第14話 動揺-1
「あっはっはっはっ!!ちょっと、それ以上俺の腹筋鍛えてどうしたいの~?!」
日付はかわって、その翌日のお昼。
俺はまたも、屋上に来ている。
結局、昨日はあの後に双子不良にいろいろ質問攻めにされ、まんまと名前と高校など個人情報を明かしてしまった。
メアド教えてください!と双子不良に言われたが、なぜかその次の瞬間に、「や、やっぱいいです~、また高校まで遊びにいきますねっ」と二人揃ってひきつった表情で話していた。
崇先輩がすごい目でにらんでいたから、という理由を俺が知ることはない。
それからは双子と別れ、崇先輩に家まで送ってもらったのだ。俺はいいです、と断ったが、先輩がどうしても送る、と譲らなかったので、大人しく送られることにしたのだ。
…という昨日のあらすじを日比谷先輩に話すと、冒頭のように、爆笑された。それも目に涙を浮かべながら。
あ、ちなみにあらすじでは、俺が先輩に、その…王子様発言したとか、先輩が鼻血出したとかそういうくだりは一切カットさせてもらいました。俺と先輩の名誉のためにも!
「はー、よく笑った。てか崇ってほんとついてなくて笑えるわ~ことごとく邪魔されちゃって、残念でちゅね~」
「…黙れコロスぞ」
「ひ、日比谷先輩!」
もう、日比谷先輩ほんと命知らずだよ。
崇先輩が間違いなく怖すぎる顔をしているだろうから、そっちを見れない。俺まで殺される。
「で、崇はそのまま何もせず帰ったんだ~」
「え?送ってもらいましたけど?」
立派に俺を送ってくれたのではないか?というか、最初から一緒に帰る、というだけではなかったのだろうか。
頭に疑問符を浮かべた俺に、日比谷先輩は首を振って否定を示した。
「ちーがーうー。崇はなーんもできてないよ~」
「…?」
「だって崇はきょーやちゃんに~…」
「おいてめぇいい加減にしろよ…」
「あはっ、ごめんごめん~」
日比谷先輩がにやにやした顔で、俺になにか言いかけたのだが、崇先輩に制されて口をつぐんでしまった。
いったい、何を言いたかったのだろう。
訳がわかりません、というような顔で崇先輩の方を向くと、その顔はもう怒ってはいなかった。
崇先輩は「なんでもねぇから」と呟くと、どこか困ったような顔で、俺の頭をくしゃくしゃと優しく撫でた。
その手が大きくて、あったかくて、俺の心もなぜかあったかくなった。
双子不良は俺たちとは違う王寺高校に通っているらしい。おうじ、という単語を聞いて、俺は顔が熱くなった。
『先輩って…王子様みたいですね…』
「恭弥、」
「うわーーーーーー!!!」
「なんだよ…声でかいって」
先日の下校の時の出来事を思い出してしまって、俺は顔が熱くなった。そんなときに不意に太一に声を掛けられたら動揺するに決まってるよ。
でもそんなこと知るはずもない太一は、俺の顔を不思議そうに見つめていた。
「ご、ごめん…考え事してたから…びびったんだよ」
「ふーん、考え事ねぇ…」
意味深な顔をして、太一は俺の顔をのぞきこんできた。な、なんだよその反応は。長い付き合いだから、太一がこんな顔をしているときは大概言いたいことがあるときだ。そして、そういうときは決まって、
「なぁ、考え事って持田先輩のこと?」
「なんでそれを知ってるんだよ!」
「やっぱり」
「あ」
俺の痛いとこを突いてきて、そして見抜くんだよなぁ。その手に毎回わかっていてもハマってしまう俺も俺だけど。
「わかりやすいよなぁ、恭弥ってそういう弄りがいのあるとこ、俺結構気に入ってるから」
「…そりゃあどうも…」
褒められているのかどうなのか複雑な心境ではあるが、これはすべて白状しないといけないようだ。これで俺の昼休みは終了するのだな、と思うとなんだかため息がでた。
崇先輩のことを王子様みたい…と発言してしまったことは墓場まで持っていこうと決意した。
そんなことを万が一、億が一にも口走ってしまおうものなら、ここぞとばかりにいじってくる人間しか俺の周りにはいない。
あれ、なんか悲しいんですけど。どういうことだ。
放課後になり、俺は気が付けば授業中もなんとなしに崇先輩のことを考えてしまっていたことに衝撃を受けた。太一曰く、心ここにあらずといった表情をしていたそうだ。先生にばれなくて、よかった。
…いやいやいや、そこは大した問題ではない。
むしろ考えてしかるべきはなぜ持田先輩のことを考えていたか、だ。
先輩のあの表情、声、においとか…そういうもの全部をなぜか鮮明に覚えてしまっていて。
顔があつくなる。なんだこれ、どういうこと。
「おい、恭弥」
「はい!!」
「…やっと返事した。ほら、先輩来てるから」
太一は俺が返事したことに少し安堵したようだった。あれ、俺そんなにぼーっとしてたかな。というかまだ俺自身の考えに答え出てないしどんどん迷宮入りしそうなんだけど。
…というか、今なんて言った?せんぱい?
「え」
太一が無言で教室のドアの方をみやると、そこには。
「…たか、し先輩」
「…」
ひええええええなんで先輩いるの!しかも一人で!
クラスには他に帰るクラスメイトもいるけれど、先輩のことをあからさまに避けている。
だってこっちのこと超睨んでるんだもん…
俺と目が合うと先輩はあからさまに目線を外した。ひえええ俺なんかしましたか!
「せ、先輩」
「須永、帰るぞ」
「・・・へ?」
俺があっけに取られていると、先輩は長い足でずんずんとこちらに近寄り、俺からバッグをひったくって俺の腕を取り、というか掴んでその場から俺を連れだしたのだった。
俺の腕をとるその仕草が少し強引だけど優しさをはらんでいるような気がして、俺は鼓動が早まるのを感じた。
…なぜだか、よくわからないけれど。
出る前に太一を一瞥すると、滅多に見せない嬉しそうな優しい笑顔を俺に向けていて、なんだかむず痒かった。
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