「ふふっ」
その日、珍しく普通に笑う女がいたが、その表情を見た者は誰も居なかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます