旧友と級友と2

四時限目の授業が終わり、昼休み――



「いや~、いつも晶のお弁当は

いつつまんでも美味いですな~」


「こら爽、いい加減にしろ!」


「あー、いいよ温子さん。

もう、慣れっこだから」


もう今は、爽におかずを取られることを前提に、

多めにお弁当を作ってきてるし。


「でも晶くん、

甘やかすとずっとたかられるよ?」


「甘やかさなくても食べるもーん」


「お前なぁ……本気で怒るぞ?」


「いやー、それは温ちゃんが、

晶のお弁当食べてないから言える台詞だよ」


「一度食べたらもうね、

コレなしじゃ生きられない体になるから!」


「さすがに大袈裟でしょ」


「いやいや、温ちゃんに食べさせれば、

絶対同じ反応だって」


身振りも交えて絶対と繰り返す爽を前に、

温子さんと顔を見合わせる。


「……じゃあ晶くん、

私もちょっともらっていいかな?」


「あ、うん。じゃあどうぞ」


お弁当箱を差し出し――

温子さんはその中から煮物をチョイス。


ちょっぴり緊張しながら反応を待っていると、

温子さんは唸りながら深々と頷いた。


「ほんとだ……美味しい」


「でっしょー?

あたしの晶、さすがじゃない?」


「爽のじゃないから」


「晶くんのお母さんって、

お料理上手なんだね」


「あ、それ作ったの僕」


「何……だと……!?」


「うっそマジ!?

っていうか、今までのお弁当も全部晶!?」


もちろん――と回答。


……叔父と叔母がいなくなったことは、

まあ敢えて話す必要はないだろう。


「ああでも、妹が作ってたものも入ってるかな。

さっき温子さんが食べた煮物がまさにそれ」


「ほうほう。晶に妹さんがいると?」


「食いつくところが違う」


団子じゃなくて花に食いついてどーするんだ。


「ねー、どんな子? 可愛い?」


「爽にストーキングさせたくないから教えない」


「ってことは、

この妹さんもうちの学園なのかい?」


「――んぐっ」


の、温子さん……

相変わらず素晴らしい推理で。


「あー……ごめん。

可能性の一つとして言ってみただけなんだけれど」


「この学園で晶の妹ってことは、まず一年でしょ?

それで笹山姓ってことは……」


「もしかして、笹山琴子ちゃん?」


「何で一発で名前まで当ててくるのさ!?」


全然似てないのに、

姉妹そろって凄すぎだろ!


「あ、マジで笹山琴子ちゃん?

うひょー! こんなところに繋がりがあるとは!」


「……その感じだと、

琴子のこと元から知ってたの?」


「もっちろん!

あたしの美少女センサーを舐めんなよー?」


いや、舐めるっていうか怖いです。

本気で。


「笹山琴子ちゃんか……。

もしかして生徒会に入ってたりする?」


「……いや、入ってるけれど。

どうして温子さんまで知ってるの?」


「生徒会の会議に吹奏楽部として出た時、

妹さんの名前があったのを見たからね」


「あれ、そんな会議あったっけ?

あたしも部長なのに、全然覚えてないんだけど」


「お前の合唱部だけ、

いつも代理で副部長が出てるだろ」


「っていうか、たまには爽も会議に顔出しなよ?

余所はみんな部長が出てるんだし」


「えー、だって予算会議ってつまんなくない?」


「つまらなかろうが何だろうが出ろ。

どこの部活だってそうしてるんだから」


「ABYSSの部長は出てないじゃん」


「お前なぁ……」


「ABYSS?

うちにそんな部活あったっけ?」


「えーうっそ!?

晶、ABYSS知らないの?」


「え……そんなに有名なんだ?」


「有名と言えば有名な気もするけれど、

知らなくても不思議じゃないから安心していいよ」


……どういうことだろう?


「実在しないってこと。

噂話の中の部活なんだよ、ABYSSは」


「えー、でも実際にありそうじゃんABYSS!」


「実在してたまるか、あんなもん」


「ちなみに、どんな部活なの?」


「んー……そうだな。

一言で表現すれば――」


「“殺人クラブ”」


……何だそれ? 殺人クラブ?


人を殺すのが活動ってことか?


「なんでも、毎月の決まった日に生け贄を浚ってきて、

なぶり殺しにするらしいよ」


「なぶり殺しって……そんな死体が見つかったら、

大騒ぎになるんじゃないの?」


「それが、発覚しないんだって」


「いや、そんなの無理でしょ……」


「私も無理だと思うよ。

でも、所詮は噂話だしね」


曰く――独自のルートがあるとかで、

死体の処理が完璧だということ。


人気のない時間に活動するから、

目撃者もおらず、痕跡も隠蔽できるらしい。


そして、仮に誰かが痕跡を見つけても、

強大な権力で握り潰してしまう――


「誰が考えたのかは知らないけれど、

ファンタジーに片足を突っ込んだような設定だろう?」


「えー、夢があっていーじゃん。

巨大な暗黒組織って感じでさ」


「厨二病の産物だと思うけれどね。

“ぼくのかんがえたさいきょうのそしき”だろ」


「そのくせ、やってることが人殺しっていうんだから、

リアリティに欠けているよ」


「その無駄に大げさなところがいいんじゃん。

金持ちが道楽でやってますって感じでさ」


「道楽にしても、

突っ込みどころが満載過ぎるよ」


……そう。

突っ込みどころはある。


けれど、これを

ただの噂として片付けていいんだろうか?


この学園で定期的に殺人が行われているのは、

毎朝感じる気配からしてもほぼ間違いない。


巧妙に隠されているから発覚していないだけで、

分かる人には分かる。


じゃあ、それを誰がやっているのか――


人を殺して、隠蔽も完璧にやってのけるなんてことを、

どこの誰ならできるんだろうか――


そう考えた時、これ以上ないくらい完璧に、

その殺人クラブは条件を満たしていやしないか?


「ねーねー、晶は信じるよね? ねっ?」


「あー……あったら凄いとは思うくらい?

部員はどんな人なのかなぁとか」


「あ、そういえばさー、

黒塚さんがABYSSじゃないかって噂もあるよね」


「噂だろ、そんなの」


「というか、例え伝聞だろうと、

あんまり人の事を悪く言うもんじゃないぞ」


「そんなの、あたしだって嘘だと思ってるってば。

黒塚さんがそんなことするはずないじゃん!」


「へぇ……爽って黒塚さんと仲いいんだ」


「んーん、これから攻略していく予定」


「……これから仲良くなるなら、

どうして黒塚さんがそんなことしないって分かるの?」


「だって、美人は悪いことしないし!

可愛いは正義!」


「っていうか、悪いことしてたとしても全然オッケー!

むしろあたしが矯正してあげる的な?」


「そうしたらもう、

後は……ぐへへへへ……」


「……」


温子さんとアイコンタクト

/自然と共有される意識――


“とりあえずやっとく?”


“うん、お願い”


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