生徒会のお仕事2

「よし、じゃあ早速、

作戦会議を始めようか」


「先輩……そんな本気にならないで下さい。

っていうか、もうすぐみんなも来ますし」


「大丈夫だよ。どうせ今日やることなんて、

つまんない進捗確認くらいだろうから」


「いや、あのですね……」


僕はそこまで興味ありませんから、

と言いかけたところで、ふいに扉が開いた。


「あ。おはよう、琴子ちゃん」


「……おはようございます」


生徒会室の入り口で頭を下げる琴子。


それから、僕と真ヶ瀬先輩を見比べるように

視線を巡らせ――


まるでそうするのが当然と言わんばかりに、

僕と先輩の間へさっと割り入ってきた。


……どうしてわざわざ、

間に入ってくるんだろうか?


というか、どうして琴子が入ってきた瞬間に、

こうピリピリしたものを感じるんだろうか?


「――先輩にお仕事の話が。

友達からの相談なんですけど」


そんな僕の疑問を余所に、

琴子がポケットから取り出した手紙を先輩へ差し出す。


「どれどれ……あー、黒塚さんの件か」


「黒塚さんがどうかしたんですか?」


「んー……ちょっと前に、

一年生の男子生徒が三階の窓から落ちたでしょ?」


「その子、自宅療養中なんだけど、

それをやったのが黒塚さんじゃないかっていう話」


やったって……

窓から突き落としたってことか?


「でも、あくまで噂ですよね」


「うん。噂だったんだけど、

今回初めて目撃情報が出て来たって感じだねー」


「うん。先生に報告するのはちょっと保留して、

ぼくらで調査しちゃおうか」


……まあそう言うと思ってましたよ、ええ。


「面白いからって理由で調査するなら反対です」


「いや、そんな理由じゃないよ」


「ほら、先生方ってせっかちだからさ、

黒塚さんを目撃証言だけで退学にしちゃうかもでしょ?」


「それは……まあ、処分はあるでしょうね。

退学は極端な話でしょうけれど」


「突き落とされた生徒もさ、退学を盾に

黒塚さんを脅すなんてことも考えられるわけで」


「『俺が先生にどう話すかで退学もあるぜ』とか言って、

変なこと要求するとかあり得そうじゃない?」


……確かに、黒塚さんは綺麗な子だったし、

その可能性は否定できないか。


「というか、真ヶ瀬先輩は、

黒塚先輩がやってないと思ってるんですか?」


「ああ、別に琴子ちゃんの友達を

疑うわけじゃないよ」


「ただ、真偽がどうであれ、

この手の脅しはやるやつはやるっていう話」


「だから、ぼくらだけで先に調査をして、

事情とかを全部洗っておくのがいいと思うな」


「そうすれば、脅す余地もなくなるし、

黒塚さんが処分されるとしても妥当なものになる」


「っていう感じだから、

生徒会で調べる方向にしたらどうかな?」


……先輩の本当の動機は絶対に『面白いから』だけれど、

筋の通った配慮ではあるんだよなぁ。


まあ、特に反対する理由もないか。


「いいんじゃないですかね、それで」


「私もそれでいいです」


「じゃあ決まりっと。

デリケートな問題だし、調査はこの三人でやろうか」


「オッケーです。

曖昧なうちは事を大きくしない方針ですね」


「じゃあ、聞き込みする人と

お仕事する人で担当を分けようか」


「お仕事する人……?」


「……どこから出て来たんですかね、

その“お仕事する人”っていうのは?」


「実は、学園祭用のデータ整理のお仕事が

あるんだよねー」


学園祭用のデータ整理……?


「それってまさか、出し物の申請とか、

場所の割り振りとかのやつですか?」


『うん、正解』と

ニコニコ笑顔で答える先輩。


……いやあの、笑い事じゃないんですが。

それ、締め切りが今日中ですよね?


「先輩が担当だったのに、どうして、

今の今までやってないんですか?」


「忙しくてできなかったんだよぉ……」


いや、昨日散々遊びまくってたのに、

忙しくてって……。


「そんな目をしても、お兄ちゃんは騙されません。

――だよねお兄ちゃん?」


「え? あ、うん……まあそうだね」


何で琴子が怒ってるのか分からないけれど、

とりあえず言ってることはあってる。


「さっきの案件は僕らがやりますから、

先輩はデータ整理をやって下さい」


「えー。ジャンケンで決めようよー」


「駄目です」


「どうしてもやってくれないの……?」


「はい。自分の責任を果たして下さい」


「もー、晶くんのいじわる!

もう知らないっ!」


真ヶ瀬先輩がそっぽを向いて、

備え付けのPCでフリーセルを始める。


そんなことしてる暇があったら、

大人しく作業して残業時間を減らせばいいのに……。


まあ、後は先輩の問題だし、

こっちはこっちで作業分担を決めよう。


「琴子は黒塚さんと被害者の聞き込み、

どっちに行きたい?」


「私はどっちでもいいよ」


「そう? じゃあ黒塚さんの……」


「真犯人に『あなたがやったんですか?』って

聞いた人はどうなるんだろうねー?」


「――えっ?」


「よーしクリア。

次はマインスイーパのG級だ」


『ぼく何も言わなかったし聞かなかったよ』とばかりに、

マウスの連打でマインスイーパを起動する先輩。


……さっきのはアドバイス、だよな?


言われてみれば確かに、

黒塚さんのところに琴子をやるのは危ないかもしれない。


「じゃあ、琴子は男子生徒の――」


「見知らぬ男の子の家に女の子が一人で行ったら、

一体どういう風な応対をされるんだろうねー?」


「――えっ?」


「よーしクリア。

ゲームも飽きたし、次は絵でも描いてあーそぼっと」


『ぼくは独り言大好きです聞くのは自由だけどね』

と背中で語りつつ、ペイントのエアブラシを選択する先輩。


その独り言のおかげで、

被害者が自宅療養中だったことを思い出した。


男の家に琴子を一人でやるなんて、

絶対にできない。


かといって、

黒塚さんのところに行かせるのも問題なわけで。


となれば……はぁ。

これしか手は残ってないのか。


「先輩」


「ん、なーに晶くん?」


「調査に協力してもらえませんか?」


「えー。だってぼく、残業あるしー」


「……僕が代わりに残業しますから、

先輩は調査のほうをお願いします」


「お兄ちゃんっ?」


「だって、琴子を調査に行かせたら、

危ない目に遭うかもしれないでしょ」


「そんな……私大丈夫だよ?」


「心配し過ぎて僕が大丈夫じゃなくなるから、

琴子にやらせるわけにはいかないの」


「でも……だったら私が残業すれば……」


「それも同じ理由で却下。

あと、琴子には夕飯作っててもらいたいしね」


「……分かった。

ごめんね、お兄ちゃん」


琴子がしょんぼりと項垂れる。


その小さくなった肩に手を置いて、

気にしないでと慰めた。


「というわけで、僕が残業を引き受けますから、

先輩は調査をお願いしていいですか?」


「でも、三時間くらいかかるよ?」


「別に構いませんよ」


三時間くらいの残業なら許容範囲だ。


「でもでも、そんなに遅くまで残ってたら、

ABYSSに襲われちゃうかもよ?」


「大丈夫ですって」


どうせABYSSなんかいないだろうし。


「それでいいなら、

ぼくはもう言うことないよ」


「じゃあ、先輩は被害者の男子のほうをお願いします。

僕は黒塚さんに話を聞いてみるんで」


「え、両方ぼくでも問題ないよ?」


「や、先輩にも何かあったら困りますしね」


……まあ、それは半分建前。


本当のところは、朝の件があったりで、

黒塚さんのことが気になっているからだ。


色々と話をするには、

いい機会だろう。


「それじゃあ、黒塚さんは晶くんにお願いするよ。

でも、何かあったらすぐに相談してね」


「もちろんです」


「私も何かできることがあったらするから、

手が必要だったら呼んでね」


「うん、その時は頼りにさせてもらうよ」


そんな感じで話がまとまったところで――

ちょうど他の人も生徒会室にやってきた。


黒塚さんの件は三人でと決めていたため、

そこで話題は終了。


何事もなかったかのように挨拶だけして、

それぞれ席へ向かう。


その途中、PCの画面が目に入った。


立ち上げられているペイントツール。


先輩は一体何を描いていたんだろうと、

興味本位でチラ見してみると――


「……おいおい」


全て予測してました的な不穏さを醸し出しつつ、

色紙に名言を描く時みたいな下手文字で――


『晶くんはやっぱり優しいね!』と描かれていた。

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