第15話 動揺-2
下校時刻であり、他の生徒もまばらにはいるのだが、周りのことなんて気にはならなかった。
今気になって仕方ないのは、依然として俺の手を掴んで前を歩く先輩のこと。
数分は無言が続いてしまってることが、苦痛ではないけど、なんだかもったいないなと感じている自分の気持ちの変化についていけなかった。
「崇先輩、」
「…!な、なんだ須永」
ようやく紡いだ言葉に、先輩は足を止めて俺の方に向き直った。
その顔はいつもと変わらない、少しこわばった様な、どこか緊張したような顔をしていた。
呼びかけたものの、自分がなにを話そうとしていたのか実は考えていないことに気づき、俺は所在なさげに目線を泳がせた。
そんなとき、ふと目に留まったのはしっかりと繋がれた、手。
先輩も俺の視線に気づいたのか、その瞬間火がついたようにその手を離された。
それがあまりに急だったので俺はぱちくりと目をあけて、先輩の方をまじまじと見た。
…いや、そっちから繋いだのに…とか思ったけど、そこは突っ込むのもこわかった。
「す…すまん…つい…」
「はぁ…」
その『つい』とはどういう意味なのか…俺がとろくさいからイライラしてつい引っ張ってしまったのか…?いやいや、でも今までの先輩から考えると優しい先輩がそんなことするのかな…
考えてもよくわからんし、なんか先輩もあまりこのことは触れられたくなさそうだから、もうこの話題はやめにしよう。
「先輩、帰りましょう」
「…そ、そうだな」
そうやってまた俺たちは歩き出した。そういえば帰る道、いっつも俺の家の方向だよね。先輩の家ってこっちなのかな。まあ、いいか。
「先輩って、時々不思議と変になりますよね」
「へ、変?!」
先輩は俺の一言にあからさまにショックを受けたようだった。バラエティー番組とかでタライがガーンって落ちたような、そんなわかりやすい衝撃を受けた顔。
その顔がおかしくて、俺は思わず噴き出してしまった。
「なんか、そういう慌てた顔、かわいいです」
先輩に可愛いというのは失礼かと思ったが、事実だし、面白くて可愛い先輩がいけないんだと思い、俺は案外強気にでた。
すると先輩は意外にも柔らかく笑って、
「お前にはかっこいい先輩だと思われたいが、そんな顔を見れるなら可愛いとも、変とも思われても悪い気はしないな。むしろ嬉しい」
「へ……」
な、なななな?!
今なんて…?!
そんな爆弾発言をかましてきたのだ。
先輩やっぱりすごいかっこいいし、そんな笑顔をみせるの、ほんとにずるい。
女の子がキャーキャー言うのわかる…
「先輩…ずるい」
「…なにが」
「そういうのは女の子にいってください。俺が女の子だったら今ので100パー惚れてましたよ」
「へぇ~…はぁ?!ちょ、な、惚れ…?!え?」
「あ、もう家着きましたね。じゃあまた、さようなら~」
「お、おう。またな……………って待て!そうじゃなくて!!さ、さっきの!今のお前どういう意味か説明しろ!おい!」
なんだか下校前から今日はぼや~っとしていて、家に着いたと思ったら眠気が襲ってきた。そっか、今日俺眠かったからなんか昼間からぼーっとしてたんだな…
疲れていた俺は先輩の言葉を聞くことなく、ドアを閉めてまっすぐ自分の部屋のベッドにダイブしたのだった。
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