生徒会のお仕事1

……SHRも含めて、

一日の授業も全て終わった。


あと残ってる今日の予定は、

生徒会での活動だけだ。


「佐倉さんは……もう帰っちゃってるか」


朝のリベンジに帰りの挨拶を――と思ったけれど、

既に佐倉さんの姿はなかった。


きっとまた、いつもみたいに、

誰にも何にも言わないで出て行ってしまったんだろう。


「佐倉さんがどうかしたのかい?」


振り返ると、温子さんが少しだけ首を傾けて、

僕の体越しに佐倉さんの席を覗き込んでいた。


「ああ……いや、別に何でもないよ。

もう帰ったんだなって思っただけ」


「ふーん……」


「ま、いいや。それより龍一くんを知らないかい?

気付いたらいなくなってたんだけれど」


「あー。昼休み前には帰ったんじゃないかな。

何か用事でもあったの?」


「いや、没収した木刀が、

包みごといつの間にか消えていてね」


「持って帰ったならいいんだけれど、

誰か別の人が変なことに使ったらまずいから」


「あれ、本当に木刀だったんだ……」


じゃあ、真剣に対して

木刀で立ち向かうって話は本気だったのかな?


龍一はかなり身体能力高いとは思うけれど、

得物の性能が違い過ぎるから、さすがに止めないと。


「まあ、それだけ。

それじゃあ、また明日ね」


ばいばい、と手を振って、

温子さんは教室を出て行った。


さて、それじゃあ僕も、

生徒会室に行くか――





「お、一番乗りか」


のんびりと歩いてきたものの、

生徒会室にはまだ誰も来ていなかった。


……なら、今のうちに色々調べておくか。


生徒会室に備え付けの

デスクトップPCを立ち上げる。


それから、真ヶ瀬先輩のお手製の、

学園データベース管理ツールを起動。


このデータベース、

何と全校生徒の個人情報が納めてある。


真ヶ瀬先輩が昔、学園に内緒で作ったものらしく、

もちろん露見すれば大問題になる代物だ。


ただ、先輩曰く特定条件でデータが蒸発するため、

よっぽどのことが起きない限りは大丈夫らしい。


「……よく考えるとムチャクチャだな」


本人は遊びでやってるんだろうけれど、

どこのスパイだよと。


まあ何にしても、過去五年分まで入力されているため、

事件や事故を調べるには好都合だ。


特に、ABYSSみたいなのが本当にいるなら、

それが数字になって現れているはず――


「……なんだけれど、なぁ」


死者で検索したところ、

結果はゼロだった。


「いやでも、完璧に隠蔽されているって話なら、

死人として出てくるのがおかしいのか?」


死んだ扱いをされていないとすると、

他に可能性があるのは……。


失踪・行方不明で検索――

同じくゼロ。


退学で検索――

こちらもゼロ。


転出で検索――


「おっ」


今年度の転校生は、六人。


それ以前は多くても二、三人であるため、

今年は例年より多めに転校していっていることになる。


時期はばらばらだけれど、

単純に割り算をすれば、毎月一人のペースか。


確か温子さんの話だと、

ABYSSの儀式も月に一度。


この六人が、実際は転校じゃなく

殺されているんだとしたら、数はぴったりだ。


「……いやでも、入学した頃からずっと、

人が死んでる感じはしてたしなぁ」


一年半前から見れば、

転校した生徒は七人。


ペースは二、三ヶ月に一人になるから、

儀式の頻度とは釣り合わない……か。


「うーん……惜しいと思ったんだけれど」


「何が惜しいの?」


「うわぁ!?」


耳元でいきなり声が響き、

慌てて横に飛び退いた。


「ま、真ヶ瀬先輩っ?」


「あはは、晶くん驚きすぎー」


「いきなり耳元から声が聞こえてきたら、

そりゃ驚きますよ!」


一般人になって以降、

日常から警戒なんてしていないんだし。


「いやー、ごめんごめん。

晶くんが熱中してそうだったから、ついねー」


「で、何が惜しかったの?」


「え? ああっと……」


どう説明したらいいものか。


適当にごまかしてもいいんだけれど、

この人、物凄く鼻が利くんだよなぁ……。


「先輩、ABYSSって知ってます?」


「もちろん知ってるよ。

調べ物はそれ関連?」


はい――と、

迷った末に、正攻法を選択。


あんまり駆け引きとか得意じゃないし、

先輩相手ならこのほうが多分理解を得られやすいはず。


「ABYSSの噂が本当なら、

死亡してる生徒がいるんじゃないかと思って」


「あー、僕も調べたんだけど、

際だったデータはないんだよねー」


「今年度の転校が多いけど、内情を調べてみたら、

事件性はない普通の転校みたいだから」


……っていうことは、

うちの生徒にABYSSの被害者はいないってことか。


ただ……ABYSSという団体の存在を、

これで否定できたわけじゃない。


この学園で人が殺されているのは間違いない以上、

分かったのは被害者は外部の人間だということだけだ。


「でも、データベースまで見るってことは、

もしかして晶くんもABYSSに興味あるの?」


「まあ、あると言えばありますけれど……」


と答えたところで、ハッと後悔。


が、時既に遅く、

真ヶ瀬先輩の顔がぺかーっと輝いていた。


「よかった。これでやっと晶くんと、

ABYSS退治ができるんだね!」


「……やっぱりそう来ますか」


「もちろんだよ。だって、学園の平和を乱す存在だよ?

生徒会でやっつけないと!」


生徒会も学園の平和を乱してます、っていうのは、

突っ込んでも無駄なんだろうなぁ。


「ちなみに晶くんは、

ABYSSについてどのくらい知ってるのかな?」


「え? まあ……噂に聞いたくらいですかね」


「生け贄を浚ってきて殺人ゲームをするだとか、

凄い権力を持ってて証拠は全部握り潰すとか」


「そうだね。後はぼくの知っているところだと、

部員は超人的な力を持ってたりするらしいよ」


超人的な力……どの程度なんだろう?


暗殺者並みだったりするのかな?


「他には、生け贄に首輪を付けて逃げられなくしたり、

死ぬところを撮影して楽しんでるみたい」


「……さすが先輩、

相変わらずの情報通ですね」


「ふふふ。

何しろ、一年の頃から調べてるからね」


「へー。そんなに昔から

ABYSSの噂ってあったんですか」


「うん。おかげでだいぶ情報も蓄積できたよ」


「そして、いつかその日が来たら、

すぐにでも立ち上がれるように用意していたんだっ」


揚々と語って、真ヶ瀬先輩が

部屋の隅にある開かずのロッカーの前に立つ。


そして、ロッカーを封印していた四桁のダイヤル錠を、

あっさりと外してみせた。


「っていうかそれ、

鍵かけたの先輩だったんですかっ?」


「もちろんそうだよ。

これを隠すためにね!」


じゃじゃーん、というかけ声と共に、

ロッカーが解き放たれる。


そこにあったものは――


武器。武器。武器の山。


近接武器はナイフや警棒から

木刀のような長物まで。


そして飛び道具は手裏剣から始まり、

パチンコ、ボウガン、そして本物か偽物か怪しい銃まで。


「って、何考えてんですか!

こんなもの集めて!?」


「もちろん、

ABYSSと戦うんだよ!」


「このために、どれだけの部活の予算を削減してきたか。

その努力を思い出すだけで涙が出そうになるよ」


「実際に泣いてるのは、

予算不足の部活の人たちですってば!」


「ちなみに、四桁の番号は晶くんの誕生日だから、

危なくなったらいつでも使っていいからね」


「何で僕の誕生日!?」


「晶くんならきっと、

ABYSSに興味を持ってくれると思っていたからね!」


真ヶ瀬先輩が、

キラキラと輝く瞳を向けてくる。


「……頭が痛くなってきました」


さすがは我が学園“三大変人”の一人。


もう何て言うか、

僕の常識では測りきれそうにない。

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