魔法少女1

……昨日の夜からずっと考えていたものの、

結局“ミコ”の正体は全く分からなかった。


これが、僕に全く関係ない人物だったら、

放置していても一向に問題はないんだけれど――


実際は、この“ミコ”のおかげで、

琴子に多大な影響が出て来ているわけで。


夜の街を徘徊したり、

不良たちに妙な経緯を持たれていたり。


昨日の鬼塚敗北の噂もそのうち広がるだろうし、

ますます琴子の立場が変なことになりそうだ。


ここまで来ると、

さすがに見過ごすことはできない。


「温子さんにでも

相談してみるかなぁ……」


事情が事情なだけに、今までは相談しなかったけれど、

さすがに自分一人じゃ無理っぽい気がしてきた。


ただ、温子さんに

ABYSSのことを上手く隠せるだろうか?


何しろ僕は、秘密にすることを条件に

見逃してもらっている身だ。


迂闊に情報を漏らしたりしたら、

それこそ温子さんもろとも処分される可能性もある。


温子さんがABYSSの関係者なら、

もっと楽に相談できるんだけれどなぁ。


「……まあ、温子さんは

本当に最終手段にしておくか」


琴子のことが大事とはいえ、

まだ抜き差しならない事態ってわけじゃない。


リスクをできるだけ上げないように、

関係者の中で完結できるようにしよう。


でも、他に相談できる人か……。


爽……はないな。


親身にはなってくれるだろうけれど、

親密にもなろうとするだろうし。


琴子の兄として、

変態からはきちんと守ってやらないと。


佐賀島さんは異様に鋭いし、

ABYSSに首を突っ込みそうだから除外か。


他に琴子を知ってる人だと龍一だけれど、

今日も休みだったしなぁ。


水曜からだと……今日で三日目か?


もうすぐ転校しちゃうんだから、

もっと学園に来ればいいのに。


「……お?」


琴子のことを考えていたら、

廊下の向こうにちょうど琴子の姿を見つけた。


っていうか……えっ?

佐倉さんと一緒にいる?


二年前ならともかく、最近は、

二人が一緒にいるところを見たことがないのに……。


片山の一件以来、

また親交が始まったんだろうか。



笑ったり変な顔をしたりの佐倉さんに、

何だかずっと真剣な顔の琴子。


一体、何を話してるんだろう?

気になるな……。


あー……

こうなったらその、アレだ。


盗み聞きとかではなく、たまたま通りがかって、

ついうっかり会話が聞こえてしまうことにするか。


不可抗力だから仕方ないな。


「どれ……」


前に琴子がやたら鋭かったこともあるから、

今回は最初から全力で気配を消去。


できるだけ物陰に隠れながら、

さり気ない風を装って二人に近づく。


前回から学んだ警戒ラインを考えると、

あと数メートルは近付けるか?


いや――でも、

この先に身を隠せるような場所はない。


仕方ないなと諦めて、この場所で妥協。

可能な限り耳を澄ます。


「魔法少女とか……」


魔法少女?


「なるほど……

そういうのもあるのか」


……お勧めのアニメの話でもしてるのか?


っていうか佐倉さんも、

そういう系のアニメを見てたんだ。


「面白そうだな」


「あ、でも……今思うとやっぱり、

お勧めできないかも」


「なんで?」


「ええと、

変身が上級者向けっていうか」


上級者向け?


「一度脱ぐから恥ずかしいと思うよ」


まさかエロアニメっ?


「別に脱ぐのが普通じゃないの?」


おいぃ!?

普通じゃないだろ普通じゃ!


こ、琴子は普段、

どういうアニメを見てるんだ……!?


「あー……うん。

やっぱりやめたほうがいいんじゃないかな」


「私もどうかと思ってきちゃったなーって。

だからほら、違うのにしない?」


さ、さすが佐倉さん……!

素晴らしい大人の判断です。


「いや、それでいい。調達して」


よくない。


「えー、でも……」


「いいから」


よくない。


「それじゃあ、よろしく」



「あっ、行っちゃった……」


どうしようかな――と、

佐倉さんが足下に視線を落とす。


いやもう……僕のほうこそ

どうしようかなという感じなんですが。


佐倉さんが、琴子に、

大人向けのアニメを貸す――


果たして僕は、

これを止めるべきなんだろうか?


一応、僕らの年代で考えれば、

佐倉さんと琴子の行為に何ら不自然なことはない。


僕の周りでもそういう類いの貸し借りはあるし、

僕だってしたことがあるからだ。


けれど、琴子がそういう系のアニメを、

好んで貸し借りするっていうのは……。


「んんん……」


何だか、

物凄く複雑な気持ちだ。


僕が単純に妹離れできてないのかもしれないし、

女の子に変な幻想を抱きすぎなのかもだけれど。


そういうのって普通なのか、

いっそ、佐倉さんに聞いてみようかな?


琴子のことは、

佐倉さんが一番よく知ってるだろうし。


というか、

貸し借りの当事者だし。


「あの……佐倉さん」


「っ!?」


「あ、ごめん。びっくりさせた?」


「あ……ううん、大丈夫。なに?」


「いや、琴子と話してたみたいだから、

声をかけてみたんだけれど」


そう口にした途端に、

佐倉さんの顔色が目に見えて変わった。


「もしかして、聞こえてた……?」


「ああ、全部じゃないよ。

終わりのほうだけ」


「それで……

ええと、魔法少女って?」


「えっ?

そんなこと言ってないよ?」


……はい?


「晶ちゃん……じゃなかった、

笹山くんの気のせいじゃないかな!」


いやいや。

気のせいなわけがない。


何でごまかすんだ?


やっぱり、

聞かれちゃまずい感じの話だったのか?


「……えっと、ごめん!

私、用事を思い出しちゃった!」


「あっ、ちょっと!」


止めようとしたものの、

佐倉さんは小走りで逃げるように遠ざかっていった。


……やっぱり、僕に聞かれるのは

相当恥ずかしい話なのか?


だとしたら、

琴子に魔法少女の話を振るのはまずいか。


でも……うーん。


琴子が魔法少女(大人向け)を見るのを、

果たして僕は許容できるんだろうか――







六時限目の授業が終わり、放課後――


みんなから集まってきたプリントを整理していると、

向かいの温子さんが溜め息をついた。


「どうしたの温子さん?

何かあった?」


「いや、龍一くんが

今日も来なかったなと思って」


「今日でもう一週間だよ。

サボりにしても、さすがに長すぎだ」


……言われてみれば、

こんなに休むのは確かにおかしいな。


もしかして、

もう街を出て行ってしまったんだろうか?


黙って出て行かないとは言ってたけれど、

急ぎになって連絡できないこともあるだろうし。


ああでも、龍一の割と真面目な性格なら、

電話かメールの一つくらいは寄越すか……。


「……その様子だと、

晶くんは心当たりある感じ?」


「ああいや、そういうわけじゃないよ。

様子を見に行こうかなって思ってただけ」


「ああ、なるほど。

それじゃあ、お願いしてもいいかな?」


「実は風邪で倒れてました~なんて話だったら、

笑い事じゃ済まないからね」


「いや、その心配はないと思うぞ。

三橋が今川を昨日見かけたらしいし」


「えっ、本当に?」


「ああ。繁華街のほうでな。

コンビニから出て来たとか何とか」


「ただ、声をかけようと思ったら、

それより早く路地裏に入っていったんだと」


……路地裏となると、

切り裂きジャックとしての活動とかかな?


だとしても、学園に来ない理由には

ならないと思うんだけれど……。


「最近のあの辺りは物騒だったはずだし、

変なことに巻き込まれてなければいいんだけれどね」


「それも今川なら大丈夫だろ。

あいつを見て絡むやつがまずいないしな」


「……それもそうだね。

もし絡まれても、龍一くんなら余裕だろうし」


「えー。でも、

魔法少女にやられちゃうかもしれないよ?」


「魔法少女……?」


「うん。はい、プリント」


「ああ、ありがとう。

――それで、魔法少女って?」


つい最近も聞いた単語に、

思わず前のめりになる。


「今ね、流行ってきた噂があって、

街中に魔法少女が出るんだって」


「アニメの魔法少女と同じでね、

悪い人をやっつけて回ってるんだよ」


「先週は通り魔が出て来たと思ったら、

今度は魔法少女まで出て来たのか」


「……この街はどこへ向かってるんだ?

異世界への扉でも開いてるのか?」


「あり得るかもしれん。

でなければ、魔法少女なんて正気の沙汰じゃない」


「でも、会ってみたいなぁ。

魔法少女さん」


「やめといたほうがいいぞ。

そんな格好で徘徊してる時点でまともじゃない」


「えー、大丈夫だよぉ。

私、悪い人じゃないもん」


「龍一は悪い人だったのか……」


「素行は確実に不良だな。

あのサボり加減は擁護できん」


……それは確かに。


「まあ、学園をサボって出歩いているのが本当なら、

魔法少女にお仕置きされるのもアリだね」


「ついでに三橋にも

お仕置きしてくれるといいんだが」


「そういえば三橋くんは?」


「涼葉ちゃんを

追いかけていったみたいだよ」


「『代わりに解いておいてくれ』と

俺にプリントを押しつけてな」


「というわけで、ほらプリント。

三橋のバカのぶんも一緒だ」


「まあ、心優しい俺は、

奴の将来を思って白紙にしておいたんだが」


あ、ホントだ。


「……これは魔法少女の前に、

私からお仕置きしなきゃいけないようだね」


「な、何か朝霧さんが怖い……?」


ぎゅっと僕の袖を握り締め、

小動物みたいに寄り添ってくる羽犬塚さん。


その頭を『大丈夫だよ』と撫でて宥めつつ、

新たな問題についてどうしたもんかと頬を掻いた。


とりあえず、優先度の高そうなものから、

一つ一つ片付けていくしかないか……。










問題の一つ目、

龍一の家庭訪問――


顔を見ればすぐ終わりと思って来てみたら、

龍一が出てくる気配は一向になかった。


郵便ポストには、

一週間ぶんと思われるチラシと郵便物の束。


もちろん、携帯も繋がらない。


一応、電気メーターは動いているから、

中で冷蔵庫とかは動いているんだろう。


イコール、この街にはまだ残っている。

まあそれはいいとして――


行き先は、三橋くんが目撃したっていう

路地裏だろうか。


あそこには龍一の秘密基地もあるから、

可能性としてはゼロではないけれど……。


とりあえず行ってみて、もしハズレだったら、

また明日にでも出直すか。





「――う」


妙な気配に気付いたのは、

龍一の秘密基地の入り口に立った時だった。


……後をつけられていた?

だとしたら、それはいつからだ?


落ち零れとはいえ、元暗殺者の僕に、

これまで全く気付かせないなんて……。


尾行に気付いた今でさえ、

相手の居場所が大体でしか分からない。


一般人では決してあり得ない、

かなりハイレベルな尾行。


これと比べれば、片山一味のお粗末な尾行なんか、

大声で叫びながら歩いているようなものだ。


「まずいな……」


しかも、この相手は

すぐさま気配を消した。


逆を言えば――


それが意図的でないのなら、

相手が気配を漏らしたのは事故ということになる。


尾行訓練していた時の経験からすると、

原因は、恐らくは気の緩み。


では、どうして気が緩んだ?


決まってる。

目的を遂げたからだ。


この相手が狙っていたのは、

僕じゃない。


十中八九、

龍一の秘密基地の場所だ。


龍一が学園に来ていなかったのは。

そして家を留守にしていたのは――


全部、この相手に狙われていたからか。


……しくじった。


僕が龍一のところまで、

この誰かを連れて来たようなもんじゃないか。


でも、悔やんでも今さら遅い。


僕が今からどれだけ名演技をしてここから離れようと、

この尾行している誰かは、秘密基地を調べるだろう。


そして、龍一と鉢合わせになる。


この誰かが、何者なのかは分からない。


どんな意図で

龍一を狙っているのかも分からない。


ただ、それが何であろうとも、

龍一を何の備えもないままにはしておけない。


覚悟を決めて、龍一の秘密基地へ――

朽ちかけた建物の中へと入る。


この場で襲ってくるかどうかは分からないけれど、

一応、戦闘準備はしておこう。





「おー、何や晶かー。

びっくりさせんなやもー」


「ごめん。っていうかちょっと、

急ぎで話しておきたいことがあるんだ」


「龍一が最近、学園に来なかったのって、

誰かに狙われてるから?」


「……せやけど、

何かあったんか?」


「ごめん、僕がここに来る時に尾行された。

気付くのが遅れちゃって」


「マジか?」


「マジ。だから、

急いで余所に移ったほうが――」


そこまで言いかけたところで、


闇の中から、

ぬらりと黒い何かが突き出てきた。


「逃げろ!」


「っ!?」


龍一と同時に跳躍する。



それとほぼ同時にパッと明かりが瞬き、

龍一の背後のペットボトルが爆発した。


って、これはまさか――


「拳銃!?」


「おいおい、

シャレになっとらんぞ!」


「とにかく走って!

狙いを絞らせなければいいから!」


困惑と足音を響かせながら、

二人で建物の中を動き回る。


とりあえず、こちらが立ち止まらなければ、

拳銃はそう怖れるようなものじゃない。


動き回る相手に当てるのは至難の業だし、

弾数の縛りもある。


と――相手も仕方なしとばかりに、

刃渡りの長い肉厚のナイフを取り出してきた。


「二対一とか

舐めとんのかコイツっ?」


「いや、龍一の右側!」


「うおっ!?」


窓から侵入してきていた黒ずくめの男を見て、

龍一が慌てて飛び退く。


拳銃にナイフを所持した男が

これで二人目。


何人で来ているのかは分からないけれど、

放っておいたらさらにぞろぞろ出てきそうだ。


……どうする? 逃げるか?


いやでも、あれだけ尾行のスキルのある連中だ。

まともに逃げ切るのは不可能か。


「晶、片方任せてええか?」


「……ちょうど同じこと考えてた」


「っていうか、武器持ってない?

素手でやるのはさすがにキツい」


「しょぼい果物ナイフならな」


「それで十分!」


『ほれ持ってけ』と龍一の投げたナイフをキャッチしつつ、

僕が担当する相手へと突進――


不規則にステップを変え、障害物の陰を出入りし、

拳銃を使わせないように立ち回る。


が、そんなこちらの動きに、

焦ることなく対応してくる黒ずくめの男。


逆に拳銃をフェイクに使用――

こちらの接近を阻止/端へ追い詰めようとしてくる。


「くそっ」


こちらばかり動かされて、

一方的に体力を削がれては堪らない。


何とか状況を打破しようと石を拾う――

相手がこちらの意図を掴み動き出す。


それでも構わず投石――躱される。


その間にさらに石を拾い/砂を拾い、

障害物を盾にしながら間合いを調整する。


狙いは、投石で相手を動かしつつ、

一気に接近すること。


そうして目潰しをくれてやった後は、

ラッシュをかけて窓の外へと突き落とす。


二階だからダメージは期待できないけれど、

上手くやれば龍一と二対一の状況だ。


さてさて、上手く行くかどうか――


が、その作戦の決行前に、

龍一がまずい状況に追い詰められていることに気付いた。


突撃を諦め方向転換――

龍一の担当している男へと投石する。


距離がありすぎるため、

投げた石は当然のように回避される。


が、それで相手の足は止まり、

龍一は追い詰められていた角から中央へと戻ってきた。


「晶、サンキュ」


「角に追い詰められちゃダメだよ。

相手は飛び道具なんだから」


「それは分かっとるんやけど……

上手くやられとる」


「ちなみに、銃器と対峙した経験は?」


「……今回が初めてやな」


じゃあ、

上手く立ち回れないのは仕方ないか。


「とりあえず、相手の狙いを考えて。

動けない場所に追い詰められないように」


戦闘は経験が物を言うから、

詳細なアドバイスは難しい。


それに――この連中には、

付け焼き刃の対策なんて役に立たないだろう。


再び走り回りながら、

改めて相手の動きを観察する。


よく鍛えられているものの、

身体能力は片山よりも低い程度か。


ただ、戦況の判断力や理解度が、

比べものにならないほど高い。


一般人を狩るにしては、

あまりにも行き過ぎた戦闘技術だ。


もし、学園のABYSSを、

生け贄を追い立てるための狩人とするなら――


こいつらに抱く印象は、傭兵。


弱い存在を虐殺するのではなく、

強い相手と殺し合うための存在に見える。


こいつら……何者だ?


走り回りながら、

改めてその姿を眺める。


仮面に黒ずくめ――

正体を隠す出で立ちは同じ。



けれど、その顔を隠す仮面が

ABYSSとは全く違う。


アーチェリーのABYSSも、片山の手下でさえも、

衣装はどうあれ仮面のデザインは共通なのにだ。


それに何より、ABYSSは、

学園の中でのみ活動できるのではなかったのか。


学園の外で、しかもプレイヤーの龍一を狙うのは、

ABYSSにしては明らかにおかしい。


でも、ABYSSじゃないとしたら、

こいつらは一体――



「龍一っ!?」


「大丈夫や!」


銃声と共に龍一が地面に倒れ込んだものの、

当たったわけではないらしい。


鋭く起き上がって再び走り出し、

龍一が何とか体勢を立て直していく。


が、こっちも

他人の心配をしている余裕はない。


無駄なく飛んでくるナイフを回避しつつ、

どうにか状況を打破する切っ掛けを探す。


まず間違いなく勝てるのは

“集中”だ。


けれど、それをしている暇をくれるとは

とても思えない。


投石も、もう警戒されているらしく、

石を拾う段階で相手が阻止しに動いてくる。


拾うことはできるだろうけれど、

その後に有効打は期待できないだろう。


なら、弾切れを誘うか?


あるいは、片方を放置して、

龍一と二人で無理矢理一人を倒す?


相手のスタミナ切れは……

恐らく僕らより先に尽きることはないか。


他に何か、

戦況を変える方法があればいいんだけれど。


そう思っている間に、

窓から新たな人影が侵入してきた。


やばい、援軍か!?


「……は?」


警戒して身構えた先には――


僕の脳みそでは一万年かかっても想像できない、

狂気に満ちた光景があった。



「街で涙が零れる限り」


「悪を解体ばらして血の雨降らす」


「謎の魔法少女ミコちゃん、

ただいま見参!」



「……?」


誰もが無言で固まっていることを

不審に思ったのか――


謎の魔法少女が決めポーズを解いて、

僕らを仏頂面で見回してきた。


「おい、何で黙ってるんだ?」


いや、何でって……。


「えーと……琴子?」


「……そんなやつは知らない」


「いや琴子だろどう見ても」


「そんなやつは知らない!」


「いや、冗談言ってる場合じゃないから!」


何やってんのこんなところで!?

早く逃げて!


「ぐっ……この野郎!

そういう反応するところじゃないだろうが!!」


ばふーんと砂煙が広がる勢いで、

琴子が魔法のステッキを地面へと叩き付けた。


「ここは『魔法少女、来てくれたんだね!』とか、

『お願い、助けてミコちゃん!』だろう!?」



「って、うわっ!?」


銃声が響くと同時に、

琴子が飛び退く。


ハッとなって見れば、黒ずくめの男二人が、

琴子へと狙いを定めて距離を詰めていた。


「っ……アカン!」


「琴子、逃げろ!」


叫びつつ、

龍一と僕とで凶行を阻止すべく突撃する。


この距離……やばい、間に合わない!


「ふん」


瞬間――琴子が飛んだ。


「……えっ?」


そして、僕が間の抜けた言葉を漏らす間に、

黒ずくめの男が宙を舞っていた。


何が起こった?


そう思うよりも早く、

もう一人の男へと琴子が疾走する。


驚愕が傍から見えてもなお身構える男――

日頃の訓練の賜。


けれど、その必死で身につけただろう技術を、

琴子の拳が嘲笑うかのように殴りつけた。


打撃箇所は全て四肢。


敢えて防御させて、

その上からごりごりと削っていく。


その目にも止まらぬ連打に、

男の体がよろめく/傾く/ガードが下がる。


そこに、


「マジカルミコミコビーム!!」


強烈なビーム(抉るような中段蹴り)が炸裂し、

男の体を吹き飛ばした。


後方の壁に叩き付けられる男――

壁面に沿って力なく崩れ落ちる。


意識は当然ないものとしても、

果たして息はあるんだろうか?


そんな僕の心配を余所に、

琴子は倒れ伏す男を見下ろし――


「――死んで反省しろ!」


ビシっと決めポーズで

決め台詞らしいものを呟いた。


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