責任の一端1

信じられない。信じたくない。


でも――


そんな終わりのない思考のループに飲まれながらも、

佐倉那美は夜の街を懸命に走っていた。


とはいえ、心臓の弱い彼女では、

徒歩に色を付けた程度の速度でしかない。


彼女自身もそれを理解してはいたが、

それでも足を緩めないのは、大切な友人のためだった。


「琴子ちゃん……」


制服の胸元のリボンを握り締めながら、

夕方の件を思い返す。





“笹山晶の姿をした何か”との対話は、

予想していたものと全く違う方向に転がった。


殺されることを覚悟していたのに、

それをされるようなことはなく。


二年前の真実が、

解き明かされるようなこともなく。


代わりに、片山信二の不可解な点と、

笹山琴子に這い寄る凶兆が浮き上がってきた。


勘違いだと笑うことも、

できなくはなかった。


“何か”が思わせぶりなだけで、

実際には何もないのかもしれない。


だが、色々と詰めて考えて行くと、

どうしても片山が嘘をついていたことに行き当たる。


その嘘を那美が信じたことで、

大切な友人に危機が迫っているのだとしたら――


悔やんでも、悔やみきれない。


琴子の安全が関係している以上、

片山に直接、真実を問わなければならない。



しかし、そこで問題があった。


肝心の片山の連絡先を、

少女は聞いていなかったのだ。





彼の教室は、当然のようにもぬけの殻で、

少女はいきなり手詰まりになった。


琴子の携帯に電話してみるも、

そちらも一向に繋がらない。


自分よりは情報を持っていそうな笹山晶も、

どこかへ行ってしまった。


一人取り残された那美の頬を、

冷たい汗が伝う。


不幸な未来を予感しているにも関わらず、

何の手も打てないことに焦躁する。


一体、どうすればいいのか――


訳も分からなかったが、

じっとしてもいられなかった。


とにかく片山に会わなければと、

那美が教室を飛び出す。





その直後に、

盛大に尻餅をついた。


ぶつかったのは、

たまたま廊下を歩いていたクラスメイト。


ごめんなさいと謝る那美に、

彼は怒るようなことはしなかった。


むしろ、那美にありがとうと謎のお礼を告げて、

笑顔で手を差し出してきた。


クラスでも、

いつも特別賑やかな生徒だからだろうか。


不思議に思いつつも、

差し出された手を握ろうと那美が手を伸ばす。


が――その手が、空中で止まった。


そうだ。

そうだった。


この賑やかな彼は、以前、

片山と一対一で話していたことがあったではないか――


「あれ、どしたの?」


「あ、あのっ……」


首を傾げるクラスメイトを前に、

那美の喉が一瞬固まる。


“何か”襲われてから、

彼女は大半の人間との関係を断っていた。


身近な人が突然、

豹変して襲いかかってくるのは怖かった。


そして、自分と話すことで、

秘密を知った“何か”が殺しに行くのではと思っていた。


そんな彼女の恐怖と決意が、

クラスメイトとの会話を堰き止める。


「あ……もしかして、バレてた?」


「えっ?」


「パンツ見てごめんなさい!」


素早く鋭く土下座するクラスメイト。


その全く予想していなかったアクションに、

那美は呆気に取られ――


彼が頭を上げる頃には、自らの抱えていた不安が、

何だか酷くバカらしいと思うようになっていた。


「ちょっと聞きたいんだけど……」


下着が見えないように座り直して、

那美が三橋の目を見据える。


「三橋くん……って、

前に片山くんと二人で話してたことあったよね?」


「えっ?

あー、あったっけそんなこと?」


「一ヶ月くらい前。

校舎の裏のほうで」


「あ……あーあー、あったあった。

そういえばそんなこと」


「っていうか、よく覚えてるねー佐倉さん。

俺でさえ忘れてたのに」


「たまたま見て、

何してるんだろうって思ってたから」


「それより、三橋くんって、

片山くんの知り合いなの?」


「知り合いってわけじゃないよ。

クラスも違うから接点ねーし」


「じゃあ、

どうして二人で話してたの?」


「あー、それは何つーか……勧誘?

何か、ゲームサークルみたいな?」


「まあ、どうせロクなもんじゃねーから、

入んなかったんだけど」


「あ、佐倉さんは知らないと思うけどさ、

片山ってマジでいい噂ねーんだよね」


「気が向いたら来いっつって場所も聞いてるけど、

さすがに行ける気しねーわ」


「っていうか、もしかしてアレ?

佐倉さんも片山に誘われた感じ?」


「だったら、やめといたほうがいいよ。

特にほら、佐倉さん可愛いしさ」


「その片山くんから

聞いた場所って、どこ?」


「……んー?」


「だから、片山くんが来いって言ってた場所、

どこか教えてもらえる?」


「えーと……俺の話、聞いてた?」


うん。聞いてた――と、

那美が再び三橋に情報を催促する。


「いやだから、危ないんだってば。

やめといたほうがいいんだってば」


「分かってる。でもお願い。

どうしても片山くんに会う必要があるの」


「いや、どうしてもって……」





……そうして渋るクラスメイトを説得し、

少女は路地裏の奥深くにまでやってきていた。


この辺りまで来ると、

人の姿は全くと言っていいほどない。


街灯の明かりもまばらで、

照明として機能しているのは二つに一つあるかないか。


足下はゴミが雑然と散らかっており、

誰かが片付けようとした様子もない。


財政難から頓挫した都市計画と、

それに寄生していた企業の破綻が生んだ廃区画。


言わば街の膨大なツケが、

犯罪の温床となる路地裏を作っていた。


その街の廃棄物の一角で、

少女の足がゆっくりと速度を落とす。


「ここで……いいのかな?」


荒い息を整えながら、

少女が不安げに建物を見上げる。


肝試しのために用意されたとしか思えない、

朽ちかけの廃ビル。


日中だとまた印象は違うのかもしれないが、

夜のそれは墓石のような不気味さがあった。


こうして現場に来てみると、

クラスメイトが一人で行くのを止めた理由が分かる。


だが、躊躇してはいられない。


既に時刻は二十二時。


笹山琴子と連絡を取れなくなってから、

六時間近くが経過している。


もしも本当に浚われているのだとすれば、

早く助けてあげなければいけない。


そんな使命感に後押しされて、

那美がビルの入り口をくぐる。





埃臭い屋内に入った途端に、

誰かの話し声が届いた。


溜まり場なのだから当然なのだが、

人がいたことで、那美の呼吸が止まる/背筋が強張る。


だが、心は体に反して冷静で、

那美はすぐさま自分の口元を押さえしゃがみ込んだ。


壁材や床材がないせいか、

声量がなくともビル内はやたらと音が反響している。


ということは、迂闊な音を立てれば、

少女の存在も溜まり場の連中にすぐ発覚するだろう。


それだけは避けなければと、

那美が床に手をつけて慎重に呼吸を落ち着ける。


片山に会いに来たというのが彼女の目的だったが、

男たちの野卑な声を聞いて、すぐにその考えは変わった。


ほぼ確信と言っていいレベルの直感――

“彼らには話し合いが通じない”。


片山がいれば別かもしれないが、

基本、彼らと少女の間では価値観が違うはずだ。


那美が幾ら道理や正義を説いたところで、

彼らは決して動くことはないだろう。


方針を立て直して、まずは片山がいるか確認するために、

那美が男たちの話に聞き耳を立てる。


そうして漏れ聞こえる情報を集めていると、

少しずつ状況が分かってきた。


片山は不在であること。

琴子を捕まえてあるらしいこと。


そして、

何かのゲームの準備をしていること。


その中に散見される不穏な言葉の数々に、

那美の顔色がサッと青ざめる。


犯す/殺す/撮影する――

どう考えても、全て琴子に対するもの。


そんなことは絶対に許されないとは思うが、

肝心の那美に阻止するだけの手段がない。


ではどうする?


誰かに相談すべきか?

するとすれば、誰に相談する?


どうしても付いてこようとしていたクラスメイトには、

嘘を言って帰ってもらった。


『せめてこれだけでも』と連絡先は交換したものの、

今さら連絡を取ったところで遅い。


では、他に誰か――


考えが整理できない間に、

小さな悲鳴が聞こえて来た。


慌てて体を起こし、声のするほうへと近づく。

僅かに明かりの漏れる部屋を覗き込む。


するとそこには、

今まさに乱暴されようとしている友達の姿があった。


「ダメぇ!!」


那美が慌てて部屋の中へと飛び込む

/琴子にのしかかっていた男を体当たりで引き剥がす。


部屋の中にいた全ての人間が、

突然の出来事に硬直し声を上げる。


その驚愕を引き起こした那美が、

目をまん丸に見開いた琴子の肩を掴む。


「琴子ちゃん、大丈夫!?」


「那美ちゃん……!? 何で……」


「ごめんね琴子ちゃん、私が悪いの!

私のせいで、琴子ちゃんがこんな目に……」


涙を目に浮かべながら、

琴子に抱き付く那美。


そんな那美に、

琴子は困惑しつつも口元を緩め――


けれどすぐに、笑みを浮かべている男たちに気づき、

表情を硬くした。


「那美ちゃん、逃げて!」


那美の体を突き飛ばし、

琴子が立ち上がる。


それから、伸びてくる男たちの手を躱し、

部屋の隅――扉の逆側へ逃げた。


那美が少しでも逃げやすいようにという配慮だったが、

男たちとてそうバカではない。


部屋の出入り口を塞ぎ、カメラを回しながら、

ゆっくりと二人を追い詰めていく。


そうして行き場がなくなったところで、

男の手が琴子の髪を掴み取った。


「琴子ちゃん!」


どうにかして引き離そうと、

那美が男の腕に飛びつく/男に殴りかかる。


しかし、何も持たない少女では、

紛い物とはいえ超人に敵うわけがない。


男が軽く腕を振るっただけで、

那美の細い体は軽々と吹っ飛ばされ、壁に激突した。


那美の懐から携帯がこぼれ落ち、

目敏く見つけた男の仲間がそれを踏みつぶした。


「う……」


那美の目の前を、

チラチラとした明かりが飛ぶ。


四肢の力が抜け、

ずるずると体が床に倒れていく。


ダメだ。

このまま寝ちゃダメだ。


そう分かっていても、

体は言うことを聞いてくれそうにない。


視界が暗んでいく中で、

助けられなかった友達の名前を呼ぶ。


そんな少女を嘲笑うように、

ゲラゲラという男たちの哄笑が部屋に響き――








闇色の廊下に白刃が閃く。


熱を持った気迫が汗となって宙に飛ぶ。


断続的に走る風切り音。


そこにリノリウムを弾く靴音が連なり、

合間を埋めるように呼吸音が爆ぜる。


「くっ……!」


そうして再び訪れた風切り音を、

紙一重で躱した。


けれど、このABYSSに対して、

一度の回避じゃ足りないことは既に分かっている。


続いて飛んでくる蹴りの左右の見極め――

起こりから左足と判断。


ならばと軸足のほうへ滑り込み、

開いた黒ずくめの脇腹へと一撃を見舞う。


手応えはあるものの、

勝敗を決するには程遠い。


どころか、効いた様子も見せずに、

男が勢いよく刀を振るってくる。


実力的にはほぼ互角。


“集中”すれば行ける自信はあるけれど、

相手も峰打ちだから似たようなものかもしれない。


ただ、向こうは刀を持ち替えれば済む話なのに対し、

僕のほうは時間が必要なぶんだけ不利だ。


この状況を、

どうやって打破するべきか――


「っ!?」


意識の隙間を抉るようにして突き出てきた刀を、

慌ててしゃがんで避けた。


直後、頭上でガラスの破壊音。


降り注ぐガラス片の中を這いつくばって逃げる

/飛んできた蹴りを背中で受けて距離を取る。


い、今のはかなり危なかった……!


うかうか気を抜いてたら、

一瞬で持って行かれるぞこれ。


目の前のABYSSの脅威を再認しつつ、

ずれかけた仮面を直す/次なる攻撃に構える。


琴子を助けるという目的がある以上、

こいつに長々と時間を使っていられない。


さっさと戦闘能力を奪って、

琴子のことを聞き出さないと。


相手の足運びから呼吸を読んで、

虚を突くように前へ出る。


男が反応して足を止める

/防御のための腕を上げる。


その腕が上がりきるよりも先に、

前蹴りを腹へと押し込んだ。


さらに前進――左脇腹へとフックをぶち当て、

左肩で腹へタックルをかます。


それでも倒れない男――

しかしさすがによろめく/たたらを踏む。


その隙を狙って、

ヘルメットを吹っ飛ばすつもりで顎に掌底を放った。


――のれんを押したようなぬるい手応え。


見れば、男は敢えて後ろに倒れ込んでいた。


それで、男の首に行くはずの衝撃が、

男の体を押し倒すだけの力に変えられた。


一応、ダメ元で追撃を試みるも、

素早い離脱によりそれも空振りに終わる。


咄嗟の判断力に感服。

同時に、決定打がないことを理解する。


こいつを仕留めようと思うなら、

“集中”して一気に畳みかけないといけない。


ただ、どうやって隙を作れば――


そう思っていたところで、

あちこちから足音が聞こえてきた。


何事かと警戒していると、黒ずくめの背後の階段から、

幾つもの仮面が廊下へとなだれ込んできた。


音からすると、僕の背中側の階段でも

同じことが起きている模様。


数的には片山の兵隊だろうけれど、

どんなに弱くとも、周りを囲まれるとかなり厳しい。


もし、相手が何かを投げてくるようなら尚更だ。


さすがに手間取りすぎた。


これはもう、目の前のABYSSを倒すことは諦めて、

さっさと離脱する必要がある。


でも――


琴子のことを考えると、それはできない。


僕は何がなんでも、

琴子の情報を持って帰らないといけない。


『誰だそいつは?』と、片山の手下たちが、

僕と黒ずくめのABYSSを囲うように歩いてくる。


この状況で、僕ができることは――


「――えっ?」


その驚く声よりも早く、

一番近かった片山の手下の背後を取った。


そして、首にぐるりと腕を巻き付け、

少しだけ後ろに体を逸らす。


「動くと殺す」


こちらの本気を悟ったのか、

抵抗しようとしてた男が大人しくなる。


それを確認してから、片山の手下と黒ずくめの男、

両方が視界に入るように壁を背にした。


「おい、何ふざけてんだよお前ら?」


「言っておくけれど、

これは冗談じゃないから」


『はぁ?』という間の抜けた声。

仮面が解せないとばかりに首を傾げる。


……ああそうか、僕が変装してるから、

まだ気付いてないってことか。


なら――


「――これで理解したか?」


着ていた外套と仮面を脱ぎ捨てる。


と、波紋が伝うように、

僕を中心にして周囲がざわめき始めた。


「テメ……笹山晶か!?」


『ああ』と短く答えて、

捕らえている男の首を締め直す。


そこから生まれる苦悶の声が、

騒ぐ周りを一瞬にして静めてくれた。


……片山の手下たちはこれで十分。


後はこの黒ずくめの男に、

万が一にも人質ごと殺されないようにしないと――


そう思って目線を向けたところで、


「ぶはははははははっ!!」


いきなり、

黒ずくめの男が大笑いし始めた。


「何だこいつ……?」


そのあまりの呵々大笑っぷりに、

困惑の視線が男へと集まる。


その衆人環視の中、黒ずくめの男は、

フルフェイスのメットを唐突に脱ぎ捨てた。


中から出て来た顔は――


「……龍一っ!?」


「このアホンダラ!

晶だったらさっさと言えやもー!」


「さっさとって……えぇっ?」


黒ずくめの男が龍一ってことは、

龍一はABYSSってことだよな?


それとも、

龍一はABYSSじゃない?


いやでも、

だったらあの強さに説明が……。


「おい、晶!」


「な……なにっ?」


「お前も妹探してここに来てんのやろ?

実は僕もABYSSですーいうんやなくて」


龍一の問いかけに、

困惑しつつも首肯で返す。


「ほんなら、まずはこいつら先に片すぞ。

積もる話はそれからや!」


言って、龍一が片山の手下の壁に突っ込み、

刀の一振りで二人をなぎ倒した。


「――背中、任せてええんやろ?」


にやりと笑う龍一。


そのいつもの龍一っぽい顔で、

ごちゃごちゃ考えていたのが一気にばからしくなった。


そうだ。

龍一の言う通り、考えるのは後でいい。


龍一が例えABYSSでも、

琴子のために動いてくれてさえいれば――


僕の知っているいつもの龍一であれば、

それでいい。


捕らえていた手下の頸動脈を締め、

意識を奪って投げ捨てる。


それから、

素早く龍一と背中合わせに。


「こっち側は任せて」


「よっしゃ。

どっちが先に全滅させるか競争やな」


二人で背中越しに笑い合って、

正面に並ぶ白面を見据える。


それから、後ろで暴れる音に負けないように、

僕も片山の手下たちへと突っ込んだ。





粗方の仮面を昏倒させて、

足の踏み場もなくなり始めていた頃――


ようやく力の差を認識したのか、

連中の一人がとうとう逃げ出した。


臆病は伝染するもので、

そうして一人逃げ始めると、次々遁走が始まっていく。


普段なら見逃すところだけれど、

今回はそれを許すことはできない。


何とか連中の一人を捕まえて、

琴子の居場所を吐かせないと。


「龍一も! 捕まえて!」


振り返って叫ぶ。


そこで、

龍一が誰かと向き合ってることに気付いた。


逃げ惑う仮面を背に、

ただ一人、龍一と正面から対峙するその男――


恐らく、こいつが片山信二……!


「ようやく大将のお出ましか」


「今川……テメェ、何でここにいる?」


「やー、お前らに用事があってな。

――笹山琴子、どこやった?」


「休戦協定はどうした。

テメェはABYSSに手を出さねぇはずだろ?」


「アホか。んなもん、

身内が巻き込まれんかったらの話や」


「お前らが殴ってきとんのに、

俺が殴り返されへん理由がないやろ?」


「そんな話が通ると思ってんのか?」


「通らなかったら、なんや?

協定破棄するっちゅー話か?」


龍一の言葉に、

片山がぎりりと歯を鳴らす。


「破棄するゆうなら破棄すればええ。

俺は身内も守れん協定なんぞ要らんからな」


「ちゅーわけで、いい加減こっちの質問にも答えろや。

笹山琴子、どこやった?」


龍一が抜き身の刀を

片山の鼻先へと突き出す。


「俺は優しーからな、

脅しとるうちに喋ったほうがええで」


「俺がもーっと優しーことに賭けるっちゅーなら、

それでもええけどな」


「……まさかだろ。テメェがABYSSを

二人ブッ殺してんのは、資料見て知ってんだよ」


「ほー。さすが優等生サマは

下調べがええなぁ」


龍一が、

ABYSSを二人殺してる……?


「ほんなら吐けや。

笹山琴子はどこやった?」


「……知らねぇよ」


片山がふて腐れたように答える。

それに、龍一が目を細め、刀の鍔を鳴らす。


口にせずとも殺すと語るその圧力に、

片山は面倒臭そうに『待てよ』両手を上げた。


「確かに浚えって指示したのは俺だ。

だが、その監禁場所までは指定してねぇ」


「連れてくるように言え」


「あー……それがな、バッドなことに、

監禁してるのは最近入ったばっかりのやつなんだよ」


「まだ携帯を支給してねぇから、

こっちからは連絡が取れねぇんだ」


「……ええ度胸しとんな」


「いやいや、さすがにどっちが有利か、

判断できねぇ俺じゃねぇよ。嘘は言ってねぇ」


「んなわけがあるか。

連絡取れんかったら、人質にならんやろが」


「そもそも人質にする気がなかったからな。

犯したらそのままブッ殺すつもりだった」


「はぁ!?」


「おいおい、そんなに驚くことか?

帰す必要がどこにあるんだ?」


この……クズ野郎……!



「まあ、落ち着けよ。

俺は知らねぇっつったが、部下は別だ」


「お前らがブッ倒した奴らの中に、

新入りの番号を知ってるやつがいる」


「どいつだ!?」


「おいおい、バカかテメェは。

仮面つけてんのに分かるはずねーだろ」


「知りたかったら、

さっさと仮面を外していけよ」


片山をブッ飛ばしたい気分に駆られるも、

どうにか気持ちを押さえて足下を見下ろす。


ざっと数えて倒れてるのは十五人ほど。


この連中の仮面を、

全部剥いでいくのか……。


「待っとけ、晶。別に俺らがやることあらへん。

こいつにやらせたったらええんや」


「俺らが仮面外してる間に、

こいつが何かしてくるかも知れんしな」


「おいおい、

人聞きの悪いこと言うんじゃねぇよ」


「念のためや。

別にお前が外しても不都合はないんやろ?」


「当然だろ」


「ならお前が外せや。

――晶、俺らはこいつを前後から見張るで」


龍一の提案に『面倒くせぇな』と

忌々しげに舌打ちをする片山。


それでも、この状況で逆らうような真似はせず、

寝ている手下から仮面を剥ぎ取っていく。


「どうや、あったか?」


「まだ三つ目だ。

急かすんじゃねぇよバカ」


片山が文句を言いつつ、

うつ伏せに倒れていた四人目の手下をひっくり返す。


それから仮面を外して確認――違うと判定し、

次の手下の元へと移動する。


単純なはずなのに、思うよりもずっと時間がかかって、

見ていてもどかしかった。


「……龍一、やっぱり僕も手伝うよ。

二人でやったほうが絶対早いし」


「そんでも、晶……」


「お願い」


「……分かった。

ほんじゃ、俺も手伝ったるよ」



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